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第2話 人との邂逅

 あれから数ヶ月が過ぎた。

 未だこの世界の知識は着いていない。

 いや、正確には世界の全てを知っているが、実物を見たことがなく、教えるものもいないから、それだと判断することができていない。

 そして、森は少女の支配域となってしまっていた。

 あまりの強さに、ほとんど魔物が少女に服従した。

 とは言っても、生態系がどうにかなった訳では無い。

 あくまで、少女を襲わないというだけだ。


 そして現在、少女が水浴びをしていると、傷ついた一匹の黒狼が彼女の元に訪れる。


「どうしたの?」


 少女が問う。

 黒狼が弱々しい鳴き声をあげた。


「じっとしてて、今修復するよ」


 少女が黒狼に近づいていく。

 黒狼は、警戒する素振りを見せない。

 少女を信頼しているようだ。

 黒狼に手をかざして、回復魔法を発動させる。

 抉れて内臓の一部が垂れ下がった腹部と顔が治り、他の傷も塞がっていく。


「どう? 治ったと思うけど」


 黒狼が少女に擦り寄る。

 押し倒されて、顔を舐められる。


「あはは。ほら、やめてよ。くすぐったい」


 少女が黒狼を優しく撫でる。

 じゃれあっていると、折角洗った髪や体が汚れていく。

 だが、少女は気にせず黒狼とじゃれあった。


「もう~洗い直しだよ」


 満足げに黒狼が小さく鳴く。

 少女が水浴びを終えるまで、黒狼が岸で座って水を飲んだりして、彼女を待つ。

 そんな様子の黒狼に少女が問う。


「来る? 一緒に」

「ワン!!」


 黒狼が嬉しそうに返事をした。

 そして少女を背に乗せて、森を疾走する。


「うん。いいよこれ! 最高!!」


 嬉しそうな少女の声に、黒狼も嬉しくなり尻尾を振っている。

 しばらく森を疾走していると、悲鳴がどこかから聞こえ、少女が黒狼にそこへ行くよう指示を出す。

 悲鳴の近くに着くと、茂みから観察する少女。


「あの生き物は、たまに境界で戦った事がある」


 人間を見て、そんなことを呟く。

 見た事のある生物が、襲われている。

 だが、知っているものとは違い、かなり弱くて少女が首を傾げる。


「変わった鳴き声。群れを成す生き物だから、意思疎通してるのかな」


 少女は、人語を鳴き声と認識していた。

 境界にいた頃、龍同士の会話は龍語と呼ばれる特殊波長を用いた言語を使っていたため、それ以外の言語を知らない。

 そもそも境界には、敵以外は何も無い。

 言語も一種類だけであり、外界の情報は一切入ってこないのだ。

 覗こうとすれば別だが、少女はそれをしなかった。


「群れ同士の縄張り争い? それにしては、一方的な気がする」


 観察を続けていると、盗賊側がドレスを来た少女を馬車から引きずり出し、ドレスを千切っていた。

 少女は、その光景を見て、表情を変えることはなかった。


「アルビオンより世界へ。言語習得プロセス実行。音声データをダウンロード。空き容量に不足なし。……ダウンロード完了。データをアクティベート。声帯機能との連携完了」


 ダウンロード中、少女の瞳の色が変わった。

 そしてダウンロードが終わると、元の色に戻る。


「よかった。死後の世界でも、アクセス権限は生きてるみたい」


 言語が理解出来るようになり、少女が人間の会話に耳を傾ける。

 結構な距離があるが、龍の耳なら余裕で聞き取ることが出来る。


「……誰か助けて!! 嫌! 触らないでよ!」

「――妹から手を離せ!!」


 襲われている少女を助けようと、一人の少年が抵抗する。

 だが、直ぐに取り押さえられてしまう。


「必死な抵抗、ご苦労なこった。お前じゃ俺には勝てんよ」


 盗賊が嘲笑う。


「助けて! いやぁぁぁああ!!」

「おいおい、こいつ漏らしやがったぞ」

「汚ねぇな。後でじっくり舐めてやるよ」


 襲われている少女の股間部分から水が滴り、地面に水溜まりが広がる。

 それを見て、盗賊たちが高笑いをする。


「頭、こいつ糞も漏らしてやがりますよ」

「へへ、ますます犯しがいがあるな!!」

「頭の後は、俺にやらせてくだせーよ」

「なら、仕事しろ! とりあえず男は始末しておけ」


 それを聞き、襲われている少女が目を見開く。


「やめて! お兄ちゃんを殺さないで!!」

「ボス。その女の意見は、聞くべきですよ」

「オレに指図すんのか?」

「いえ、そうではなく。この顔立ちなら、一部の変態が大金積んでくれるって事ですよ。奴隷としても言い値がつく」

「なるほどな。さすがのずる賢さだ。おい! てめぇら、商品価値が無くならない程度に、揉んでやりな」


 三人の盗賊が、返事を返して、少年を痛めつける。

 少女が必死に叫ぶが、自分の状況が悪化し、それどころではなくなった。


「奴隷……。隷属、支配されるの意。自身の自由がなくなり、所有される。……なるほど。襲ってる群れは、悪なのね」


 少女が飛び出そうとしたが、目の前の人間と自分が大きく姿が異なっていることに気が付く。


「この姿では、不味いかな……?。よし、抑えてみようかな」


 少女が、自身の力を抑え込む。

 手脚の龍化した部分は、人のそれになっていく。

 そして即頭部にある長い龍角が、前髪から顔を覗かせる程くらいに短く小さくなる。


「これなら大丈夫だね! (ボク)の影に入ってて」


 少女の指示通り、黒狼が影に潜る。

 それを確認すると、龍の少女が一瞬で少女を襲う盗賊の後ろに移動した。

 そして盗賊の頭部を軽く殴ると、頭が弾けてどこかへ吹っ飛んでいった。


「「え?」」


 襲う側と襲われる側が、間抜けな声を出す。

 一瞬遅れて我に返り、盗賊の頭が指示を出した。


「てめぇら、やっちまえ」

「かしら~、こいつ上物ですよ」

「バカ言うな! 命あっての物種だ!!」

「は、はい!!」


 一撃で首を飛ばした相手に、手加減などしない。

 それくらいの頭は、持っているようだ。


「弱いね、君たち」


 少女にとっては、時間が止まっているように見えた。

 あまりに遅い。

 かつて境界で戦った同型種の時よりも。

 盗賊の一斉攻撃。


「逃げて!」


 襲われている少女が叫ぶ。

 必死に。


「大丈夫だよ」


 そう言うと同時に、攻撃に転じる。

 戦い方に型はない。

 ただ、本能に任せて暴れる。

 首を引き抜き、銅をぶち抜き、そして魔法で消し飛ばす。


「す、すげー」


 全裸で戦う少女に、少年は色んな意味ですごさを感じた。

 鼻から血を流しながら。


 龍の少女の一撃は、必殺だった。

 自身で身体能力に制限をかけていても、鎧を着てなく身体強化もしていない生身など、豆腐同然。


「逃がさないよ」


 逃げようとした盗賊の頭の目の前に、瞬間移動の如き速さで移動した。


「ひっ!」


 引きつった悲鳴をあげ、股間部分が濡れていく。

 抵抗など無意味。

 それを悟る頃には、首が宙を舞っていた。


「大丈夫?」


 返り血で、熟れたトマトの様に真っ赤になった龍の少女が、座り込んでいる少女に問う。


「う、うん。ありがとう助けてくれて」

「無事ならよかった」


 龍の少女の微笑が、あまりにも可愛くて、少女の意識が一瞬飛んだ。

 それと同時に心臓が強く一回鼓動した。


「君も無事?」

「ああ、大丈夫だ。……助かったありがとう」

「なんで目を逸らすの? もしかして敵?」


 龍の少女から目を逸らした少年に、不信感を持ち、必殺の拳を振り上げる。

 そして振り下ろそうとして、少年が叫ぶ。


「ちょっと待った!!」


 その声に、途中で拳を止める。


「ふぅ」


 少年が安堵の息を吐く。

 この時ばかりは、生きた心地がしなかった。


「その、そんな姿じゃ目のやりどころに困る」

(ボク)の体に恥ずかしい所はないよ?」

「そうじゃなくて、その格好だと目のやり場が……」


 不思議そうに首を傾げる龍の少女に、少年が困った表情を浮かべる。

 まるで話が通じてない。

 それが少年の感想だった。


「お兄様! 女の子の体をジロジロ見ないでください!」

「み、みみ、見てねーよ」


 少年が少女に必死に抗議していた。

 そのやり取りが理解出来ず、龍の少女が不思議そうにしながら、眺めていた。


「君、近くに水の魔法があるから、そこで体洗うといい。血で汚れてる」


 綺麗な銀髪を血で染め、体も返り血で真っ赤になった龍の少女が言う。


(ボク)も汚れたから洗いに行く。一緒にどう?」


 少女が少年と顔を見合わせる。

 そして互いに頷く。


「じゃあ、一緒に行かせてもらうね。でも、せめて皆を弔ってからにしたい」

「弔う? よく分からないけど、わかった」

「ありがとう」


 少女が立ち上がり、歩き出す。

 濡れた下着が気持ち悪いのか、少しぎこちなく。

 少年も少女を手伝うように、死んだ従者たちを集める。


「手伝ってあげて」


 龍の少女の命令で、影から黒狼が現れる。

 黒狼を見た瞬間、少女と少年が腰を抜かし震え上がる。


「大丈夫。この子は、(ボク)の仲間? だから」


 黒狼が龍の少女にすり寄るのを見て、二人が安堵の息を吐く。

 そして死体を一箇所に集め終え、少女たちが弔う。

 その光景が理解出来ず、龍の少女が色々思考して黙り込んでいた。


「生き返さないの? 境界の龍じゃない生物は、蘇生出来るって昔、母神(母様)が言ってたよ」

「出来ればとっくにやっている。それが出来ないからこうやって弔っているんだ」


 龍の少女が少女を見ると、少年に同意するように頷いた。


「これくらいの損傷なら、(ボク)でも出来るはず」


 初めての行為に少し不安を覚えながら、龍の少女がエルフの少女に手をかざす。

 淡い光がエルフの少女を包む。

 大きな切り傷が塞がっていった。


「おかしいな。魂が戻らない……。アルビオンより世界へ。眼前の個体が持つ、魂の返還を申請」

『世界よりアルビオンへ。申請を受諾。以後、二十四時間の間、返還要求は棄却されます』


 世界の声は、龍の少女にしか聞こえない。

 少女たちが、首を傾げて不思議そうに見守る。

 これが龍の少女なりの弔いだと思って。

 だが、違和感を持っているのも事実だ。

 何をやっているのかは、あえて聞かない。

 それが礼儀だと、彼女たちは思っているから。


「ル、ルミア?」


 エルフの少女が目を開く。


「わ、わたしは、一体……?? 死んだはずなのに……」


 零れるような小声で言う。

 その様子を見て、少女たちが幽霊を見るかのよな表情を浮かべながらも驚愕していた。


「い、生き返った!?」

「生き返ったの――か!?」


 二人が驚きの声をあげ、先ほど抱いた違和感も多少和らいだ。


「こんなことを頼むは違うと思うんだけど、他の人も蘇生してもらえない? 昔から私に良くしてくれた人たちだから……」

「ごめんね、それは出来ない。その生物を蘇生したら、しばらくの間魂を呼び戻せなくなったの。それに今の(ボク)には、その生物が負っていた以上の傷を修復できるかは、わからないから」


 少女が龍の少女の瞳を見る。

 それだけで嘘を言っていないとわかった。


「そ、そうだよね。でも、ありがとう」


 明らかに残念そうにしながらも、親友だと思ってる従者が生き返ったことに礼を言う少女。

 奇跡は、安売りしない。

 二人もそれを知っている。

 だから、何も言わない。


「ルミア、無事だったのね!!」


 エルフの少女が人間の少女に抱きつく。


「あ、シグルドも無事だったんだ」

「妹と扱い違いすぎない!?」


 泣きそうな顔をしている少年を見て、人間の少女が笑う。


「みんな、体洗いに行こ。(ボク)もこのままは、嫌だし」

「ご、ごめんね。自己紹介がまだ――」

「いいから行こ!」


 龍の少女が、人間の少女の手を引く。


「あ、待ってください。着替えを……って、な、なんで裸なの?」

「??」


 龍の少女が首を傾げた。

 そしてそのまま、森の中へと歩いていく。

 エルフの少女が三人分の着替えを持ち、一行に遅れてついて行く。

 少し歩くと川に到着した。

 道中は、お通夜だった。


「着いたよ~」

「わー、綺麗な川」

「違うよ。これは水の魔法」


 龍の少女の言葉に、三人が顔を合わせ、小さく笑う。


「これは、川っていうの。水の魔法は、こういうのを言うんだよ。――ウォーター」


 人間の少女が生活魔法を使い、水を出す。

 龍の少女が「なるほど」と言いながら頷く。

 知識と実物が一致し、満足でしている。


「教えてくれて、ありがとう?」


 龍の少女の笑顔を見て、人間の少女が、尊死寸前だった。


「か、可愛い!!」

「? 君もおいでよ。ほら、早く」

「あ、ちょっと!?」


 ドレスを着たまま、川に入る。


「もーびしょびしょ! はははは」


 楽しそうに笑う。


「お兄様、お先」

「ああ、ゆっくりしろ」

「君は、入らないの?」

「そんなことしたら、妹に殺されちまう」


 冗談混じりに言う。


「殺すの?」

「殺さないよ!」


 人間の少女が言った。


「? 難しい……」


 龍の少女が、小さく呟いた。


「ルミア、脱ぐの手伝うよ」

「ありがとう」


 エルフの少女が、ルミアのドレスを脱がしていく。

 その間、岩の裏で少年が暇そうに、空を眺めていた。


「ルミア、下着はわたしが洗っておくね」

「いいよ、自分でやる」

「そう言わずに」

「恥ずかしいの!!」

「ふふ。仕方ない人ですね。汚れが取れなかったら言ってよ」

「わかった」


 顔を赤くして、恥ずかしそうにルミアが自分の下着を洗う。


「何してるの?」

「え、えーと、洗ってるの」

「ふーん」


 興味なさそうな返事をして、魚をとって生で食べる。

 龍の少女がソワソワすると、股間部分から水が流れ落ちる。


「あ、あなた、恥ずかしくないの?」

(ボク)の体に恥ずかしい所はないよ」

「そーじゃなくて、そのお、おしっこを人前でするのって、恥ずかしくないの?」

「これって恥ずかしいものなの? 水の魔法なのに?」

「そ、それは――」


 小声で龍の少女にルミアが排泄に着いて教えた。

 そのやり方も一緒に。

 当然、顔は真っ赤になり、耳に熱を感じるほど発熱していた。


「……ありがとう。これから気をつける」


 さすがに龍の少女も、少し顔を赤くしている。

 だが、その感情が何なのかは理解していなかった。

 少女三人が各々水浴びを終え、岸に上がった。

 龍の少女だけ、魚を咥えている。


「えーと、それは?」

「水生生物」

「う、うん、そーだね。その魚どうするの?」

「捕食する」

「ん? 生だよね」


 ルミアがそんなことを言ってる間に、龍の少女が魚を食べていく。

 魚が尾を上下に動かすが、無駄な抵抗だった。


「ん。ビビってする」

「……美味しいってこと?」

「? 美味しいって何?」

「え、えーと――」


 美味しいについて、ルミアが教え、そのついでに料理についても教える。

 ルミアの予想通り、料理すらも知らない龍の少女に驚愕を隠せないでいた。


「料理ってそんなに美味しいの!? 捕食してみたいな~」

「ふふ、あとでミクに頼んでみようか?」

「うん! お願い!!」


 嬉しそうにはしゃぐ龍の少女。

 それを見てほっこりしているルミア。

 そしてルミアがエルフの少女に手伝ってもらいながら、服を着る。


「あなたは、服を着ないの?」


 分かっていた。

 ルミアは、何て反応されるか分かっていた。

 だが、聞いてしまった。


「服って何? さっき身につけてた皮のこと?」

「よ、予想外の例えが……」


 予想通りの反応ではあったが、例えの予想は外れた。

 例に習い、龍の少女に服という物を教えた。

 それを聞いていたエルフの少女が、ルミアに提案した。


「ルミア、この子にあなたの服を貸してあげてもいい?」

「うん。もちろん!」


 二つ返事だった。

 エルフの少女が、もう既に持ってきていた服を龍の少女に着せた。

 青と白のワンピースだ。

 動きやすさを重視した物だがサイズが大きく、少しブカブカである。


「これが服! 触り心地がいい!」

「ほんとに服を来たことなかったんだね」


 龍の少女の反応に、二人が苦笑いを浮かべた。


「ね、ねえ、あなたはどこの街出身なの?」


 ミクが問う。

 

「えーと、街って何? それに出身って?」


 二人は察した。

 龍の少女には、常識などが全てないことを。


「お兄様が水浴びを終えるまで、色々教えてあげる」

「ありがとう! (ボク)、この辺のこととかよく分からないんだ」


((ここまで来たら、知らないってレベルではない気が……))


 二人の気持ちは同じだった。

 少年が水浴びを終えるまで、龍の少女に最低限の常識を教え込む。

 そして三人が揃い、自己紹介を始めた。


「じゃあ、まずは私から。私はルミア・ディ・アルケルト、よろしく~。こっちが私のお兄様の――」

「――シグルド・ディ・アルケルトだ。よろしく頼む」

「わたしは、ルミアの専属メイドのミクです。よろしくお願いします」


 ルミアたちの自己紹介を終え、龍の少女が名乗る。


(ボク)は、世界の守護者、境界の龍アルビオン。よろしくね」

「アルビオンって面白いわね。なんて言うか独特? な感じでさ~」


 ルミアは、アルビオンが冗談を言っていると感じ取った。

 小柄の体系の彼女に、年相応なものを感じる。


「なあ、アルビオンは行く宛てはあるのか? ずっと森ぐらしってのも大変だろ」

(ボク)は気にしてないよ。でも、料理ってものを捕食してみたいな」

「なら俺達と来るか? 首都アルビオンに向かうところだったんだ。アルビオンが入れば俺達も安心出来る。どうだ? 報酬は、はずむぞ」


 アルビオンが悩む素振りを見せて、すぐに承諾した。


「いいよ! 道案内はお願い」

「ああ、任せろ!」


 四人で盗賊に襲われた場所に戻った。


「馬車がこんなになってしまっては、徒歩で帰るしかないですね」

「君、みんなを背に乗せてあげて」


 アルビオンが影に話しかける。

 影からアルビオンの命令に従うように、黒狼が現れた。


「乗って、みんな」

「お、おう……」


 三人が顔を引き攣らせていた。

 アルビオンは、黒狼の隣を歩きながら、シグルドの案内で近隣の村へ向かう。


「ねえ、アルビオン、この子なんて言うの?」

「名前は無い。そもそもどんな生物かも分からないから」

「それは可哀想だよ。こんなに懐いてるんだから」

「でも、どんな生物か分からないと、名前をつけずらい」

「ほんとに知らないの? かなり有名なのだよ」

「知らない」


 アルビオンが首を振る。

 ルミアもアルビオンが黒狼のことを知らないことに、驚くことは無い。

 もう慣れたからだ。


「この狼は、ブラックハウンドと呼ばれるB級指定魔獣なの。人によっては災害級とも呼ばれる存在よ」

「なるほど……」

「絶対分かってないわね」


 ルミアたちがアルビオンの基準についてほんの少しだが、理解が及び始めた。

 アルビオンは、説明を聞いてもピンと来ていない。


「うーん。名前か~」


 道中アルビオンが、そんなことを呟きながら歩く。

 それを暖かい眼差しで見守る三人。

 黒狼も楽しみにしている気配がある。


「……黒、境界……狼……。!! 黒境界狼! とかどう?」

「「…………」」


 明らかに黒狼も、それはないと言わんばかりに、尻尾が下がる。

 三人も絶句していた。


「どうどう? いいでしょ~」

「う、うーん……それは、変えた方がいいかも。言いずらいし」


 ルミアの目を泳いでいた。


「そっか~」


 三人と一匹の中でも、特に黒狼が安堵の息を吐く。

 ルミアが黒狼の頭を撫でる。


「ルミアならどういう名前にする?」

「私かー。うーん……私なら゛番犬の助゛とかかな」

「おおー!」


 黒狼の顔が引きった様な気配がした。

 ネーミングセンスの無さに、アルビオン以外ドン引きしている。

 それに共感する主を見て、頼むからそれだけは、と黒狼が思っていた。


「よし! 決めた! 君はこれから、レウスだ!」

「「おおー!」」


 まともな名前が出てきて、一行が感嘆の声を漏らす。

 レウスも気に入った用で、尻尾を激しく振っている。

 そうこうしていると、村が見えてきた。

 レウスによって混乱が起きないよう、シグルドとミクが村へ先行して、話を通しに向かう。


「レウスは小さくなれないの?」


 ルミアの問いに、答えを求めるようにアルビオンがレウスを見る。

 すると、一回り程小さくなった。

 これ以上は無理だと、首を振る。


「これ以上は、無理みたいだね」

「そうだね」


 ルミアとアルビオンがそんなことを言っているうちに、村の前まで到着した。

 門番と一緒にミクとシグルドが待っていた。


「話は通しといたぜ」

「ありがとう」


 アルビオンが、可愛く笑って礼を言う。

 それを見たシグルドの心臓が強く鼓動した。

 自分でも自覚できるくらいに。


「お兄様! 変なこと考えてるでしょ?」

「か、考えてねーよ」

「ほんとに~」


 疑いの眼差しを向けてるルミア。

 助け舟を求め、アルビオンに視線を送るシグルド。

 アルビオンは、にこっと笑って返す。

 可愛いが、シグルドが求めていたものではなかった。


「みんなー行くよー」

「行こ行こ!」


ミクの号令に三人が村に入っていくのだった。

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これからもよろしくお願いします。

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