自ら檻に入った天使
「じ、じゃあ早速」
私はソファーの上で隣に座る陽咲お姉さまの肩に触れる
「ちょ、ちょっと待って!先にこれ読んで」
私の手から逃れた彼女は一枚のラミネートされた紙を差し出してきた。
紙には『禁忌』と書かれている
「禁忌?」
「ルールね、初めてのお客さんには全員これを読んで貰ってるんだよ」
『禁忌』の内容を読む
要約するとこうだ
・部員の嫌がる所を触ってはいけない
・部員とキスしてはいけない
・部員と客は部室で連絡先を交換してはいけない
・部員と客は部室の外で恋人になってはいけない
・部員同士で恋人になってはいけない
※あくまで部室の中での疑似恋愛です。節度を持って遊びましょう
一通り眼を通した私は陽咲お姉さまに質問する
「連絡先を交換するのもダメなんですね」
「うん、そこから恋愛関係に発展してしまうかもしれないから」
連絡先は交換出来ないのに抱きしめることは出来る
固いのか緩いのか…
「どうして恋愛関係になるとダメなんですか?」
「疑似恋愛といっても恋人が居る相手を抱きしめるのは嫌でしょ?愛している人がいるのに他の人を抱きしめるのも悪いし」
それは確かに…
自分の心が納得する。陽咲お姉さまに私以外の恋人がいるなんて耐えられない
「じゃあ陽咲お姉さまには恋人が居ないってことですよね?」
「そうだね…でも、奈妓ちゃんと恋人になることもできないよ」
悪戯っぽく陽咲お姉さまが笑う
可愛すぎるこの人
今すぐ抱きしめてめちゃくちゃにキスしてやりたかったが、最後に確認することがある
「『禁忌』を破れば恋人になれますよね?」
陽咲お姉さまの笑顔が消える
「そうだね…退部になっちゃう、でも私はこの部が好きなの。私から居場所を奪わないで」
「どうしてこんな部活が好きなんですか?」
陽咲お姉さまから質問の返答はなかった
代わりに彼女は私に両手を伸ばす
カーテンの隙間から差し込む光に照らされた髪のハイライトが天使の輪っかに見える
「もう時間がない。愛し合おうよ」
心臓が一気に高鳴るが、不思議とえっちな気持ちになることはない
そうだ、これは神聖な儀式なんだ。私と『お姉さま』の再開の儀
彼女を抱きしめる
強く、強く、もう離さないように
あの時の気持ちと感触が蘇って…
こねぇ
「誰だお前?」
「えっ?」
耳元で囁いた私の冷たい言葉に陽咲先輩がたじろぐ
「陽咲先輩は『お姉さま』じゃない!」
彼女の肩を押して離れさせる
「あ、やっぱり違ったんだね」
「だましたんですか!?」
「そっちが勝手に勘違いしたんだよ!!」