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【過去話】部活引退

県大会への切符をかけた団体戦の大将戦

私は大将としてコートの上で戦っていた

何度も戦ってきた相手だ、通算成績は私が圧倒的に勝ち越している

普通にやれば絶対に負けない相手


私が放ったコート際のボールを相手が横っ飛びで拾う、ボールはぽーんと緩い弧を描いてこっちに飛んできた

軽くドロップして相手のコートに落とす。

歓声が沸く、私に対してじゃない、相手の横っ飛びのプレイに対してだ。


「おねえちゃんがんばってー!」


相手高の声援に混じった幼い声の主をつい探してしまう

幼稚園児くらいの幼い女の子が小さな拳を握りながら応援しているのを見つける

その横には遺影を膝に置いたおばあさんが必死に数珠で拝んでいる。

いやいやいやいや家族総出で来てんの!?中学生にまでなって恥ずかしくないの?

これじゃあ私が悪者みたいじゃん


その後、優勢だった試合展開は互角になり、ついには劣勢になった

そして…


私は負けた


最後はダブルフォルトという情けない終わり方だった。

試合終了と同時に相手の観客がコートになだれ込んでくる

ワンカップ片手に顔真っ赤なおじさんまで居る

係員が乱入者を制止する中、私と相手は握手した。相手がなにか告げてきたが耳には入らなかった。


「ごめん…」


自チームの元に帰ってきた私は皆に謝罪する

どんな厳しい言葉でも受け入れる。そう思っていた

けれど、私の予想に反した言葉を皆はかけてきた。


「奈妓が居たからここまで来れたんだよ」


「そうそう、だから謝ることないって」


「受験勉強出来る時間が増えてラッキーだし」


皆は私を励ます為に言ってくれているんだ

そう分かっている。分かっているけど、虚しい気持ちになった。

私は負けて良かったんだ、負けて良い努力をなんで三年間してきたんだろう…




帰りの電車、皆は心配してくれたけど一本遅い電車で帰ることにした

ホームのベンチに腰掛けて電車を待つ

一人になると、抑えていた気持ちが溢れてくる

私は眼を瞑った。涙なんて流したくない

泣いてしまったら今までの努力がより虚しくなるだけだから


どれくらい眼を瞑っていただろう

ふと眼を開けると隣に人が座っているのが視界に入った。

スカートの柄から姉と同じ進学校の高校生だということが分かる

どうしてベンチは開いているのに、わざわざ私の隣に座るんだろう

そう疑問に思っていると突然視界が闇に染まった。


「えっ?」


眼を瞑ったからじゃない

抱きしめられているんだ

隣の人に…


高校生は優しく私の髪を撫でる

その瞬間、抑えきれなくなった、気持ちが決壊した。


「うわぁぁぁっ!!」


大声で私は嗚咽する

その間、高校生はずっと私を撫でてくれていた

彼女は無言だった。でもそれが心地よかった。




汽笛の音が聴こえてきた

高校生が私からゆっくり離れる

きっとこの電車に乗るんだ

離れる途中で首の赤いリボンが視界に入った


「ありがとうございます」


泣き腫らした酷い顔を見せないように俯きながらお礼を言う

彼女は最後に私の頭をぽんぽんしてから電車に乗って行った。後には彼女の仄かな香水の香りだけが残される。


彼女が去った後、私は感触を逃さないように自分の身体を抱きしめていた。


結局私は電車を二本遅らせて自宅に帰った。

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