プロローグ
何も無い空間、そこに一匹の龍が飛ぶ。
それは、漆黒の鱗に身を包み、体の一部が機械化している。
まるで、生命の限界を無理矢理延ばしているかのようだ。
龍は、何も無い所をずっと飛び続け、謎の生命体を殲滅し続ける。
世界の守護者、境界の龍。
それがこの龍の使命。
無限に続く、境界世界で他世界からの侵略を防ぐ、世界の免疫機構。
境界の龍は、この龍を除き、あと六体いる。
無限に続く世界を飛び続け、数万から数億年に一度、龍たちは稀に邂逅する。
方角も時間もない空間は、精神がある生命なら発狂ものであろう。
龍たちにも、精神はある。
だが、それは己が誇りだけを持ち、その誇りに従って生きている。
何も場所で発狂しないだけの異常な精神性は、人とはかなり異なるものだ。
個々にその誇りは違うが、この漆黒の龍は、自身の白き鱗そして、世界を護ることが誇りであった。
しかし、白き鱗は無限に続く戦いの果てに黒く染まり始め、体は機械神デウス・エクス・マキナにより、兵器へと改造された。
もはや誇りは、なくなった。
自分の使命を誇りだと思う以外に、自身の存在を肯定出来ないからだ。
この龍は、境界の龍の中でも創造されてから世代交代をしていない、たった二体の龍の内の一体である。
つまり、死んだ事がないのだ。
幻想種である境界の龍は、死ねば転生することは無い。
輪廻転生の理が、適用されないからだ。
だが、他の幻想種と違い、神が直々に作り直す事で、記憶以外の全てを引き継いで復活する。
もし、その屍が残れば、幾つもの生態系を築くことが出来るほどの力を土地に残し、朽ちることがない屍となる。
漆黒の龍が、戦闘を始めた。
いつもと同じ。
一つ違いを上げるとするなら、それは神殺しを成し、二つの世界を滅ぼした規格外超越生物であると言う点。
漆黒の龍以外の龍は、もう既に敗れ、死んでいた。
復活まであと一時間。
その間、最後の砦である最強の境界の龍が単騎で戦う。
閃光が煌めく。
それはブレスの光。
魔法の輝き。
そして互いに物理的にぶつかり合って生まれた、削れる命の光。
超越生物がどす黒い光を体から放つ。
漆黒の龍は、光学兵装を起動し、迎撃した。
撃ち漏らしは、防御フィールドにより、防ぐ。
漆黒の龍が、ミサイルポッドを全て起動。
無数のミサイルが、超越生物を飛んでいく。
迎撃され、撃ち落とされるが、幾つか着弾した。
神が創ったものだけあって、その火力は世界を吹き飛ばす程だ。
だが、敵は無傷。
神速を超える速度で飛び回る龍に、攻撃があたる。
一撃で、半身が消し飛んだ。
体から闇が溢れ、瞬時に肉体を再生していく。
漆黒の龍が、"︎︎破壊の龍眼"︎︎を使うが効果がない。
(ああ、ここが最後の終着点。やっと終わる。やっと終われる。世界は、十分守った。もうやり残すこともない。いや、元々やりたい事なんて無い。……さあ、最後を飾ろう。君が我への最後の敵。母神は、きっと我を褒めてくれるよね。ごめんなさい、我はこれで散ります)
漆黒の龍が、自身のリミッターを外す。
そして、全ての力を解き放つ。
文字通り、自身の無限の命を消費して。
黒き鱗が純白に戻る。
だが、それと共に母神の情報が流れ込む。
母神が直々に創った龍の生き残りだから起きた現象。
流れ込んだのは、母神の最後の景色。
それは自らの神に殺され、虚数世界に封印される瞬間だった。
純白に戻った鱗が、漆黒に染まる。
絶望してしまったのだ。
世界に。
神に。
漆黒の龍が放った最後のブレスは、まるで断末魔の様だった。
超越生物が朽ちていく。
後には、何も残らなかった。
文字通り、肉片残らず消滅したのだ。
漆黒の龍は、確信してしまった。
もう純白の自分が戻ってくることはない、と。
死への恐怖、そしてそれ以外の感情もこの龍には存在しない。
体が朽ちていく。
絶望して、黒く染まったことに後悔を残しながら、最強の龍が墜ちる。
(なんで……なんで絶望してしまったのだろう……。ああ、母神から頂いた純白が消えて行く。体が朽ちていく。もう純白に戻ることは出来ない……。母神、我もそちらへ参ります。とっくの昔に、朽ちていたのなら、我の生き様を聞いてください)
境界の龍が境界世界を離れ、守護していた世界に落ちていく。
体をボロボロと、崩壊させながら。
龍が目を瞑る。
生命活動が終わるのが、わかったから。
だが、漆黒の龍は、どこまでも美しかった。
なぜなら、大気の屈折で地上からは、純白の流れ星の様だったのだから。
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