15 薄幸メイドの望み(前半)
一日三回、朝7時、昼12時、夕方18時に更新しておりますわ~!
読み飛ばしにご注意くださいませ~!!
さっそく、お父様に女神様からの警告をお伝えするため、執務室へ向かったわたくしでございます。
普通は「六歳の幼女がなにを……」と言われそうなものですけれど、聖女の神託はわけが違うようです。話を聞いたお父様は経理書類を放り出して床に膝をつき、わたくしと視線をあわせました。
「本当なんだね? 女神様が、"黒の森"に厄災が迫っていると仰ったんだね?」
「ええ。どういう厄災かはわからないそうですけれど……」
「いや、おおよその予測はつく。衛兵に警戒指示を出そう。街の冒険者たちに聞き取りと、いざというときのために避難経路の見直しもしないとな」
立ち上がり、あわただしく秘書さんたちに指示を出し始めます。
「あ、あの、お父様? 予測とは……?」
「最近、"黒の森"に潜った冒険者たちが、複数のモンスターの死体が見つけている。老いた大蜥蜴や、五百年レベルの年輪を持った樹霊など、かなりの大物だ」
お父様はおシリアスなお顔で、目を細めました。
「まさかとは思っていたが、女神様のお告げがあったのなら、おそらくそうなのだろうね。……"黒獅子"が生まれた可能性が高い」
「黒獅子? と言いますと、あの、絵本の?」
聖人ジャンの炎属性の魔法で撃退されていた、真っ黒なライオン。
絵本の見開きページの大半を占めるほど巨大に描写されていた、"死を告げる黒獅子"が、災厄の正体なのですか?
「あの、お父様。"黒獅子"って、そんなに危ないんですの?」
「すまない、レオノル。僕はすぐに行かなければ。――おい、きみ。ルイーズに準備をさせてくれ、彼女にもギルドに同行してもらいたい。あと、ブリジットを呼んでくれないか」
秘書のひとりに声をかけてから、ちらりとわたくしを見て微笑みました。
「レオノル。ブリジットと一緒に、留守番していてくれ。……聖女がラシュレー領に居さえすれば、事態は好転するんだね?」
「は、はい。そう聞いておりますの」
「わかった。そうなると、"黒獅子"が片付くまで、レオノルは遠出できないな。王都と天上教会にも伝えておかないと……」
お父様は執事さんからコートと山高帽を受けとって、手早く支度を整えます。
秘書がブリジットを連れて戻って参りました。
「あの、お呼びでしょうか、旦那様」
「"黒獅子"が生まれたかもしれない。詳しくはレオノルから聞いてくれ。……もしよければ、きみの弟たちも屋敷に呼びなさい。それじゃ、行ってくる」
お父様がお部屋を飛び出していくのを見送ったわたくしは、ブリジットに事情を説明しながら自室へと戻ることになりました。
「――というわけなんですの。"黒獅子"って、そんなにやばいんですの?」
「口調が乱れております。……"死を告げる黒獅子"は、精霊であり、悪霊であり、一国を滅ぼすほどの力を持つモンスターでもあります。対応を誤れば、このラシュレー辺境伯領も無事では済まないでしょう」
「そんなに!? ……死属性を扱う、でしたか? ヤバ気ですわね」
「レオお嬢様、口調。……"黒獅子"が操る死属性は、空属性の派生。この世で"黒獅子"だけが持つ、特別な力だとされております。伝承によれば、死期の近い生き物を嗅ぎ分けるとか、その牙や爪に触れると寿命が減るとか」
「……獅子の牙とか爪に触れたら、そりゃ寿命は減るんじゃありませんの?」
減るというか、ザクッドバッとゼロになりそうなものですけれど。
わたくしの言葉に、ブリジットはあっけに取られた顔をしてから、ふっと微笑みました。
「言われてみれば、そうですね。……伝承の真偽はともかく、強力なモンスターですよ。物理的実体を持ちながら精霊としての側面を持つため、聖別された銀か強力な魔法でしか傷付けられないそうで。百年前の"黒獅子"出現の際は、多くの犠牲者が出たとか」
「特定の武器でしか倒せないタイプですのね。それは厄介な……」
ただまあ、そうなるとわたくしにできることはないでしょう。出力が高いとはいえ"指先"しか使えない腕力ゴリラの六歳児に戦闘は早いですもの。
……そういえば、もうひとつ気になることがありました。
「ねえ、ブリジット。あなた、ご兄弟がいらっしゃいましたの?」
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