姉は攻略対象外…のハズ…
「ただいま」
自宅に帰ってきた。リビングから姉が迎えてくれる
夕飯のお手伝いをしていたみたいで腰にエプロンを巻いている
「おかえりなさい奈妓ちゃん…あら?何か良いことあったかしら?」
流石は姉だ、私の些細な変化も見逃さない
「部活に入ったんだ。ボランティア部」
「ボランティア部!?まぁ!それは素敵だわ」
嬉しそうだな。自分のことのように喜んでいる
まぁ姉は私が言うのもなんだけどシスコン気味だからな
「それで…ボランティア部はどういう活動をするの?」
「えっ?」
ボランティア部の活動ってなんだ?
女の子と疑似恋人になって抱き合うことだよ
…って言えるか!!
姉は生徒会長だ、そんなことが知れれば溺愛する妹をそんないかがわしい部に居させないし、生徒会の権限をフルに行使してボランティア部自体を潰すだろう
ここは世間一般の『ボランティア部』の活動内容を言わないと…
て、世間一般の『ボランティア部』って何してるんだ?
私は『ボランティア部』の活動を乏しい知識で捻りだす。
「うーん、ベルマークを集めたりすることかな」
「懐かしいわ~昔、奈妓ちゃんと一緒に集めたわね。他にはどんなことするのかしら?」
「他!?他は…被災者を救助したりかな」
「ええ!?それは危ないんじゃないの?」
姉は驚いて口に手を当てる
やば、まさか二個も欲しがってくるなんて想像してなくて咄嗟に変なこと言っちゃったよ
「あ!や、それは…違うかも」
「そ、そうよね…まだ入部したばかりだから知らないのも無理ないわよね」
微妙な空気になったが、キッチンから聞こえてくるお母さんの声で姉妹のやり取りは中断される
姉が玄関から帰って来ないので業を煮やしたみたい。夕飯のお手伝いの途中だったもんね
それからお父さんも帰ってきて家族で夕飯を食べた
『あの夏』以来、久々に我が家で解禁された『部活』について話す団欒はいつもより楽しかった。
「内申点狙いか?」と私に冗談を言ったお父さんは凄い眼で姉に睨まれていたけど
夕飯後、手伝おうとする姉を制しながら皿を洗ってお風呂に入る。
湯につかり一息つくと、両手をこちらに差し出した陽咲先輩の笑顔が脳裏に浮かびあがってきた
…天使みたいで可愛かったな
いやいやいや、陽咲先輩は『お姉さま』じゃない
惑わされては駄目だぞ私!
でも、先輩が言った「私から居場所を奪わないで」という言葉が少し引っ掛かる。あんなに優しい人なんだからどこにでも居場所ありそうだけど…
お風呂から上がり部屋でソシャゲのデイリーを消化していると、ドアから控えめなノックが聞こえてくる
このノックは姉だ、お母さんはもっと遠慮がないし、お父さんはノックしても入室禁止だ
「入っていいよ」
案の定ノックの主は姉だった。小さな袋を持っている
「奈妓ちゃんこれ、良かったら」
私が手を伸ばして袋を受け取ろうとすると、姉は一瞬躊躇した。
私は気にしていないような素振りで袋を受け取る。
あれから姉は私の身体に触れようとしない
昔のことだしそんなに気にしなくて良いのに…
「えっ?こんなに」
袋の中身は大量のベルマークだった
ベルマークってノートの他に付いてたっけ?短時間でこんなに集まるものなの?
「また見つけたら渡すわね。あ、菓子折りとかも持って行った方が良いのかしら?」
「い、いいよ!そんなことしなくて!ベルマークで十分」
てゆうかベルマークってあの変態ボランティア部で集めているのだろうか?
明日一応、部長の麗奈先輩に渡してみるか
「そういえばボランティア部の部長ってどなた?一回お姉ちゃんとして挨拶したいわ」
「え?部長は麗奈先輩だけど挨拶なんてしなくて良いよ!母親かよ!」
麗奈先輩の名を聞いた途端に姉の動作が止まる
「麗奈先輩?もしかして…倉園麗奈さん?」
「そうだけど、知り合い?」
姉も麗奈先輩と同じ二年生だ。知り合いでもおかしくない
「知り合いと言えば知り合いね…」
なんか含みがある言い方だ
もしかしてそんなに仲良くないのかもしれない
気になったが、深く詮索するのも悪い気がする
「学校で会ったら宜しく言っておくわ」
そう言い残して姉は部屋から出ていった。