第一部
吹き抜けをぐるりと迂回して、ようやくスタンたちは大きな石碑を発見した。城の石材とは明らかに違って経年劣化もせず、鏡のような光沢を保っている。
むしろ廃墟の真中にあるからこそ、神秘性が際立った。
スタンは腕組みを深め、口を噤む。
「……………」
ニスはやれやれと肩を竦めた。
「読めないんだろう? まったく……少しは勉強しないか」
「#$%&」
モーフィにも呆れられたような気がする。
「う、うるせえな。文字なんか読めなくっても、生きていけらあ」
「すみません、スタン。僕にはフォローできません……」
好奇心旺盛なリザードマンの冒険家も、これではぐうの音も出なかった。
「それよりなんて書いてあんだよ? エルロイ」
「ええと……ちょっと待ってください」
気を取りなおして、スタンたちは石碑を見上げる。
サジタリアスの円盤を求めし者よ。
かつての姿に戻りたくば、汝、その資格を心で示せ。
善き者は善き姿に。
悪しき者は悪しき姿に。
汝の心が汝の形を決めることであろう。
ニスは神妙な面持ちで呟いた。
「何度も聞いたおとぎ話と同じだが……お前はどう思う? スタン」
「なんだよ? さっきはおれをアホ扱いしやがったくせに」
スタンに限らず、この地では誰もが百年前の物語を知っている。
ガリウス王国は飽くことなく侵略戦争を続け、その勝利に民も酔いしれた。ガリウスの民は驕り、人心を忘れ、いたずらに暴虐を好んだという。
そんな彼らに神は天罰を降さなかった。
だが、ひとりの魔導士が憤怒し、神に変わってそれを実行した。ガリウスの民は邪悪な心に相応しい怪物の姿となり、内乱に至っている。
エルロイが溜息をついた。
「サジタリアスの円盤で人間に戻れる……とは言ってませんね」
「#$%&」
モーフィは石碑の文面を手帳に書き写す。
一方で、スタンは読めない文字を見ているうち、頭が痛くなってきた。
「お前らは考えすぎなんだよ。その……なんつったっけ、魔法使い? そいつが百年前、サジタリアスの円盤を探せって言ったんだからさ」
石碑から宝物でも出てきやしないかと、ばんばんと叩く。
「こら、スタン! バチが当たるぞ」
「だったら当ててみろって話だよ。魔法使いにしたって、もう生きてねえだろーし……化けて出てくれりゃあ、面白いじゃねえ……うわっ?」
俄かに石碑が光り始めた。
「#$%&!」
「離れてください、スタン!」
モーフィはエルロイの後ろに隠れ、エルロイはニスを盾にする。
「お、お前たち! 小生をなんだと……」
しかし不思議な光は間もなく消えた。スタンは腰を抜かし、尻餅をつく。
「びっくりしたぁ……脅かしやがって」
「……スタン、それは?」
「へ?」
いつの間にか、石碑の前に奇妙なものが転がっていた。ハムを分厚い輪切りにしたような形で、材質は石碑と同じらしい。
「ひょっとして……こいつがサジタリアスの円盤……?」
形が丸くて平らなだけに、『円盤』と呼べなくもなかった。
エルロイが驚きの声をあげる。
「見てください! 石碑のメッセージが増えてます」
「な、なんだって?」
石碑のほうに振り向くものの、またしてもスタンには読めなかった。
新しい一節をニスが読みあげる。
「道はコンパスが教えてくれよう……か」
「じゃあ、こいつが……」
それはモーフィの持つ方位磁石と似ていた。
「#$%&」
「言われてみりゃ、まあ……でもよ、肝心の針がないぜ?」
ただ、方角を示すための部品が欠けている。これでは使い物にならない。
少し期待もあったせいか、落胆は大きかった。
「この件はブライアン殿に聞いてみてはどうだ? スタン」
「あの爺さんか……まだ色々と知ってそうだしなぁ」
モーフィが石碑のメッセージを写し終えたところで、エルロイが提案する。
「もう少し城を調べてみませんか? ほら、北東の塔とか……地下もありますし」
「ここで考え込んでても、しょうがねえもんな。片っ端から行こうぜ」
スタンたちは石碑のもとを離れ、探索を再開した。