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26 聖女と"黒獅子"(後半)



 のそりと"黒獅子"が起き上がり、わたくしを睨みつけました。

 ……鼻先を前足で押さえている姿は、少し愛嬌を感じますわね。


「殴れるなら、やりようはございますの」


 両こぶしを握って、ファイティングポーズをとるわたくし。

 六歳児ゆえ、タッパもリーチもありませんけれど、巨体を誇る"黒獅子"からすれば自分を殴り飛ばせる豆粒が縦横無尽に殴りかかってくるようなもの。アドバンテージだと考えましょう。


「よほど強い魔力でなければ、半精霊には干渉できないはず……。これも聖女様のお力なのですかねぇ?」


 と、ヴァレリーさんのお声が背後から。あー……。もしかして、ですけれど。

 【飢餓のテクセリア】から供給される魔力を使った身体強化を、わたくしは日常的に使用しております。そこに重ね掛けを行っておりますので、属性が上位属性に昇華されるように、身体強化も上位のナニカに変化したのではないでしょうか。

 帰ったらブリジットに聞いてみましょう。いま大事なのは、理屈ではなく事実ですもの。

 ――殴れるという事実が。


「騎士の皆様、お逃げくださいな」

「しかし、レオノルお嬢様!」

「巻き込みますわよ、逃げないと」


 ラシュレー領の騎士が苦い顔でうなずいて、「お嬢様! ご無事で!」と言い残し、馬をなだめながら、ヴァレリーさんたち、外様の騎士様たちも連れて去っていきます。

 彼らは【飢餓】のことは知りませんけれど、わたくしのおゴリラパワーと、お屋敷を吹き飛ばしかけた事故のことは知っておりますの。

 "指先"は、まだまだコントロールが完全ではありません。この"黒獅子"に攻撃として通用するほどの威力を出すのは避けたいところ。わたくし自身の身体強化をぶち抜いて、自分を傷つけかねません。ゆえに、最後の手段だとして……。


「さらにもう一重、重ねましょうか」


 身体強化を行使。これで三重の身体強化ですの。今のわたくしはまさにおゴリラおゴリラおゴリラ状態。ニシローランドレオノルなのです。


「さ! "黒獅子"さん、殴り合いましょうか!」


 わたくしは弾丸のように跳びあがり、再度、"黒獅子"の爪と交錯いたします。

 ……そこからの戦闘については、淑女らしからぬ肉弾戦、主にパンチやキックや爪や牙や頭突きや体当たり等々でございましたので、秘密にさせていただきますけれど。


 結論から申し上げますと。


「ただいま帰りましたの~!」


 泥だらけになったわたくしは、無事、お屋敷に帰ったのでございます。……かなりサイズが縮み、通常のライオンほどの大きさになった"黒獅子"の背に乗って。

 わたくしを助けに行くための騎士隊を編成していたお父様に「レオノル、その黒いライオンはなにかな?」と問われました。


「なんか、殴り合う中でお互いに『お前やるな』的な感じになりまして。こう、友情が芽生えたと申しますか……。いいサイズまで縮みましたし、連れて帰れるかなと思いまして。あ、名前はムギにしましたの。かわいいでしょう?」


 にっこり笑顔で紹介しましたけれど、みなさん頬をひくひくさせております。

 ムギも機嫌よく、ぐるるる……、と低い声で唸ります。カワイイ♥

 ……騎士様の何人かが泡を吹いて倒れましたわね。なぜかしら。

 お父様が「こほん」と咳を打ちました。


「レオノル」

「はいですの」

「元の場所に戻してきなさい」

「そんな! ムギとはもう固い絆で結ばれておりますのに!」

「いや、絆って。殴って言うことを聞かせただけじゃないのかい……?」


 そこで、ブリジットが丸眼鏡をくいっとして「ふむ」と呟きました。


「旦那様。あながち間違いではないかと。使い魔契約のパスがつながっているようです。レオお嬢様の言うことを聞くでしょうし、安全だと思いますが……」


 疲れた顔で、お父様が溜息を吐かれました。幸せが逃げますわよ?


「伝説の災厄たる"黒獅子"と契約とは……。伝え聞いていた聖人、聖女の伝承とはずいぶん違うな、我が娘は。どうしたものか……」

「ね、お父様! 飼ってもよいでしょう? ね? ね!?」


 最後はお父様も「まだ人を殺してはいないし、なにかあっても"黒の森"より監視しやすいか」と渋々認めてくださいました。よかったよかったですの。

 ……ただ、ひとつ、確認事項が残っております。

 ねえ、庭の端っこで何食わぬ顔をしている紫髪の女騎士様?


「ところで、ヴァレリーさん。老騎士様を連れていくよう命じたのは、ロラン様でお間違いないかしら」




面白い! 続きが気になる! と思われたそこのあなた!


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等々で応援していただけると大変嬉しく思いますわ~!


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