37 異世界最初のラーメン(前半)
そして迎えた、ラーメン試食会の日。
からりと晴れた快晴で、絶好のラーメンびよりでございます。
お庭の天幕の下には、お父様とお母様、いろいろ手伝ってくださった料理長ドニをはじめとした料理人、そしてブリジットがいます。
あとは、はじめましての小さなお二人も。
「でっかいお屋敷だな! 金持ちって感じだ!」
「はわー。おやしき、でっけーね、おにちゃん」
お屋敷を見上げる、ブリジットと同じ赤毛の兄妹。十歳の男の子バージル・バイイと、五歳の女の子ベルート・バイイですわ。
「こら、二人とも……! まずは招いてくれてありがとうございます、でしょう」
ブリジットに怒られて、ふたりそろってぺこりと頭を下げました。
「「ありがとーございます!」」
「はい、こちらこそ、来てくださってありがとうございますね」
にっこり笑いかけると、ベルートが「はわ」と顔を赤くし、ブリジットのエプロンを掴んで「おねちゃ、れおじょさま、かわいーね」と耳打ちしました。
かわいいのはアンタのほうでございます、もー。
一方、バージルは真面目な顔でわたくしの肩に手を置いて、ふっと笑いかけてきました。
「レオノルお嬢様さぁ、恋って……知ってる? 僕が教えてあげようか?」
「んッふ」
思わず吹き出してしまいました。これまたおもろい十歳が来ましたわね。ブリジットが慌ててバージルの耳を引っ張って、わたくしから引き離しました。
「いてて、なんだよ姉ちゃん」
「バージル、あなたって子は……! 申し訳ありません、レオお嬢様。行儀よくするよう、言いつけておいたのですけれど」
「あら、それなら、言いつけをきちんと守れている、いい子ってことですわね」
「……もう。ありがとうございます、レオお嬢様」
「ふーん。なんだ、もう姉ちゃんとらぶらぶなのか。残念だなぁ」
「はえ? おねちゃと、れおじょさま、らぶらぶ?」
「こら、バージル! ベルートまで!」
走る回る弟妹を追いかけるブリジット。いつもと違う彼女を見られて大満足ですけれど、本題はラーメンでございます。
はらぺこさんたちを、いつまでも待たせるつもりはありませんし、わたくしだって待つ気はございません。
それでは、本日のために準備してきた材料をご紹介いたしましょう。
出汁は丸鶏をベースに臭み消しとしてニンニク、ショウガ、ネギの青いところを加えて低温で煮出した丸鶏清湯。
タレは白ワインに岩塩と"黒の森"産の干しキノコを数種類加えてアルコールを飛ばし、一晩おいた塩ダレ。
香味油として、鶏皮とニンニクを一緒に低温のフライパンで炒って抽出した鶏油。
麺は王都の鍛冶屋特注の圧延式製麺機を使用。料理長ドニが用意してくれたパスタ用の白くて粒の細かい小麦粉――「精製度の高い高級品ですぞ」――で作った、中加水の細麺でございます。
ただ、動画投稿サイトや自家製麺のお店で製麺工程を見たことがある程度では、実際にやってみてもぜんぜんうまくいきませんでした。パスタのノウハウがある料理長ドニに手伝ってもらって、なんとかカタチになった次第でございます。
トッピングはチャーシューと煮卵、白髪ネギだけ。
チャーシューは、実は丸鶏から出汁を取る際、豚肩ロース肉のブロックも寸胴鍋に、一時間ほど沈めておいたのです。出汁に豚肉の旨味が入ると同時に、豚肉にも丸鶏の旨味が移り、よい塩梅となりました。
その豚肉と茹で卵を塩ダレに漬け込んだものが、チャーシューと煮卵でございます。
ラーメン作りは、下準備が大半を占めます。今日することは、たっぷりのお湯で麺を茹でて盛り付けるだけ。
器にタレ、香味油、スープを注いで、テボで湯切りした麺をそっと入れて麺線を整え、薄くスライスしたチャーシューと煮卵を添えて、白髪ねぎを真ん中に盛りつければ……。
「完成ですわ! みなさま、ご賞味くださいまし!」
異世界最初のラーメンの完成でございます。
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