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遠山奈癒エピローグ『姉妹の距離』

週末、初デート。朝から晩まで遊んだのにまだ遊び足りなかった私は結衣を家に誘う

彼女はこくりと小さく頷いてから付いてきてくれた。




「えー!勝ったと思ったのに!」


「はっはっはっ!油断大敵!」


逆転勝ちで結衣とのゲームに勝利する

パズルゲームは私の方に分があるみたい


「……………」


「結衣?」


急に黙り込んでしまった結衣

もしかして機嫌を損ねたか?


ピトッ


「!!!!!」


隣に座っていた結衣が私に身を寄せた

その瞬間、彼女を家に誘った時の反応の意味を理解した。

私、『彼女』を部屋に連れ込んでんじゃん!!

勿論、結衣が彼女だってことを忘れていた訳ではない、今日一日楽し過ぎてつい今までのノリで誘ってしまった。二人で夜遅くまでゲームして、寝る時になってちょっとドキドキする。そんな日常は終わりを告げていた。今、隣に居るのは友達じゃなくて恋人だ


むにっ


結衣の勇気に答えて私は彼女の胸を触った


「…奈妓ってホント順序分かってないよね」


結衣の冷たい声、どうやらまた私は順序を間違えたみたいだ

先日、【自主規制】をしてしまってしこたま怒られたばかりだというのに


「ご、ごめん」


慌てて手を胸から離そうとしたけど、結衣はその手を握って抑える

どういうことだ?これは触って良いってことなんだろうか?


「い、いいの?」


「聞くなバーカ///」


ごくりと生唾を飲み込んでから結衣の胸を触る

今の私の顔って相当キモいんだろうな…


あれ?結衣って…


こんなに胸あったんだ………




「あん♡奈妓ちゃん大胆///」


「うわぁぁぁ!!お姉ちゃんじゃねーか!?」


最悪だ!結衣との初デートは全部夢だった!!

『彼女』のおっぱいじゃなくて『お姉さま』のおっぱいを揉んでいた!!


「あれ?」


何時もと違う香りがする…もしかしてこれも夢なのだろうか

いや、違う!この香りはバラ…つまり


「お姉ちゃんの部屋じゃん!?」


「そうよ」


「なんで私お姉ちゃんの部屋で寝てんの!?昨日、自分の部屋で寝た記憶あるんだけど!運んだの?ねぇ運んだの!?怖いんだけど!そして起きろ私ぃ~!!」


「奈妓ちゃんの寝顔見てたらつい///」


「だからって妹を自分の部屋に持って行ってはいけません!」


結衣との関係が変化してから姉との関係も変化した。

『あの日』以降、遠慮がちだった姉は私に対して全く情愛を隠さなくなった。

以前のように気兼ねない関係になることは望んでいたけど、こんな毎日セクハラしてくるようになるのは望んでない。


「あっ」


何時もと違う位置にある時計を見て気付いた。どうやら私は今まで完全に覚醒していなかったらしい

今日って結衣との初デートの日じゃん!!夢でデートしてる場合じゃない、早く準備しなきゃ!


急いで下に降りて顔を洗う。本当はシャワーも浴びたいけどそんな時間はない。上に戻って服を選ばないといけない


「うーん…分からんくなってきた」


鏡越しに見る自分の服装が良いのかどうか分からない

人並みにお洒落だとは思うのだが、なにせ相手はお洒落ギルド長の結衣だ

初デートだしバッチリキメて行きたい。


「これなんてどうかしら?」


姉が手にしている服を見る

普通に部屋に入ってきてるけど、もう一々つっこむのも疲れた


「…いいんじゃないかな」


確かに姉が持っている服は良いと思った。見たことない服だから恐らく姉が新しく買ったんだろう

私にくれるのかな?有難いけどもう少し自分にお金使った方が良いと思う。このままだと将来ニートになる自信ある。


「わー♡奈妓ちゃん可愛い///」


鏡に写る自分を見る。可愛いかは分からないけど、似合っているとは思う

姉が私の為に選んでくれたんだから似合わないハズはないよね。

嬉しそうに私の髪を梳かしている姉。ちょっと恥ずかしいけどお礼を言わなきゃと思った。でも一つ気付く


いつ着替えた私?


「いつの間に着替えさせた!?「…いいんじゃないかな」って言ってから3秒くらいしか経ってないよ!妹のこと脱がし慣れてませんか?サイズがピッタリ過ぎるのも怖くなってきた!私が寝てる間なんかしてるよね!?そしてやっぱり起きろぉ私~!!」


「えへへ///奈妓ちゃんとお揃い」


「ねぇ話聞いてるって…お揃い?」


鏡に写る姉をよく見てみる。…今の私と同じ格好!?


「うぉぉぉぉっ!ペアルックじゃねーか!?姉妹でペアルックって阿佐ヶ谷姉妹くらいしか許されねーぞ!!」


脱ぎ捨てたくなったが、もう本当に時間がない

初デートで遅刻なんてしたら注文が多い小鳥遊料理店になにを言われるか分かったもんじゃない

階段をドタバタ音を立てて降りる。背後からも足音がするのが気になる。…着いてくるつもりじゃなかろうな?


慌ただしく靴を履いて、外に飛び出す。

…飛び出したが、まだ背後に姉の気配があるので一喝してやろうと振り向いた。

初デートに姉を連れて来たりなんてしたらツインテールで往復ビンタされちゃう


「!!!!!」


確かに姉は背後に居た。でも玄関からは一歩も出ていなかった。まるで透明な壁に阻まれているみたいだ


「お姉ちゃん…」


優しい笑顔で手を振ってくれている姉の姿を見ると、自分の誤解に気付く

姉はもう私が本当に嫌がることは決してしない、ソファの上で私を押してくれたように私の幸せを最優先にしてくれているんだ


「お姉ちゃん!」


「な、奈妓ちゃん?」


初デートは遅刻するかもしれない

それでも世界でただ一人の私の自慢のお姉ちゃんに抱きつかずにはいられなかった


「…今の私とっても幸せだよ。それもこれも『あの夏』にお姉ちゃんが抱きしめてくれたお陰」


「奈妓ちゃん…お姉ちゃんはずっと奈妓ちゃんの味方だからね。また奈妓ちゃんが悲しい想いをしたらいつでも抱きしめてあげるから、今度は『お姉さま』じゃなくて『姉』として…ね」


「うん!」


ゆっくりと姉から離れ、「いってきます」と手を振る

姉もさっきより眩しい笑顔で手を振って返してくれた。


私達は姉妹の『禁忌』を犯してしまった。けれどもまたこうやって笑い合える日がやってきた。

この先、笑ってばかりいる人生ではないだろう、それでも私には姉が居る。辛い時、悲しい時でもいつだって大好きな姉に抱きしめて貰える。そう思うとこれから何があってもやっていける気がしてきた。

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