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34 幕間:ロランの空回り(後半)



 その後も怒涛の展開だった。

 "黒獅子"の背に乗せられ、気づいたら王都まで戻され、無法にも城壁を飛び越えて、母上のところまで案内させられた。むちゃくちゃにもほどがある。

 俺は母上に失望されたに違いなかった。


「くそっ。なんなんだ、あいつは!」


 あの屈辱の日から数日後、俺は王都の鍛冶屋が密集する地区に来ていた。

 ヴァレリーを含む数人の騎士と共に、ある品物を買い付ける用事を言いつけられたのだ。

 いくつか鍛冶屋を回ったが、目当ての品を作れる名工とは知り合えず、次の鍛冶屋に向けて石畳の道を徒歩で移動していた。


「ロラン坊ちゃま、最近は聖女様のことを思い出して悪態を吐いてばかりでございますが、民に聞かれてしまいますよ」

「わかってる。だが、レオノルのやつがしでかしたことを思い出すと……」


 はらわたが煮えくり返るようだ。母上に失望されたら、王になれなかったら、どうする?


「……レオノルが"黒獅子"を単身で調伏してしまったから、騎士を貸し付ける計画も全部白紙だ。悪徳貴族どももいい気分じゃないだろ。どうにかしないと……」


 爪を噛みながらつぶやくと、視界の端からひょこっと金色の頭が現れて、俺に笑顔を向けた。夢にまで見る笑顔だ。俺はその夢を悪夢と呼んでいる。


「あら、わたくしがどうかいたしました?」

「れ……っ、レオノル!? どうしてここに!?」

「ごきげんよう、ロラン様。名前を呼ばれた気がして振り返ったら、ロラン様がいらっしゃったので。ご挨拶にと思いまして」


 飄々とそんなことを言いやがる。レオノルの横には、いつもの眼鏡のメイドもいる。護衛の騎士はいないようだが……、レオノルには必要ないか。


「……鍛冶屋街に何の用だ? まだラシュレー領に帰っていなかったのか」

「明日帰る予定ですわ。今日は機材を買いに参りましたの。ローラー圧延式の製麺機とー、寸胴鍋とー、麺を湯切りするためのテボか平ざるも欲しいですわね」

「本日は仕様を伝えて設計書を作り、注文するだけで終わりそうですが。レオお嬢様の要求する製麺機は、構造が複雑ですので、受け取りは後日になるでしょう」

「なんで製麺機なんて……。いや、いい。どうせお前の考えることはわからん」


 俺はもう、コイツとは分かり合えないと理解した。

 護衛も付けずに製麺機を買いに? 理解しようとするだけ無駄だ。……護衛だけじゃない。あいつもいない。


「おい。今日はあのおっかない黒いのはいないのか」

「ムギと名前でお呼びくださいな。おっかなくもないですし。……あの子を市場に連れてくると、騒動になりそうですから。今は宿屋で寝ておりますの」


 それはそれで騒動になりそうだが。

 眉をひそめていると、眼鏡のメイドが「貸しきりですので、ひとまずは大丈夫かと」と注釈してくれた。


「加えて、大型の使い魔用の首輪を首に付けておりますので、多少目立ちはしますが、さほど大きな騒ぎにはならないはずです」

「というわけですの。赤い首輪の"黒獅子"はムギですから、ほかの"黒獅子"と間違えて倒そうとしないよう、お気を付けくださいませ」

「はん。ほかの"黒獅子"を見る機会があれば、気を付けてやるよ」


 俺の皮肉を気にも留めず、レオノルは首をかしげて俺やヴァレリーを見た。


「それで……。ロラン様は、本日はいかなるご用事で鍛冶屋街に? やはり製麺機の注文ですの?」

「そんなわけがあるか。母上から、ヴァレリーにもなにか品を与えるよう言われたんだ。迷惑をかけたからな」


 実際には、母上のさらに上……悪い大人どもの指図だろうが。


「あら。騎士様に鍛冶屋とくれば、剣ですの?」

「魔法剣だ。杖としての芯材から剣としての機能性まで、すべてにこだわった逸品をオーダーメイドする。高くなりそうだが、仕方ない」


 レオノルはむふふんと生意気に笑った。


「手痛い出費ですわねぇ。これに懲りたら、大人しくしておくことですの」

「大人しくすべきなのは、お前の方だと思うがな」


 そんなやりとりをして、レオノルは生活用品に強い道具鍛冶を回っているらしく、あっさり去っていった。俺たちも次の鍛冶屋へ向かう。当然、武器鍛冶だ。名工と呼ばれる職人がいる店でなければ、要望を満たすことは難しいだろう。

 なんせ、母上からヴァレリーに与えるよう指示されたものは……。


「これはこれは、ロラン王子でごぜえますか。我が工房にいかなる御用で?」

「ああ。聖別された銀の魔法剣を一振り、鍛えてもらいたいんだが」




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