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サジタリアスの円盤  作者: 飛知和美里
8/21

第一部

 この城で目を引くのは、やはり『塔』だった。南西のものは画家のブライアンがアトリエとして好き放題に使っている。

 それと同じものが北東にもうひとつ。その麓でスタンたちは一様に仰向いた。

「こんなでかいもん、なんでわざわざ建てたんだ?」

 エルロイとニスがうんちくを披露する。

「城には軍事拠点としての役割もあったんですよ。見張り台に使ったのでしょう」

「神のいる天へ少しでも近づきたかったのさ」

「#$%&」

 モーフィも持論を展開したらしいが、何を言っているのかわからなかった。それでもスタンは勉強家どもの高説を嫌い、あえてモーフィを支持する。

「だよなー。さすがモーフィ、言うことが違うぜ」

「スタン? モーフィの言葉がわかるのか?」

「おう。そんじゃ入ってみっか」

 ところが冗談だらけのムードは一瞬にして霧散した。

 最上階から窓を乗り越えるようして、ひとりの人影がおもむろに立つ。

「ま、まさか……?」

 それを見上げ、スタンたちは顔を強張らせた。

人影はふらりと前のめりになって、一直線に落下する。

「なんてことだ……早く助けなくては!」

「あっちのほうに落ちましたよ!」 

 高さにしておよそ二十メートル。強靭なリザードマンやドラゴンネオであれ、耐えられるわけがない。だが、スタンたちはそれを理解できないほどに混乱していた。

「――ッ!」

 無残な有様を目の当たりにして、スタンは息を飲む。

 そこで倒れているのはリザードマンの女性だった。優美なドレスを着て、長いスカートからはトカゲの尻尾が食み出している。

 靴は履いていなかった。

 エルロイが不思議そうに呟く。

「どうして上から落ちてきたんでしょうか……」

 足を滑らせたようには見えなかった。誰かに突き落とされたのでもない。

 自ら身を投げた――スタンたちが目撃したのは、まさに自害の瞬間だったのだろう。ただ、疑問は山とある。

「それ以前によぉ、こいつ、こんなところで何やってたんだ?」

 この廃墟は女性がたったひとりで訪れるような場所ではなかった。しかも彼女はパーティーにでも出席するかのような格好で、さほど汚れてもいない。

 ニスが歩み出て、聖書を開いた。

「詮索はあとにしろ。死者の冥福を祈るのが先だぞ」

「お前はまた……」

 ところが、急に女性の死体が動き出す。

「#$%&!」

「離れろ、ニス! まだ生きてやがるぜっ!」

 スタンやモーフィはそれを目の当たりにして、慌てふためいた。

「何をそんなに驚いてるんだ? どう見ても事切れ……」

 ニスはまんまと後ろを取られ、振り向くとともに聖書を放り投げる。

「うふぉおっ?」

「変な声出してんじゃねえよ、急げ!」

「今助けますよ、ニス!」

 エルロイは槍を構えつつ、奇怪な死者を睨みつけた。

 しかし彼女はニスを襲うこともせず、ふらふらと塔の中へ戻っていく。スタンたちは助かったものの、いささか拍子抜けしてしまった。

「な……なんだよ? あいつ。無視して行っちまいやがったぞ」

「無視というより、小生たちに気づいてないふうだったな」

 どうにも寒気がする。

(今のは普通じゃねえぞ……おれたち、やばいモンを見ちまったんじゃ……?)

 冒険心をくすぐられる一方で、不安を拭いきれないのだ。

 いうなれば、恐怖。単にドレスを着ただけの、リザードマンの女性を『怖い』と感じ、ここから先の深入りを尻込みさせる。

「あとを追いかけてみませんか? 城のことが何かわかるかもしれませんよ」

「#$%&」

 とはいえ、仲間たちの前で『怖い』などと言えなかった。それに彼女がサジタリアスの円盤の在り処を知っている可能性も、なくはない。

「そうだな……行ってみっか」

 スタンたちは彼女を追って、北東の塔へ足を踏み入れた。

 内部は南西のものと同じ単純な構造で、迷うことなく進める。ただ、コウモリのモンスターがやたらと多かった。

「……こりゃ、どっかにこいつらの巣があるな」

「さっきの女性はこの中を、ひとりで?」

 避けようにも避けきれず、スタンたちはコウモリの群れを迎え撃つ。

「血を吸うやつじゃねえよな? ニス」

「まだ一ヶ月前のアレを引きずってるのか? 安心しろ、ジャイアントバットだ」

 敵は羽根で塔の中を自在に飛びまわった。しかし爪や牙だけが攻撃手段のため、わざわざこちらの射程範囲まで降りてくる。

 エルロイの槍が一匹のジャイアントバットを貫いた。

「これくらい大したモンスターではありませんよ。スタン、ニス!」

「小生は無益な殺生は好まないのだが……」

 ニスは棍棒を握り締め、手頃な一匹を殴りつける。

 神に仕える身として、彼は刃物の使用を嫌った。そのくせ棍棒による殴打や撲殺は少しも躊躇しない(無論のこと、相手はモンスターに限られる)。

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