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私は牛か

あれから私は今まで部活に費やしていた時間を勉強に費やし『お姉さま』の高校を受験した。

地元では高偏差値の女子高だ、当時の学力では厳しかったが、『お姉さま』にもう一度会いたいという一心で勉強して入学することが出来た。


放課後の校舎を歩いていると、ついつい赤いリボンの生徒を目で追ってしまう

『お姉さま』は赤いリボンを付けていた。三月に卒業した生徒は青のリボン、この春に入学した私達も青のリボン。つまり年代によって付けているリボンが異なるのだ

赤いリボンは当時の一年生が付けていた、即ち『お姉さま』は現二年生


なんだけど…

一学年の生徒数は200人以上居る

顔も知らない相手を200人の中から見つけられるだろうか

もう一度抱きしめてもらえば分かる自信はある

けど、片っ端から先輩に「抱きしめて下さい」なんて言えないよなー

フリーハグでもするか?いやいやいや痴女だと思われるよ…


「バレー部いかがですかー?」

「軽音楽部でーす!初心者も大歓迎!」


下駄箱に着くと、様々な部活勧誘の声が聞こえてきた

私はその声から逃れるように身を屈めて通り過ぎようとする

もう部活はやりたくない、だいたい『お姉さま』を探すんだからそんな暇はない


「ねぇキミ、良ければテニス部で青春の汗を流してみないかい?」


げっ!

よりによってテニス部に話しかけられるのかよ


「あ、間に合ってます」


「新聞じゃないよ」


「無神論者なんで」


「宗教の勧誘でもないよ」


「朝はパン派なんで」


「それは何に勧誘されてるの?」


明らかに嫌そうな感じで返答しているのに、勧誘してきた先輩は引き下がらない


「ん?君どこかで見たことある気がするな…ひょっとして前にテニスしてたのかな?」


私のことを知っている?過去に対戦したのだろうか?

この学校に来たのは『お姉さま』に会う為、そしてもう一つ理由がある

『あの夏』から逃れる為…あの夏のコートを知っている人に会わないように地元から少し遠いこの高校に来た。

嫌な汗が身体中を覆う。脳裏にあの夏のコートが蘇る


「あ、あ、あ」


胸が苦しい、駄目だ

助けて…『お姉さま』

私の異変に気付いたのか、勧誘してきた先輩は眉をひそめた




「大丈夫?」


優しく声をかけられた

勧誘してきたテニス部の先輩と違う人だ

彼女は人懐っこい笑顔で手を伸ばす。私は差し出された手を握る。

笑顔の下には赤いリボンが揺れていた。


『お姉さま』なの?

また助けてくれた?




数分後、私は先輩に連れられて部屋に招かれる

入り口には『ボランティア部』と描かれていた。


促されて部屋にあるソファーに座る

学校にソファーは少し場違いだと感じたが、それよりも気になることがある


先輩が『お姉さま』かどうかだ

淹れてくれた紅茶に口を付けてから、訪ねてみる


「あの…先輩は女の子を抱きしめたことありますか?」


優しく見つめていた先輩の眼が大きく見開かれる

しまった…動揺してて色々端折ってしまった。変な子だと思われているかもしれない


「え、知ってるの?」


「知っている?」


やっぱり…やっぱりこの人だ!!

この人が駅で私を抱きしめてくれた『お姉さま』なんだ!!


「す、好きです!好きなんです!ずっと好きなんです!あの日に抱きしめて貰ってからずっと!私、貴女を追ってこの高校に入ったんです!好きです!大好きです!!」


想いは濁流のように溢れていく…この日を待っていた

私の灰色のような人生に唯一の光を差し込んでくれた『お姉さま』に想いを伝えられる日を


身を乗り出して迫る私を先輩は手で制止する


「ちょちょちょストップ!ストップってば!」


「好き好きしゅきぃ!!結婚ちてぇぇ!!」


眼がハートになっている私の背中を先輩が擦って落ち着かせる


「べーべーべー」


私は牛か




「何をしているのかしら?」


突然入り口から声をかけられた

振り向くと背が高い先輩が巻いてある髪を弄りながら私を睨んでいる


「名簿に名前が無いようだけど」


「あっこの子は『お嬢様』じゃなくてね」


『お嬢様』?なんの事だろう


学校の中じゃあまり聞かない単語だ

偏差値は高いけどお嬢様学園って雰囲気ではない

「御機嫌よう」って挨拶もなければ、新入生は先輩の付き人になるという百合アニメと強豪野球部でしか見たことないような制度も存在しない


背が高い先輩は更に『お姉さま』に詰め寄った


「『お嬢様』じゃない?だとしたら貴女はプライベートな関係を女の子と持っているのかしら?それは『禁忌』に該当するわ」


『禁忌』?またわからない単語が出てきた。序盤で読むのを止めるラノベで出てきそうな展開だ


「違うの!この子は体調が悪そうだったから連れてきただけなの」


「それであんなに好き好き連呼させるくらいに惚れさせるなんて対した才能ね」


『お姉さま』は手を振って否定する


「違うの!この子なんか誰かと勘違いしてるみたいで」


本当かと背が高い先輩が私に視線を向ける

冷たくて綺麗な眼差しに一瞬たじろぐが、すぐに気を取り直して『お姉さま』を説明する


「あれは去年の夏…」


「ちょっとお待ちなさい、そんな前から話すのかしら?」


話の腰を折られて私は冨岡さんのような仏頂面になった。


「折角だからみんな集まってから話して貰おっか」


『お姉さま』はそう言いながら紅茶のカップを別の部屋に用意した。

☆用語解説☆

『お姉さま』 駅で奈妓を抱きしめて慰めてくれた意中の人

       顔も声も分からない

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