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38 異世界最初のラーメン(後半)



 黄金色のスープに沈んだ麺を箸で持ち上げて啜れば、芳醇な鶏の風味が口の中に広がります。


「……うん。我ながらいい出来でございます」


 一心不乱にズバズバ啜って完食、当然スープも完飲してほっと一息。額の汗をぬぐいます。

 少ない回数ですが、試作と試食もやっておりましたから、もう食べて泣くことはありませんけれど……。それでも、感じ入ってしまいます。

 自分で作ったからなのでしょう。

 まだまだ至らぬ点ばかりですけれど、絶対に忘れられない味になりますの。おそらく、ほかの方々にとっても。

 周囲、天幕の下のテーブルを見渡せば……。


「これは美味しいね!」

「当たり前じゃない、あなた。"天上"のお料理ですもの」


 お父様とお母様は、フォークでちゅるちゅると麺を啜っておられます。


「ふうむ、試作には参加しておりましたが、完成品はまた格別ですな。出汁の取り方も豚の柔らかさも素晴らしい! 副料理長(スー・シェフ)徒弟(アプランティ)、この味と技術をおぼえておきなさい。いつか必ず役立ちますから」

「「ウィ、料理長(シェフ)」」


 料理長ドニと厨房の方々にも好評な様子。

 そして……。


「うめー! まじでうめー!」

「おいちーね!」


 ふたりの兄妹は、夢中になって食べております。

 ずるずる、ちゅるちゅると麺を啜り、スープを飲み、チャーシューを噛んで、煮卵を割り……、ふとベルートが、テーブルの脇に立つブリジットを見上げました。


「おねちゃ、たべないの?」

「お? ホントだ。姉ちゃんも食いなよ」

「いえ、私は……。材料ももうないはずですから」


 ブリジットは「メイドですから」と試食への立ち合いだけを希望しておりました。

 けれど、そうはいきませんの。わたくしは、さっと席を立って寸胴鍋の前に移動します。


「あらら~? ブリジット、ちょうど一人分残っておりますので、あなたもお食べなさい!」

「え? 私のぶんは考慮せず、分け切って頂くはずでは……」


 困惑する彼女をよそに、麺を茹で上げ、ラーメンを盛りつけます。


「あの、レオお嬢様?」

「はい、出来上がりですの! 姉弟そろってお食べなさいな!」


 出来上がったラーメンを兄妹の横の席に置いて、椅子を手で引きます。


「……レオお嬢様、まさか、これが目的だったのですか?」

「さて、どうでございましょうね」


 はぐらかすと、ブリジットは少し逡巡しておりましたけれど……。


「おねちゃ、たべよ?」


 ベルートにそう言われ、観念して椅子に座りました。

 フォークを手に取り、丁寧に、一口一口食べ進めていきます。三人、家族で並んで座って……、わたくしはその様子を、腕組みをして眺めておりました。腕組みして仁王立ちできるのはラーメンを作った者にだけ許された特権でございますから。


 ややあって、ブリジットは食べ終わりました。


「さて。ええと……どうでした? お味の方は」


 おそるおそる問うと、ブリジットは隣を見て目を細めました。

 二人は食べたら眠くなったのか、うとうとし始めております。お昼寝の時間ですわね。

 ブリジットは、しばらくその寝顔を眺めて――。


「――ええ。とっても美味しかったです」


 十三歳のメイドさんは、そう、優しく呟きました。




面白い! 続きが気になる! と思われたそこのあなた!


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