★ムードを大切にして下さい!
ソファに座るなり、麗奈先輩が腕を伸ばしてきた
私は身を逸らしてそれを躱す。
「ガッつき過ぎです!」
「ガッつきって貴女ねぇ…今更話すこともないでしょ」
お姉さまは何も分かってない、ムードっていうものを分かってない
舞踏会で王子様とシンデレラがキスして終わりじゃ読者は興ざめしてしまうだろう
王子様がシンデレラを探し当てて結ばれるから感動が生まれるのだ。
「先にあれして下さいよ。顎クイ」
「求められてやるものじゃないでしょ…」
背が高くて美形な麗奈先輩は宝塚的な人気があり、何度かお客さん相手に顎クイしているのを画面を通じて見たことがある。
自分がやられているワケじゃないのに凄く胸がドキドキした。
あの麗奈先輩の卍解を自分も体感してみたい
「しょうがないわね…」
麗奈先輩が私の顎に手を添えて軽く引く、顔を向けられた私と彼女の眼が合う
なんて綺麗な顔なんだろう、美術の授業で見た宗教画のようだ
「……………」
麗奈先輩の顔も仄かに朱が指してきた
これは…彼女も同じ気持ちなのかな?
顔を近づけようとするが、顎に添えられていた手に力を込められて前進出来なかった
「むぎゅ」
「なにしようとしてるのよ」
前進が止まった私の顔から手を放す麗奈先輩
私は押さえつけられた顎を擦る
「顎が割れたらどうするんですか?」
「自業自得よ」
顎はどうやら割れてないようだ
気を取り直して向かい合う私と麗奈先輩
言葉を交わさなくてもわかる。頃合いだ
麗奈先輩との距離が狭まっていき…ついには重なる
違う
「違うじゃないですか!」
「だから最初から言ってるでしょ」
「そんな!顎クイまでして弄んでおいて!」
「…貴女がやらせたんじゃない」
カーテンを開いて戻ってくる私と麗奈先輩
陽咲先輩と小鳥遊がさっきと同じ冷たい視線で出迎える
そのゴミを見るかのような視線をやめろ
私の『お姉さま』探しはまた暗礁に乗り上げてしまった。




