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21 幕間:ロランの悪だくみ(前半)



 王宮に戻った俺を待ち受けていたのは、物憂げな母の顔だった。


「ロラン。聖女レオノル嬢とは、うまくいかなかったそうね」


 そう言われて、歯噛みする。俺は満足な役目を果たせなかったのだ。


「……申し訳ございません、母上」

「謝る必要はないの。なにも悪くはないのよ、ロラン。でもね、よく聞いて」


 父上――レヴェイヨン王から我が母ルネ・ランボーヴィルに与えられた一室は、王宮の端の塔にある。王宮とは思えないほど質素で物の少ない部屋で、余計なものはひとつもなく、絨毯も壁も白く塗られていて。

 なんというか、いつ見ても、母上みたいな部屋だと思う。

 その部屋の真ん中に、これまた白いソファがあって、体の弱い母上は、いつもそこで寝そべっている。


「あなたのためなの、ロラン。あなたのために、やっていることなの。あなたのために、やらせていることなのよ、ロラン」


 ソファから立ち上がって、母上は俺に歩み寄り、抱きしめた。


「あなたは王になるのよ、ロラン。そうすれば、怖いものはなにもなくなるのですから」


 ぎゅう、と痛いくらいに抱きしめられる。俺もまた、母上の背に手を回して、精一杯力を籠める。


「……はい、母上。俺は、必ずや王になってみせます」


 いつも通り。俺は、そう答えた。



 白い部屋を出て、塔の階段を降りながら親指の爪を噛む。行儀は悪いが、耐えられなかった。


「くそっ、あいつのせいだ。あいつが……!」

「ロラン坊ちゃま。お怒りをお鎮めになってくださいませ」


 俺の後ろ、階段の二段上を歩くヴァレリーが、さらりと言う。


「婚約は保留ですが、縁を結べただけで上出来とも言えます。悪縁も縁のうちでございますからねぇ。……成長したとき、お漏らししていた頃からの付き合いだと言い張ることもできますよ。あら、立派な幼馴染じゃないですか。素敵!」

「うるさいぞ、ヴァレリー! ……レオノルに勝ちたい。稽古を増やせ! 今日もこのあと稽古をつけろ!」

「鍛えすぎると、背が伸びなくなりますよ? 五年後までに、という話になったでしょう? お急ぎにならなくてもよいのでございます」

「あいつに勝てるなら、チビでもいい! 早急にわからせたいんだ、あの聖女を! だって、そうじゃないと……!」

「そうじゃないと?」

「……なんでもない! いいから、稽古を増やせ!」


 そうじゃないと、母上に嫌われてしまう――、という言葉は、気安いヴァレリー相手でも、さすがに口に出せなかった。だが、いつか嫌われてしまうかもしれない。こんな、なにもできない俺なんて。


「ま、わかりました。無理のない範囲で増やしましょうか。ただ、今日は無理でございますねぇ。アタシはこれから行くところがございますので」

「……悪い顔の大人のところか」


 ヴァレリーは答えなかった。だから、そういうことなのだろう。

 後ろにいるから顔は見えないが、きっと、いつも通りの飄々とした顔をしているに違いなかった。


「あいつらに伝えろ。俺は必ず聖女レオノルを嫁にする、だから……。母上を頼む、と。母上だけは、どうか守ってほしいと、伝えてくれ」

「……はいはい。まったく、アタシは損な役回りでございますねぇ」


 顔は見えないが、"蝮竜"が大きな溜息を吐いていることは、よくわかった。



面白い! 続きが気になる! と思われたそこのあなた!


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