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01 聖女転生(前半)



「レオノル・リュドア・ラシュレー。天上教会(エクレシア・セレステ)は、そなたを聖女だと認定します」


 金の宝冠(ミトラ)をかぶったおじいさんが、わたくしにそう告げました。

 ここは、天上教会の大聖堂。アーチ構造の天井からはいくつものシャンデリアがぶら下がり、壁には色とりどりの宗教画が描かれ、丸いステンドグラスが嵌め込まれています。

 赤い絨毯が敷かれたアーチの最奥で、おじいさんと向かい合うのは、わたくし。

 自分で言うのもなんですけれど、お人形さんのように美しく愛らしい、金髪碧眼の幼女でございますの。

 わたくしたちの周囲には、儀式に立ち会う、たくさんの人々。

 その向こうでは楽器隊が音楽を奏で、厳かに儀式を彩っています。


「"天に在りし御方"により遣わされたそなたに、これより、六十五の聖句で以って祝福を授けます。では……、"清貧"、"清廉"、"潔白"――」


 宝冠のおじいさん……大司教様が、なにやら大層な聖句とやらを並べて、わたくしを祝福しようとしております。これは、大切な儀式なのです。

 わたくしが、神様によって送り込まれた存在であると教会が公認し、聖女の称号を授ける場。参列者の中には、父母や親族だけでなく、連合王国のトップであるレヴェイヨン王もいます。それくらい、とても重要な催しごと。

 そんな神聖な空間で、祝福の聖句を浴びながら……、六歳のわたくし、聖女レオノル・リュドア・ラシュレーは、こう思いました。


(あー! ラーメン食いてェですわー! ていうか、儀式長くないですの? だるすぎん?)


 だいたい、聖女なんて大げさなのです。

 わたくしは偶然、女神様に送り込まれただけのOLなのですから。



 ●



 神様がいる場所は、とても美しい場所でした。

 くるぶしほどの深さの水が、地平線の向こうまで広がって、塩湖のように青空と雲を反射している、神秘的な光景。

 その光景の真ん中に、無骨な椅子と机が置いてあって、黒の癖毛をショートカットにした、すらりとしたパンツスーツ姿の女性が座っています。鋭い視線は手元の書類と万年筆に向けられ、せわしなく何事かを書き込んでいました。


「説明は以上になります。なにか、ご質問はありますか」


 こちらを見ないまま、女性が問いかけてきます。


「ええと、つまり……、異世界転生ですか?」

「はい。あなたには地球とは違う世界で生まれ直していただきます。剣と魔法のファンタジー世界といえば、地球の方にはわかりやすいでしょうか」


 言って、女性はまた、紙に何事か書き込みます。

 私は対面に用意された椅子に座っていて、まるで就職面接会のようだな、と思いました。就活は嫌な思い出です。

 ……経緯はこうです。地球で生きていた私は、ある日、食事中にぐらりと来て――、気づいたら、この場所に居ました。

 しかし、なるほど。アニメやラノベでよくあるテンプレ的に考えれば、理解できなくはありません。


「突然な不自然死。私は手違いで死んだ、というわけですか。そのお詫びとして、異世界に転生できると」

「いえ、手違いではなく、生活習慣病によって脳内で血栓が生じ、脳卒中で亡くなられました。ちょうど、転生用の魂を探していた私が、地球の神からあなたの魂をいただいた形になります」

「生活習慣病? 私、健康な生活を心がけていたつもりなんですけど、やっぱり手違いでは?」


 女性――女神様は手を止め、半目になって私を見ました。


「この五年間であなたが食べたラーメンの数は、約五千五百杯です。心当たりがないというのは、いささか無理があるでしょう」

「そんな……! 毎食ラーメン健康生活は健康ではなかったというの……?」

「当たり前でしょう」


 よく「死ぬほどラーメンが好き」と公言していた私ではありますが、まさか本当に死んでしまうとは悔しい限りです。まだまだ食べたいラーメンが世界中にあったというのに……。

 私の後悔をよそに、女神様はまた書類に目を落として淡々と続けます。


「転生先の世界では、転生者は聖人や聖女として扱われます。時折、こちらから神託という形で聖女の任務を依頼することもありますが、それ以外は自由です。持ち越した記憶とお知識を活かして、二度目の生を楽しんでいただければと思います」


 机の横の空間に、ぶうん、と音を立てて黒い穴が開きました。ワープゲートっぽいです。


「こちらの穴を通れば、転生完了となります。では――」

「ちょっと待ってください。チート能力の説明がまだですけど。転生と言えばチートでしょう。チートなくして転生なしと孔子も言っています、私はどんなチートをいただけるんです?」

「孔子はそんなこと言っていませんし、チートはありませんが」

「え? ないの? チート」

「ありません。チートは」

「またまたー。……え、ほんと?」


 女神様は「はい」と真顔でうなずいた。

 チートが……ない?

 私は反射的に大きく息を吸って、さらに吸って、肺をいっぱいにして……。


「うっひょ~~~~!!」


 大声で叫びました。



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