【倉園麗奈視点】藤詩織エピローグ『ルーキーの実力は?』
「よろしくお願い致します」
そう言って深々と頭を下げた新入部員を複雑な表情で見つめる陽咲
誰とでも打ち解けられる陽咲にしては珍しい表情
…まぁそれも無理はないわね
だって新入部員はあの『藤詩織』なんだから
「この娘、『禁忌』に触れて『追放』になってるよね」
「確かに詩織さんは『お嬢様』としての『禁忌』に触れた。けれども『部員』としての『禁忌』には触れていないわ」
「なにそれ…」
ぷくっと頬を膨らませる陽咲
可愛らしい姿だが彼女としては抗議しているつもりらしい
「これ、宜しければどうぞ」
詩織さんが持ってきてくれた高級そうなクッキーを三人で頂く
彼女は私と違って本物の財閥令嬢らしい、通りで高価な香水を持っていた訳だ
高級クッキーの美味しさに陽咲の機嫌は少し直ったみたい
「詩織ちゃん、どうしてウチに入ろうと思ったの?」
「ここで女を磨いて、奈妓さんを墜とす為です。」
私が『藤詩織』の入部を許可した理由がこれだ
『野望』を抱く女は伸びる。『遠山奈妓』と『小鳥遊結衣』にもそれがあった。
だから私は彼女達を入れたし、実際によく働いてくれた。
「まだ奈妓ちゃんのこと諦めてないんだ?」
「諦める?むしろ奈妓さんへの想いはさらに強くなりました。人の物って欲しくなりませんか?汚らわしい虫に捕食された奈妓さんは以前よりもさらに魅力的に見えます。ああ…早く奈妓さんと繋がりたい、でも焦っては駄目、虫との愛情が深まり育ちきったその時に横から掠め取ってやって初めて満たされる。彼女への情があるのに私との性欲に負けて堕ちてしまう奈妓さん、その時の虫の表情はさぞかし見物でしょうね。その後は奈妓さんの姉の番です。奴の部屋のベットの上で奈妓さんとキスしている所を見せてやります。地位も名誉も全て揃っているのに、最愛の妹だけは盗られてしまった可哀想なお姉さん。想像するだけで身体が火照ってきます。テニス部の唐変木は、墜とし済みの奈妓さんに嘘の告白をさせて有頂天にさせた後に真実を告げて絶望の淵に叩き落してやります。うふふ…奈妓さんは私の玩具、今は虫に囚われてしまっているけど必ず取り戻す。取り戻したら首が取れるまで遊びつくして最期にはゴミ箱に捨ててやるんです。」
「へーそうなんだ」
今、息継ぎしてた?
かなり狂気を感じる発言だったけど、それ以上に「へーそうなんだ」で済ませて、幸せそうな顔でクッキーを頬張っている陽咲の方が狂気を感じる。
改めて彼女を好きになるということは茨の道なんだと思い知らされた。
「いい加減にしなさい!」
『追放』になり、肩を落として去って行く『お客様』を見送った後、詩織さんに詰め寄る。
彼女がボランティア部に入ってから数日間、何度も繰り返されてきた光景だ
「私なにか悪いことしました?あっちが勝手に触ってきたんですよ」
「明らかに貴女から誘ってたでしょ」
「あんな安い誘惑に負ける方が悪いと思いますけど」
「その誘惑をするなと言っているの!前にも言ったけど私達は『お嬢様』を癒すのが仕事なのよ」
「…そんなのつまらないです」
久しぶりに頭に血が上った
チャリン
ハイキックが詩織さんの頭を捉える間際、缶にお金が入る音がした。
寸前で止まって良かった。『お嬢様』に部員を蹴り倒す姿は見せられない
「そんなにつまらないなら私と遊ぼうよ」
「陽咲!?」
お金を入れたのは『お嬢様』ではなく、陽咲だった
どういうつもりだと問おうとしたが、彼女の漆黒に染まった瞳がそれを許さない
「へぇ…陽咲先輩が相手してくれるんですか?それなら少しは楽しめそうです。言っておきますが、今の私が奈妓さんに敗れた時と同じだと思っていたら大間違いですよ」
「…先に行ってて」
詩織さんをソファーに促した後、机の上にあったモニターを取る陽咲
「麗奈には見せたくないから」
そう小さく呟いた後、陽咲もモニターを持ったままカーテンの先へと消えた
「ずびばぜんでしたぁぁぁっ!!」
カーテンが開くと同時に私に縋りついてきた詩織さん
先程とは正反対な態度に面食らう
「わ、分かれば良いのだけど…」
「ダメだよ詩織ちゃん。謝る時はどうするんだっけ?」
「は、はいい!全裸になって土下座ですうぅ!!」
「いい!いい!そこまでしなくて良いから!」
ブラウスのボタンを外し始めた詩織さんを慌てて止める
カーテンの向こうで何があったのか気になったが、それを陽咲に聞く勇気は持てなかった。
彼女を好きになるということは茨の道どころの話では済まないのかもしれない




