【倉園麗奈視点】麗奈・陽咲エピローグ『永遠に返事が来ない恋文』
カーテンを開け、中に残っている奈癒さんの様子を見る
彼女はソファの上にうつ伏せで倒れていた。何故か頭にパンティーを被っている。途中で取ったと思っていたけど自分で被りなおしたのかしら?生徒会長にあるまじき姿ね
けれども私は彼女を立派だと思う
「見直したわ」
「…うるさい黙れ」
うつ伏せのまま奈癒さんが返答した。
良かった。生きてた。ここが事故物件になったら困る
「どうして最後に奈妓さんを突き飛ばしたのかしら?」
「…私の中の悪魔が囁いた」
「それを言うなら天使でしょ」
「……………」
返答がない、もしかして本当に死んだ?
確かめようと手を彼女に近づける
「触るな!」
「きゃっ!」
急に起き上がってくるものだから、思わず悲鳴を上げてしまった。
外の陽咲に聴かれてなきゃ良いけど
「私に触れて良いのは奈妓ちゃんだけよ!」
「はいはい」
「私は諦めない、血の繋がりは永遠、奈妓ちゃんを取り戻すチャンスはいくらでもある」
「頑張って」
「倉園麗奈、いずれ貴女にもこの屈辱をお返しするわ」
「それはどうも、お帰りはあちらです。お嬢様」
私に恨みを抱くのは逆恨みだと思うのだけど…
きびきびとした足取りで部室から去って行く奈癒さんを見送る
ショックなことがあったばかりなのにもう生徒会長としての威厳を取り戻している。流石ね。
頭にパンティー被ったままだけど…
「麗奈!」
「わっ!」
入れ替わりに陽咲が私の胸に飛び込んできた
思わず抱きしめてしまう
「ど、どうしたの?」
「だって、心配だったんだもん」
いつもより子供っぽい口調の陽咲、上目遣いの瞳に胸が高鳴ってしまう
心音に気付かれないように努めて冷静に返事をする
「心配する必要なんてなかったのに、この私が部長なのよ」
「あはは、そうだね」
陽咲の笑顔に心が吸い込まれそうになる
いけない。自分にはその資格がない、奈癒さんみたいな立派な人間じゃない
事実、私は奈妓さんを売った。結果的に小鳥遊さんになったけど、奈癒さんを選んでいてもおかしくは無かったと思う。ボランティア部と奈妓さん…いや、陽咲と奈妓さんを天秤に掛けて私は陽咲を選んだ。最後の最後で妹の幸せを選んだ奈癒さんとは違う
「麗奈」
陽咲の呼ぶ声に我に返る
しっかりしないと、暗い顔を見せては駄目、私はこれからもボランティア部を守っていかないといけないんだから
「居場所を守ってくれてありがとう」
「!!!!!」
陽咲の背中から翼が見えた
ついに私にヤキが回ったのかしら、人間から翼が生えるなんてありえない
私は信心深い方ではない、どちらかというと無神論者だ
それでも私の眼には彼女が全ての罪を赦してくれる天使に見えた。
「…貴女の居場所は私の居場所でもあるわ」
「え?」
しまったと思った。動揺して変なことを言ってしまった。
これじゃあプロポーズしてるみたいだ
「……………」
「ち、違うわ、今のはそうじゃなくて」
無言で私の眼を探るように見ている陽咲
耐えられず私は必死に否定した。
「二人とも今頃キスしてるかなぁ?」
話題が変わった、そうだ、今ここで私達が禁忌を犯したら折角守った居場所が無くなってしまう
自分達で巣を壊す鳥なんていない、これは陽咲なりの警告なんだ。今度は返答を間違えない、冷静に返そう。
「…私達もキスしちゃおっか?」
「!!!!!」
思考が回らない!答えが出てこない!奈癒さんと交渉していた時はこんなこと無かったのに!
キス…する?していいの…?
唇に柔らかい感触を感じる。
陽咲の人差し指が自分の唇に触れていた。
「なんてね♪」
悪戯っぽく笑った陽咲は私から離れる
からかったのではない今のは正真正銘の警告
人を好きになることを止めた彼女を愛するということは永遠に返事が来ない恋文を出し続けるのと同義だ
いつか陽咲が再び人を好きになれた時、それが例え他の誰かであっても私は奈癒さんのように引くことが出来るだろうか?
そう思いながら私は紅茶を淹れ始めた彼女をぼんやりと見つめていた。




