★100円は安すぎません?
私は慌てて否定する
「あ、『抱く』っていうのはそういう意味じゃなくて、抱きしめるって意味でしてね…『抱く』のはまだ早いというか…ゆくゆくは抱かれるつもりですけど…」
モジモジする私を見て、麗奈先輩が小鳥遊に訪ねる
「この子っていつもこんな感じなの?」
「クラスではどちらかというと地味な感じですけどねー」
いけないいけない、自分と陽咲お姉さまの世界に入り浸ってしまった
部員の皆に引かれている
「つまり、奈妓ちゃんは『お嬢様』になりたいのかな?」
「え?」
陽咲お姉さまの発言の意味を測りかねている私の前に小鳥遊が空き缶を置く
「陽咲先輩を抱きたいならお金払ってねー」
「え?お金?」
ますます意味がわからない、どうして私と陽咲お姉さまの間にお金が発生するんだ
「奈妓ちゃんは『ボランティア部』の活動内容を知っているんじゃないの?」
逆に陽咲お姉さまが首を傾げて困った顔をする
「はぁ~しょうがないわね」
見かねた麗奈先輩が口を挟む
「本当は新一年生に明かすのはまだ早いんだけど、特別に説明してあげる。この『ボランティア部』は表向きは慈善活動をする部活だけど、裏の活動があるの」
「裏の活動?特別な力で幽霊を祓っているとかですか?」
「漫画の見過ぎね」
麗奈先輩は軽くため息を付いた後に説明を続ける
「裏の活動は女の子を癒してあげること…お茶しながらお喋りして最後に抱きしめてあげるの」
なんだそれ、裏の活動って先生は把握しているのか?『裏』って言うからには先生は把握してないよな
だいたいそんないかがわしい活動、学校が許可するワケないし
「つ、つまり『ボランティア部』の活動内容は、女の子からお金を貰って抱かれること?ふ、不謹慎過ぎませんかね?」
「不謹慎とは結構な言い草ね」
私の発言にあからさまに不機嫌になった麗奈先輩が答える
「だ、だって不謹慎じゃないですか!ボランティアなのにお金取ってるし、えっちだし」
「貰ったお金は寄付しているし、えっちだと感じるのは貴女がいかがわしい人間だからよ」
「私がいかがわしい!?不特定多数の人と抱き合う方がいかがわしいと思うんですけど!」
険悪な雰囲気になった私と麗奈先輩の間に小鳥遊が割って入る
「まぁまぁまぁ、べつに強制はしてないからさ、それで…ナギっちは陽咲先輩を抱くの?抱かないの?」
「抱くけど」
「抱くんかい」
即答した私に麗奈先輩がズッコける
この人意外とノリが良いのかもしれない
「じゃあ入れて」
小鳥遊が空き缶を指さす。
私は財布を取り出しありったけの札と小銭を入れた
「まてまてまてっ!!!」
「足りないですか?足りないなら定期も入れます!!」
「いやいやどうやって帰るのよ…多すぎなのよ」
「多すぎ?」
多すぎと言われても高校生のおこずかい程度の金額だ
大好きなお姉さまとまた抱き合えるくらいなら安い金額だと思うんだけど
「100円で良いよ」
「バカなのかなお姉さまは!?」
笑顔で人差し指を立てていた陽咲お姉さまは私の剣幕に驚いて固まる
「もっと自分を大事にして下さいよ!もう一人の身体じゃないんですからぁ!」
「陽咲先輩妊娠してるのー?」
「し、してないよ!」
ぎゅうぎゅうになった空き缶から麗奈先輩がお金を取り出す
後には100円玉一枚だけが残った
「貴女の情緒はジェットコースターかなにかなの?…さっきはいかがわしいと否定しておきながら、今は大金を払っていかがわしいことをしようとしている」
「抱きしめるだけですよね?いかがわしいことしようだなんて」
「そんな大金出されたら抱きしめる以上のことをすると思うでしょう」
うっ…それもそうか
陽咲お姉さまにプレッシャーを与えてしまうよね
それにしても100円は安いと思うけど…
私が正気に戻ったのを見て、陽咲お姉さまがさっきのソファーがある部屋に誘う
「奈妓ちゃんおいで」
「はい!」
バイト初日の新人のような良い返事をして私は立ち上がった
これから『お姉さま』の陽咲お姉さまを抱くんだ…
☆用語解説☆
『お嬢様』 ボランティア部に来るお客さんの生徒
メイド喫茶の『ご主人様♡』と同じ意味