17 思い出の味(前半)
一日三回、朝7時、昼12時、夕方18時に更新しておりますわ~!
読み飛ばしにご注意くださいませ~!!
問われて――、わたくしは言葉を詰まらせてしまいました。
「……レオお嬢様? 大丈夫ですか?」
「いえ、大丈夫ですの。少し、"天上"のことを思い出してしまって」
正確には、地球のことですけれど。
わたくしが、ラーメンを好きになった理由?
もちろんおぼえております。けれど、説明するのは、とても難しいのです。
廊下を歩いているうちに、自室まで辿り着いておりました。神託によって予定がずれ込みましたけれど、本来はお勉強の時間。さっそく、ブリジットの座学が始まります。
……しかし。
「レオお嬢様、あの、本当に大丈夫ですか? お医者様を呼びましょうか」
「……それには及びませんの。少し、疲れてしまったようで」
まったく集中できず、さらに心配させてしまいましたの。
わたくしの下手な言い訳に、しかし、ブリジットは納得したようにうなずきました。
「神託もございましたし、お体に少なからず負担があったのでしょう。私の配慮が至りませんでした。本日の授業はお休みにして、レオお嬢様はしっかりとお休みになられてくださいませ」
いえ、本当に大丈夫ですの――、という言葉は聞き届けられず、てきぱきと寝間着に着替えさせられ、ベッドに寝かされてしまいました。以前から姉力が高いと思っておりましたけれど、実際に弟妹がいるからでしたのね。
そのまま、ベッドわきで子守唄まで歌い始めてしまうものですから、わたくしもつい――。
●
夢を、見ました。
古ぼけた外観の、赤いのれんのお店に行く夢です。あるいは、思い出と言うべきかもしれません。
わたくしは高校の制服を着て、泣きはらしてぐちゃぐちゃになった顔で、黙ってカウンター席に座っています。
「ラーメンでええか?」
隣の席に座った、真っ黒な服を着たしわくちゃのおばあちゃんが、わたくしに――いえ、私に、ぶっきらぼうにそう問いかけました。
「……なにも食べたくない」
つっけんどんにそう答える私。けれど、祖母は私の意見は無視して、しわくちゃの店主さんに「ラーメン二つ、大盛りや」と注文しました。
「ええか、気持ちがしんどうて、なんも食べたくないときはな。ラーメン食うたらええねん」
「……なんでラーメンなの。だいたい、食べられないよ、大盛りなんて」
「あったかくてしょっぱくて麺類やから食いやすいやろ。ええから食え。とりあえず一口だけでええから」
やがて、カウンターに置かれたのは、本当に素朴なラーメンでした。
鶏ガラの清湯スープに醤油ダレと鶏油をあわせ、薄いチャーシューと刻みネギと業務用のメンマを載せただけの、よくあるラーメン。
なのに、なんだかとてもいい匂いがして。どんぶりに箸を差し込んで、最初は一口だけのつもりで麺を啜り、スープを飲んで……。気づくと、一心不乱に食べ進めてしまっていました。
「泣いても、悲しくても、苦しくても……、人間の腹は減るんや。残酷やけど、人間が人間である以上、これはもう仕方ないことなんや。せやから、泣いたぶん、悲しんだぶん、苦しんだぶん、食わなあかん。減ったぶん、取り戻すためにな」
私は返事もせず、泣きながらラーメンを食べていました。
いま思えば、あの時からだったのでしょう。
私にとって、ラーメンが大事な食べ物に変化したのは。
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