11 幕間:ロランの求婚(前半)
一日三回、朝7時、昼12時、夕方18時に更新しておりますわ~!
読み飛ばしにご注意くださいませ~!!
「あなたは王になるのよ」
いつからか、この言葉が母上の口癖になっていた。
「あなたは王になるの。王になれば、わたくしたちを苦しめるものは、ひとつもなくなるの」
母上が俺を抱きしめながら、毎日のようにそう言うから。
「はい、母上。俺は、必ずや王になってみせます」
と、俺もまた毎日のように、そう答えるのだ。
●
ロラン・ランボーヴィル・レヴェイヨン。
妾腹の王子。王位継承権最下位。不運の申し子。"蝮竜"の弟子。
……そして、悪徳貴族の傀儡。それが俺だ。
「ヴァレリー。あと、どれくらいで着く?」
「もう"巨獣山脈"とふもとの"黒の森"がはっきりと見えておりますから、あと二時間ほどでしょうか」
馬車に乗って、辺境の地まで行くことになった。行きは王都から二日かかるが、帰りは河を船で下れるから一日らしい。
ラシュレー領まで行かなきゃならないのは、母上にそう命じられたから。そして、母上に入れ知恵をしたのは、悪い顔をした貴族たちに違いない。考えるだけで嫌な気分になる。
「大層かわいらしいそうですよ、聖女様は。婚約できれば儲けものではありませんか。……ああ、そうだ。護衛から一人、先触れに出しませんと」
ヴァレリーが馬車の窓を開けて、部下の騎士どもになにか指示を出す。……ヴァレリーも騎士どもも、悪い顔の貴族たちから遣わされた、奴らの部下だ。俺に仕えているわけじゃないけれど、仕事はやってくれる。
「……聖女に会ったら、どうしたらいい? ヴァレリーが手紙を渡して、交渉するんだろ?」
いまから会いに行くのは、聖女レオノル・リュドア・ラシュレー。
"天上"からやってきた女の子。婚約を申し込みにいく予定だが、あいにく、俺は同い年の女の子と何を話せばいいかなんて知らない。
「気に入られたほうがいいんじゃないのか。なにか、プレゼントなり花なり、用意してあるのか?」
「ふぅむ。気遣いは素敵ですが、ロラン坊ちゃまはまだまだですね。対等なデートならともかく、あなたは次代の王となるべき存在。聖女を介して"黒の森"の利益と天上教会の権力を牛耳るのが目的でございます。ゆえに――」
我が剣の師、"蝮竜"のヴァレリーは、狭い馬車の中で俺に顔を寄せて囁いた。
「――伴侶となる女には、まず、上下関係を教え込まなければなりません。坊ちゃまが上で、女が下だと。なあに、坊ちゃまはあのレヴェイヨン王の精力と、ルネ様の美貌を受け継ぐ御方。女人をたぶらかすなんて、朝飯前でございます」
「……ヴァレリー。おまえは、剣の腕以外は最低の女だ」
ヴァレリーはからからと笑った。この派手な紫髪の女は、騎士が参加する宮廷剣術の武術会で三位に入った女傑である。貴族との付き合い方は、六歳の俺なんかよりもずっと心得ている。
あの悪い顔をした貴族たちが、俺と母上を利用しようと企んでいるのは、知っている。母上も利用されているのだと知った上で、乗っている。俺を王にするために。
傀儡の王子から、傀儡の王へ。
あいつらにとって、俺もまた、いずれレヴェイヨン連合王国そのものを手に入れるための道具に過ぎない。
でも、俺はそうはならない。母上を守れるのは、息子たる俺だけなのだから。
……そうだ。俺は王になる男だ。教会との繋がり、"黒の森"の利益、聖女の知恵――それらすべては、俺が王になるための道具にしなきゃいけない。
道具から抜け出すためには、他人を道具にして、踏みつけて上に登るしかない。
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