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30 王都とルネ・ランボーヴィル(後半)



 ルネ様は、繊細なガラス細工のような美女でございました。透明感のある美貌に、ロラン様と同じ黒髪黒目。一児の母であるはずなのに、少女の幼ささえ感じさせる、触れたら壊れてしまいそうな御方。

 この美しさは魔性と呼ばれるものでしょう。見とれそうになりますけれど、なんとかドレスの端をつまんで一礼いたします。


「わたくしのことは、どうぞレオノルとお呼びください。まだ婚約も確定していない身で義母と呼ばせていただくのは厚かましく……僭越ながら、このままルネ様と呼ばせていただきたいですの」

「いきなり押しかけるのは厚かましくないのか……?」


 だまらっしゃいロラン様。泣かせますわよ。


「あら、ロラン。レオノルさんとはずいぶん親しくお話するようになったのね。わたくしもお会いしたかったから、連れてきてくれて、とても嬉しいわ」

「ええと、母上、その、これにはわけがあって……」


 しどろもどろになるロラン様に、ルネ様はゆっくりと首を横に振りました。


「見苦しい態度はいけませんよ、ロラン。敵につけ込まれてしまいます。あなたは泰然としていなければなりません」

「……はい、母上」

「では、レオノルさん。こちらに参られた理由をお聞きしてもよろしいかしら」

「ええ、喜んで」


 テーブルについて朝食をいただきつつ――王宮のお食事だけあって、パンもスープも一流のお味でございます――"黒の森"でのこと、ヴァレリーさんが老騎士様を囮としたこと、それがロラン様の指示であったことを伝えます。

 ロラン様が他人の命を使い捨てる価値観を育んだのは、わたくしの見立てではルネ様だろうと踏んでいたのですが……。


「騎士への謝罪が欲しいと? 老騎士は納得していたのでしょう?」

「その通りでございます、ルネ様。……騎士様が命を賭して誰かを守ること、それを否定しているわけではございません。ただ、命を賭すことと、命を捨てさせることは、まるで違うとわたくしは思っております」

「……命を使い捨てるな、というわけですか。わかりました。では、その老騎士への謝罪はわたくしがおこないましょう」


 ルネ様は、あっさりとそんな発言をされました。あ、あれ……?

 もっと揉めるかと思っていたのですが、あれれ……?


「母上!? 母上がそんなことをする必要は……!」

「控えなさい、ロラン。ただし、レオノルさん。これはあくまで、わたくしからの謝罪でございます」

「……ロラン様からの謝罪ではない、と?」

「子のしたことには親が謝るものでしょう? この場は、これにて収めていただきたく存じますわ」


 透き通ったお顔で、そんなことをおっしゃいます。

 ……まあ、落としどころではあるでしょう。ロラン様が立場上謝れないことは、納得はできなくても、理解はできます。王様は強くあらねばならず、一挙手一投足に意味が付随するがゆえに、軽々に謝罪はできない――王様を目指すロラン様もまた同様であると。

 個の命の価値を知らない王様になんて、ついていきたくありませんけれど。

 ロラン様本人に謝って頂きたい気持ちはありますけれど、とはいえ、わたくしも少し冷静になる必要がございます。

 ムギ戦の高揚そのままの勢いで王宮まで来てしまいましたが、普通に問題行動ですもの。……どうしましょう。絶対お説教されますわ。


「わかりました。出過ぎた真似をして申し訳ございません、ルネ様」

「いえ、聖女様から諫言をいただけるなんて、ありがたいこと。謝意を込めて、誠意の品をご用意いたしましょう。なにがよろしいですか、レオノルさん」

「そんな、お気遣いなさらず」

「受け取って頂かねば、わたくしたちの沽券にかかわりますから」


 断るな、という強い圧を感じますの。でも、欲しいものなんて特にございませんし。

 このパンをもう十ダースほど欲しいと言ったらくださるかしら。……あ、そうだ。欲しいものというか、必要なものがございましたわね。


「あのー、お金を稼ぐ手段が欲しいんですけれど、なんかイイ感じのやつございませんか?」


 ルネ様は目をぱちくりさせたあと、ふわりと微笑んで「ええ、ありますよ」とおっしゃいました。



 翌日、用意していただいたお宿のふかふかベッドで一緒にゴロゴロしていると、疲れた顔のブリジットと数名の騎士様が到着いたしました。すぐにわたくしを追いかけて、ラシュレー領を出発したのでしょう。川を下って船の旅。楽しそうですわね。


「レオお嬢様、お説教がいくつかありますけれど、その前に……。ルネ・ランボーヴィル様から、なにかを受け取られたとお聞きしましたが、いったいなにを?」


 わたくしはベッドの上でえっへんと胸を張りました。


「誠意の商店経営権をいただきましたわ! ルネ様のお墨付きで、王都だろうがどこだろうが、レヴェイヨン連合王国内であれば自由に商売ができるそうですの!」

「……レオお嬢様、お説教、倍でございます。旦那様と奥様からも『自分達のぶんも叱っておいて』と命じられておりますので、都合、六倍のお説教ですね」

「なぜですの!?」


 よく考えてみれば、相談もなく勝手にそんなことしたのですから当然ですわね。とほほですの。


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