第一部
間もなく扉が開いた。その人物を一目見るや、モーフィが慌てふためく。
「#$%&~!」
スタンとニスも動揺を隠しきれず、うろたえた。
「ド、ドラゴンネオだと?」
「もっと離れろ、スタン! やつは危険だ!」
半人半竜の怪物、ドラゴンネオが真っ赤な目を光らせる。
「……………」
トカゲ人間のスタンや狼人間のニスと同類ではあるが、ドラゴンに限っては意味が違った。百年前の災厄において、このドラゴンネオだけは『人間の心』を失っている。
もはや理知のないモンスターも同じなのだ。
ドラゴンネオはほかの種族を敵視し、手当たり次第に襲い掛かってくる。スタンたちもこの城に辿り着くまでに、ドラゴンネオと二回ほど交戦した。
ニスが棍棒を握り締め、スタンは剣を構える。
「敵はひとりだ。いくぞ、スタン!」
「おうっ!」
「ま――待ってください!」
そのつもりが、相手はおたおたとあとずさった。
「僕に戦う意志はありません。とりあえず話を聞いてくれませんか?」
肩透かしを食らい、スタンたちは唖然とする。
「お、お前……ドラゴンネオだろ?」
「そうです。けど、僕は少し『違う』みたいで……」
その証拠にと、彼は自ら槍を捨てた。
敵意はないらしい。スタンとニスは目配せして、武器を納める。
「突っ立っててもなんだし、まあ座れよ。ニス、お前も別に構わないだろ?」
「ここで彼を拒んでは、神のご意志に逆らうことになりそうだ」
ドラゴンネオがキャンプに加わったことで、三人前の夕食を四等分に。
「おれはスタンだ。で、こいつがニスで……」
「僕はエルロイです。初めまして」
自己紹介がてらエルロイはジャガイモを提供してくる。
「驚かせてしまったお詫びに、どうぞ。スタンさん、ニスさん、それから……」
「#$%&」
恐る恐るモーフィがそれを受け取った。
「ブライアンの爺さんのほかには、もう誰もいないものと思ってたんだ」
「こっちから声が聞こえまして……もしかしたら、と」
話すうち、ニスもエルロイと打ち解けていく。
「まさかドラゴンネオと食事ができるとは……いや、気を悪くしたなら、すまない」
「いいえ。僕もこういう場は初めてなもので、緊張してしまって」
ドラゴンネオが凶暴な種族であることは、エルロイも素直に認めた。一説によれば、かつてのガリウス王国軍の兵士がドラゴンネオになったという。
侵略戦争の勝利に乗じて、略奪と虐殺に走った兵隊ども――彼らはすでに人間ではない正真正銘の怪物だったのだろう。その後もドラゴンネオは繁殖を続け、今や最悪のモンスターに位置づけられている。
「でも、あんたは正気みたいじゃないか」
「ドラゴンネオも全員が全員、理性を失ってるわけではありません。僕は物心がついた時から、こうだったんです」
しかしエルロイは決して凶暴な魔物ではなかった。理性を持ち、スタンやニスと言葉を交わすこともできる。
「エルロイ、おぬしはなぜこの城へ?」
「……もちろん、サジタリアスの円盤を探しに来たんです」
エルロイの声がトーンをさげた。
「というより……知りたいんですよ。真実を」
百年前に何があったのか。ブライアンも語ってくれたとはいえ、それは『おとぎ話』の域を出ず、今となっては信じる者も少ない。
「百年前の災厄が本当であれ、嘘であれ、僕は納得できる答えが欲しい。そう思って、試練とやらに挑みに来たんです」
「なるほど。ってことは、おれたちと似たようなもんか」
スタンとて、すべてを鵜呑みにしているわけではなかった。
ただ、百年前には『何か』があったはずで、そのヒントはこの城に隠されている。それだけでスタンの冒険心は触発され、胸が躍った。
ニスが聖書を開く。
「汝、友を迎え入れよ……どうだ? スタン。彼を仲間に入れては」
「そいつはおれも考えてたとこだよ」
「#$%&」
モーフィも反対しなかった。
「お前もひとりじゃ大変だろ? おれたちと一緒に来ないか」
スタンが誘いを掛けると、エルロイもはにかむ。
「実を言うと、どうやってそれを切り出したものか、迷ってたんですよ。ぜひ僕もご一緒させてください、みなさん」
「こちらこそ。改めてよろしく、エルロイ殿……いや、エルロイ」
かくして一行はエルロイを加えることに。
「サジタリアスの円盤はおれたちで見つけてやろうぜ!」
「#$%&」
リザードマン(トカゲ人間)のスタン、ワーウルフ(狼人間)のニス、ムォーク(正体不明)のモーフィ、ドラゴンネオ(ドラゴン人間)のエルロイ。
サジタリアスの円盤を求め、探求が始まった。