32 特許とお買い物(後半)
わたくしはほくほく顔で市場に向かいますの。
「でも、熱気球が今まで発明されていなかったなんて、盲点ですの」
「空を飛ぶ技術の研究は進められていましたが、翼か箒か絨毯に集中していましたので」
と、ブリジットの注釈が入ります。
風属性の魔法や箒型の魔道具、鳥の翼を模したグライダーなど、それっぽい技術はあるようですけれど、実用性はあまり高くないのだそうです。
テレビで得た知識でございますけれど、地球で気球が発明されたのは十八世紀だったとか。魔法のあるなしや文化についての前提条件が異なるとはいえ、なるほど、この世界でまだ発明されていなかったのも不思議ではありません。
見ていてよかったですわ、ナショナルなジオグラフィーや、世界で不思議を発見するタイプのお番組を。
「火で空気を温めて気球を飛ばす……。うふふ、気密性が高いモンスターの皮とろうそくでミニ気球を作って実演するだけで、大盛り上がりでしたわね」
しかも、こちらの世界には火属性魔法がございます。ミニ気球を大型化するだけで、これまでよりもはるかにたやすく空を飛べるでしょう。……方向転換の手法や推進力の確保については、皆様の試行錯誤にお任せする感じで。
商業ギルドの試験場でミニ気球を実演し、技術と設計を特許登録してもらったところ、その場で見ていた方々から利用申請が殺到いたしましたの!
おもちゃとしてミニ気球を売りたいという商店さんや、技術開発を進めたい学術系ギルドの方々が入れ食いで、がっぽり儲けられましたわ。
「……でも、瓶詰めのほうに大した値が付かないのは意外でしたの」
「私もです。今すぐに実用性を確認できないのが、ギルドの査定を査定を下げたのでしょう。五年後にはその真価が認められて、特許使用料が膨れ上がるかと」
二つの技術のうち、もうひとつ。瓶詰めによる食品保存技術でございますの。
かのナポレオンが、度重なる遠征に際して、兵士の食糧補給の困難さを解決するためにアイデアを公募して、瓶詰めが開発された……でしたっけ。缶詰の原型にあたるもので、気球より大ウケすると思っていたのですけれども。
「食品を瓶に詰めてから瓶ごと煮沸し、空気を抜いて蓋をする技法――素晴らしいです、レオお嬢様。ラシュレー領に戻りましたら、こちらの技術を用いた保存食を、お嬢様の商店名義で量産しておくべきかと。……屋号については、再考すべきだと思いますが」
「えー? 駄目ですの? 『聖女屋』って、シンプルでよいではありませんか」
「……まあ、レオお嬢様がそれでよいなら、これ以上はなにも申しません」
ともあれ、今後は継続的に特許使用料が振り込まれるはずですの。
うっふっふ、地盤が整いつつありますわねぇ。
「ではさっそく市場で材料も機材も大量に買い込みますわよ! 爆買いですの!」
「ええ。ですが、浪費にはお気を付けくださいませ。ひと時に稼いだお金ほど、ひと時に失ってしまうものですから」
たまに思うのですけれど、ブリジットって本当に十三歳なのかしら。
面白い! 続きが気になる! と思われたそこのあなた!
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