表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/69

17 思い出の味(前半)

一日三回、朝7時、昼12時、夕方18時に更新しておりますわ~!

読み飛ばしにご注意くださいませ~!!




 問われて――、わたくしは言葉を詰まらせてしまいました。


「……レオお嬢様? 大丈夫ですか?」

「いえ、大丈夫ですの。少し、"天上"のことを思い出してしまって」


 正確には、地球のことですけれど。

 わたくしが、ラーメンを好きになった理由?

 もちろんおぼえております。けれど、説明するのは、とても難しいのです。


 廊下を歩いているうちに、自室まで辿り着いておりました。神託によって予定がずれ込みましたけれど、本来はお勉強の時間。さっそく、ブリジットの座学が始まります。

 ……しかし。


「レオお嬢様、あの、本当に大丈夫ですか? お医者様を呼びましょうか」

「……それには及びませんの。少し、疲れてしまったようで」


 まったく集中できず、さらに心配させてしまいましたの。

 わたくしの下手な言い訳に、しかし、ブリジットは納得したようにうなずきました。


「神託もございましたし、お体に少なからず負担があったのでしょう。私の配慮が至りませんでした。本日の授業はお休みにして、レオお嬢様はしっかりとお休みになられてくださいませ」


 いえ、本当に大丈夫ですの――、という言葉は聞き届けられず、てきぱきと寝間着に着替えさせられ、ベッドに寝かされてしまいました。以前から姉力(アネヂカラ)が高いと思っておりましたけれど、実際に弟妹がいるからでしたのね。

 そのまま、ベッドわきで子守唄まで歌い始めてしまうものですから、わたくしもつい――。



 ●



 夢を、見ました。

 古ぼけた外観の、赤いのれんのお店に行く夢です。あるいは、思い出と言うべきかもしれません。

 わたくしは高校の制服を着て、泣きはらしてぐちゃぐちゃになった顔で、黙ってカウンター席に座っています。


「ラーメンでええか?」


 隣の席に座った、真っ黒な服を着たしわくちゃのおばあちゃんが、わたくしに――いえ、私に、ぶっきらぼうにそう問いかけました。


「……なにも食べたくない」


 つっけんどんにそう答える私。けれど、祖母は私の意見は無視して、しわくちゃの店主さんに「ラーメン二つ、大盛りや」と注文しました。


「ええか、気持ちがしんどうて、なんも食べたくないときはな。ラーメン食うたらええねん」

「……なんでラーメンなの。だいたい、食べられないよ、大盛りなんて」

「あったかくてしょっぱくて麺類やから食いやすいやろ。ええから食え。とりあえず一口だけでええから」


 やがて、カウンターに置かれたのは、本当に素朴なラーメンでした。

 鶏ガラの清湯スープに醤油ダレと鶏油をあわせ、薄いチャーシューと刻みネギと業務用のメンマを載せただけの、よくあるラーメン。

 なのに、なんだかとてもいい匂いがして。どんぶりに箸を差し込んで、最初は一口だけのつもりで麺を啜り、スープを飲んで……。気づくと、一心不乱に食べ進めてしまっていました。


「泣いても、悲しくても、苦しくても……、人間の腹は減るんや。残酷やけど、人間が人間である以上、これはもう仕方ないことなんや。せやから、泣いたぶん、悲しんだぶん、苦しんだぶん、食わなあかん。減ったぶん、取り戻すためにな」


 私は返事もせず、泣きながらラーメンを食べていました。

 いま思えば、あの時からだったのでしょう。

 私にとって、ラーメンが大事な食べ物に変化したのは。



面白い! 続きが気になる! と思われたそこのあなた!


・おブクマ

・下のお☆でお評価

・おいいね


等々で応援していただけると大変嬉しく思いますわ~!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ