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20 ラーメン製作計画(後半)



 お、お金……?

 完全に盲点でございました。当たり前ですけれど、物を集めるには相応の金銭が必要になりますわね。うっかりミスですの。


「でも、ブリジット。不可能は言い過ぎではありませんか? だって、鶏などのちょっとした食材と、調理器具ですわよ。なにが高いって言うんですの?」

「その鶏ですよ、レオお嬢様。いいですか、鶏は卵を産むものです。卵を産めなくなった雌鶏や、繁殖できなくなった雄鶏は屠畜されますが、ひとつの農家が年に五羽ほど絞める程度でしょう」


 ね、年に五羽程度?

 つまり、食肉としては、あまり流通していない……?


「で、でも、先だっての祝勝会では豚肉がございましたわよ? ローストポーク、いただきましたよね? 豚が食肉として流通しているのに、鶏は流通しておりませんの……?」

「……ええと、察するに"天上"では豚よりも鶏が安く、また、どちらもたくさんの量が流通していたのでしょうか」


 察する能力、たっか!

 うんうん、と首を縦に振ると、ブリジットは顎に手を当てて少し考えました。


「どう説明したものでしょう……、どちらも決して安くはないのですが、そもそも種類が違うと言いますか……。というか、これまでの"天上"のお話からも察するに、あらゆるお肉がとんでもない量、流通していたのではありませんか?」


 やだ、当家のメイド、察しすぎ……!? さすがブリジットですの。

 ぶんぶん首を縦に振ると、彼女は「では、まずは出回る食用肉、獣肉についての説明をしたほうがよいでしょうね」と言って、お部屋の本棚から動物図鑑を取り出して机の上に広げました。


「ええとですね。まず、豚は年を越せない獣なので、繁殖用の少数を残して、年末までには屠畜してしまいます。それが塩漬けや燻製、魔術での冷凍等で保存されているため、流通量はそれなりにあるわけですね」

「……え? 年を越せない? なぜですの?」

「エサの量が減って、死んでしまうからですね」


 エサが減る? ええと、豚の餌と言えば……コーンでしたっけ。いえ、これはあくまで地球の話ですわね。畜産が工業化されていないこの世界では……。


「豚は森のどんぐりなどを食べて育ちます。ほかの家畜のように、草を食べない(・・・・・・)のです。豚肉の入手が比較的たやすいのは、"黒の森"の浅いところ、安全が確保されている場所を歩かせて、木の実を食べさせているからですね」

「あー、イベリコ的なやつですのね? なるほど、むしろ、地球でも本来はそういう飼い方だったのでしょうねぇ」

「いべりこ……? と、いうのは、よくわかりませんけれど、豚は一年あれば食用に向いた大きさに育ちますし、食肉以外の使い道が牛や馬ほど多いわけではありませんから、流通しやすいのです」


 等々と、図鑑を見ながらブリジットの解説を聞きます。

 で、聞いた内容をまとめますと。


 鶏――エサは虫や穀類、草類など雑食。勝手に地面を啄んでミミズとか食うので放し飼いに向く。卵が非常に有用であり、品種によっては十年近く生きるため、積極的に食肉として利用するのは勿体ない。鶏卵目当てでの飼育が基本。老いた鶏が絞められて市場に流通するほか、貴族向けに若鶏が絞められることもある。高くはないが、安くもない。


 豚――エサはどんぐりや虫など雑食で、森を歩かせれば勝手に食べる。が、草は消化できない。一度で十頭前後の仔を産むため繁殖させやすいが、エサの乏しい冬に複数頭を飼育するのは難しいため、少数を除いて年越し前に屠畜される。加えて、生後半年ほどで食べごろを迎えるため、食肉としては一番メジャー。冬に屠畜したものは塩漬けや燻製や乾燥加工、あるいは魔術による冷凍処理などで保存する。高くはないが、安くもない。加工品なら鶏より安い。


 牛――エサは主に草類で草食。双子等でなければ一度に一頭を産むため繁殖速度は遅い。牛牽き鋤(プラウ)など牽引する役畜としての利用、乳牛としての利用、それから食肉としての利用と便利。越冬可能で、レヴェイヨン連合王国内の牧草地ならどこでも放牧されている、もっともメジャーな家畜。ただし、乳を出すまで二年以上、食べごろとなると五年以上かかるため、食肉としては高級品にあたる。


 羊、山羊――エサは主に草類で草食。羊毛がとれる。肉や乳もとれる。牛同様にレヴェイヨン連合王国ではメジャーな家畜で、牛と共に放牧されていることが多い。羊毛と乳と脂が利用でき、豚よりも環境の変化に強いため、遊牧民が好む。牛よりは安い。


 モンスター――そもそも凶暴なので飼育に向かない。精霊等の知能の高いモンスターを手なずけることは可能だが、飼育ではなく魔法による主従契約である。根本的に魔力が濃すぎて食べるべきではない。食べると魔力中毒を起こして死ぬこともある。"黒の森"に近いヴァレリー辺境伯領ではそれなりに流通しているが、基本的に安い。食べるもののない貧民や、モンスター肉が好きな好事家が食べる。


 以上ですの。

 うん。なっっっがいですわねぇ、説明が。


「……ちょっと知識が多すぎですの。これ、ほかにも兎とかウズラとか鳩とか、ジビエもあるんでございましょう? 頭が追い付きませんの……」

「そうですね。ラーメンの材料になりそうなのは鶏と豚とのことですが、やはり、相当な出費は覚悟されたほうが良いでしょう」


 ブリジットが「鶏十羽」に驚いた理由がわかりましたの。そりゃ、ビビりますわよねぇ。

 わたくしが、まだまだこの世界について理解できていないってことが、よく理解できましたの。……地球で生きていた頃も、地球のことを理解できていたわけではありませんけれど。

 よく考えたら、頻繁に食っていたラーメンのその原材料が、どこでどう作られ、育てられ、わたくしの口に届いていたかまでは知りませんものね。

 ラーメンについては詳しいつもりつもりでしたけれど、浅かったですの。にわかでしたわ。


 こうなると、鶏より手に入れやすいであろう豚骨をベースにしたラーメンに計画を切り替えることも、一考しなければなりません。しかし、いきなり豚骨を煮込むのは、丸鶏よりはいささかハードルが高い気も……。

 いえ、それにしたって、どちらにせよ資金は必要です。お忙しいお父様やお母様の手を煩わせるわけにもいきませんし……。


「ああ……! それにしても金が欲しいっ……! ですわ!」

「レオお嬢様、口調が乱れておりますよ」




面白い! 続きが気になる! と思われたそこのあなた!


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