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サジタリアスの円盤  作者: 飛知和美里
6/21

第一部

 エルロイは二日ほど前から城を探索していたという。彼の地図をスタンたちのものと合わせると、ガリウス城の全体図が浮かびあがってきた。

 門は南と北にあり、本殿を囲むようによっつの塔が建っている。しかし塔の半分はすでに崩れ、北東と南西のものしか残っていなかった。

 南西の塔にはブライアンが住む。

「ブライアン殿は、食事はどうしてるんだろうな……」

「もしかして、塔にいるワーラットのお爺さんのことですか?」

「そうだよ。まだ挨拶してないのか?」

 スタンたちは城の一室に拠点を設け、少しずつ行動範囲を広げていった。

 目的は百年前の真相を解き明かすこと。そしてサジタリアスの円盤を手に入れること。しかし城は百年のうちに荒れ果て、もはや廃墟でしかなかった。

「このあたりの壁はやけに黒ずんでんなあ」

「#$%&」

「なんだって、モーフィ? ……火事で焼けた?」

 単に長い年月が経過しただけではない。あの災厄によって、城は壮絶な戦場となったのだろう。壁面には武器が当たったらしいキズも目立つ。

『広間の石碑にも目を通しておくとよいぞ』

 ブライアンの助言に従い、スタンたちは手始めにその石碑とやらを探した。

「広間っていうくらいだしよぉ、多分、大きい部屋なんだろ?」

「小生たちが前に入った、あの部屋じゃないか? スタン」

 ところがブライアンの言う『広間』が見付からず、首を傾げる。ニスが怪しんだのはダイニングルームだったようで、足の折れたテーブルくらいしか見当たらなかった。

 スタンとニスで途方に暮れていると、エルロイが苦笑する。

「あの……僕は『謁見の間』のことだと思うのですが」

「#$%&!」

 彼の言葉にモーフィも頷いた。

 そもそもスタンたちは『城』という建物を知らない。国王一家の住む屋敷――その程度の認識であり、ここが王政の中枢であったなどと想像できるはずもなかった。

「要するに、王の前で家臣や騎士が集まるための場所があったんですよ」

「なるほど……礼拝堂みたいなものか」

 ニスが『本当はわかっていた』とでも言いたげに相槌を打つ。

 スタンは丸っこい頭をぽりぽりと掻いた。

「部下が王様に挨拶するためだけに、部屋があったって?」

「そうじゃないぞ、スタン。国王が臣下の者に挨拶『させる』ための部屋なんだ」

「どっちでも同じじゃねえか」

 確かにリザードマンにせよ、ワーウルフにせよ、族長などの支配者は存在する。ただ、族長はあくまで集団生活を牽引するための役割であり、それ以上のものではなかった。

 ガリウスが滅んで以降、この呪われた地で新たな国家は興っていない。何よりガリウスの民は侵略戦争を推し進めた第一人者である『王』を忌み嫌った。

「……で? 結局んとこ、その広間はどこにあるんだよ」

「王が権威を誇るための場所ですから、やはり城の中央でしょう」

 博学なエルロイとともに、スタンたちはガリウス城の中心部を目指す。

 だが、それらしい場所には大きな吹き抜けがあるだけだった。立派な扉こそあれ、その向こうは下のフロアへの階段となっている。

「部屋なんてどこにも……」

 吹き抜けの真下には無数の瓦礫が積みあげられていた。

「#$%&」

 モーフィが階段のほうから扉を開けては、また閉めるのを繰り返す。

「な~に遊んでんだよ? モーフィ」

「#$%&ッ!」

 この毛むくじゃらは言葉を話せないため、何かとジェスチャーを多用した。

 スタンには『いないいないばあ』で遊んでいるようにしか見えない。その一方でニスはモーフィの発想にはっとする。

「そうか! 小生たちの立っている『ここ』が、広間なのだ」

「はあ? お前までどうしたんだよ、ニス」

「この城が破壊される前の話だ。おそらく……あっちの壁まで足場があったのだろう」

 目の前の吹き抜けは本来の構造ではなく、破壊の跡――その下に瓦礫が散乱していることも、それで一応の説明がついた。

 ニスやモーフィの想像通りなら、家臣らは階段をあがった先で扉を開け、王との謁見に臨んだこととなる。

「僕もそう思いますよ、ニス。このラインにも壁があったものと……」

「それだと大きな長方形になるな」

 ガリウス城の昔の姿を思い浮かべながら、スタンは吹き抜けを覗き込んだ。

「へえ~。こいつが百年前の戦争でできた穴、なあ」

「ここで大勢の兵が亡くなったのだろうな……」

 ニスは聖書を胸に添え、祈りを捧げる。

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