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29 王都とルネ・ランボーヴィル(前半)



 風のように駆けるムギに乗って、いくつかの関所を飛び越えながら走ること数時間。翌朝早朝には、王都に到着いたしましたの。

 小高い丘に立つ王宮を中心に円形の街が広がり、外側を分厚い城壁で囲む構造です。なんでしたっけ、ドイツのネルトリンゲン的な……? かなり大きさは違うようですけれど。近くに広い川も流れておりますし。

 正門に続く街道は人通りが多く、ムギがいると騒ぎになりそうですので、王都周辺の広大な小麦畑の中に潜んでいたところ……。


「――はっ! 俺はいったい……?」


 わたくしの前でムギの背中に顔を押し付けて気絶していたロラン様が、ようやくご起床のようでございます。


「起きましたの? じゃ、行きますわよ。ロラン様のお母様のところまで、案内してくださいまし。よく考えたら、どこにいるのか知らないんですわよねぇ」

「待て、"黒獅子"に乗ったまま門を通れるわけがないだろう。ここまで来てしまってなんだが、一度引き返して、ちゃんと手続きを踏んで……」


 起きた途端に面倒なこと言い出しますわねぇ。


「ムギ、ダッシュからの大ジャンプであの壁を越えられませんか? 正門と見張りを回避して、こう、ビューンと」

「おい、だからちゃんと手続きを――!」


 悲鳴をあげるロラン様でしたが、今回は気絶しませんでしたの。成長ですわね。


 ムギが音もなく降り立った場所は、そこかしこに色とりどりの布天井を張った屋台が出ている市場でした。早朝ですけれど、活気にあふれておりますの。


「まあ! こんなに大きな市場、初めて見ましたの」

「ぐえ、うお、吐きそう……。おいちんちくりん、知らんなら教えてやる。王都レヴェイヨンは竜の都だ。連合王国中から名品、珍品が集まっているし、商人も多い。これほどの市場は、他にはないんだぞ。すごいだろう」

「それは素晴らしいですの! 朝ごはんがてら、ちょっと買い食いしませんか? ……あ、わたくし、お金を持っておりませんわ。残念ですの。ロラン様、小銭を課してくださいな」

「王子が小銭など持っているはずないだろう。……おい、本当に母上に会うつもりなのか?」


 あら、まだ今さらな質問をなさりますのね。ひとまずムギを丘の上に立つ王宮のほうに歩かせますか。


「そのために来たのです。お嫌なら、わたくしだけで王宮に押し入りますけれど」

「ぐ……。わかった、母上のところまで案内する。だが、決して暴れるんじゃないぞ。母上は、あまりお体が強くないんだ。本来は、お前のような乱暴者が会っていい方じゃないんだ」

「乱暴者て。わたくしがいつ乱暴いたしましたか? ……ロラン様には会うたびに何かしらやっておりますわね! あーらごめんあそばせ!」

「おまえな……!」


 黒いライオンに乗る子供二人が目立つのか、めちゃくちゃ衆目を集めておりますけれど、まあ気にせず参りましょう。

 王宮に近づくと、さすがに衛兵がワラワラやってきてわたくしたちを取り囲みました。聖女手刀の出番かしらと思ったら、ロラン様がムギから飛び降りて、「俺だ、ロラン・ランボーヴィル・レヴェイヨンだ!」と堂々と名乗りを上げます。


「ロ、ロラン様!? いや、たしかに本物ですが、今はラシュレー領におられるはずでは? それに、そちらのモンスターは……」

「ああ、このモンスターは"黒獅子"だが、こちらにおられる聖女レオノル様が調伏し、いまは使い魔として付き従っている。レオノル様は、西の塔で我が母上との対面をご要望だ。通してもらいたい」


 ……様ァ!? あなた、わたくしに様付けとかできたんですのね!?

 対外的にはいい子ちゃんなのでしょうか。……なぜその態度を、わたくしにも向けられないのです?


「失礼いたしました。すぐにご案内いたします。……ただ、そちらの"黒獅子"だけは、その、建物内部には……」

「わかっている。"黒獅子"は庭だけだし、俺たちも王宮本棟には入らん。西の塔に行くだけだ。母上にも先触れを。……おい、ちんちくりん。行くぞ」


 は、はあ。

 少し驚きつつ、ムギを連れて門をくぐります。王宮内はかなり広く、建物だけでなく広大な庭も内包しているのですが、西の塔は本棟から離れた場所に立っておりました。

 塔の前の庭には、この短時間でよく準備したものですけれど、椅子とテーブル、それからパンとスープの朝食が三セット用意されております。……しかも、パンはバスケットに山盛りで用意してございますの。わたくし用ですかしら。

 そして、テーブルの傍には美しい女性が立っていて、わたくしに向かって優雅に一礼なさいました。わたくしも礼を返します。


「ごきげんよう。お初にお目にかかります、ルネ様。わたくし、レオノル・リュドア・ラシュレー。辺境伯令嬢でございますの」

「はじめまして、聖女様。わたくしはルネ・ランボーヴィル……。どうぞ、わたくしのことは、義母(はは)と呼んでくださっても構いませんよ」


 圧つっよ、でございますの。




面白い! 続きが気になる! と思われたそこのあなた!


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