天気デッキで乗り切れ!
仕切り用のカーテンを開いて先輩とソファに座る
えと、まず紅茶を出すんだよね
家で姉に甘やかされているので紅茶の淹れ方もよく知らない
私はたどたどしい手つきで紅茶を淹れた。
「可愛いね」
「えっ?」
突然、先輩に話しかけられて紅茶をこぼしそうになった
真正面から口説かれるのは慣れてないので照れる
彼女の顔を見ると凄く優しい顔をしていた。
もしかしてこの人が『お姉さま』なのかな
そう思うと自分の体温がどんどん上昇してきた
「そ、そんなことないです」
なんとか返答する
いけない、まずはお話ししなきゃ
そう思うけど話題が出てこない、元々私は会話が得意なタイプではない
「て、天気良いですよね」
無理に絞り出した会話内容は『天気』だった
バカ!近所の人と散歩中にすれ違ったお母さんかよ!そんな話題でJKが楽しめるハズないじゃん!
心の中で自分の頭をポカポカ殴る私であったが、先輩の反応は悪くなかった
「そうだねー春って感じがするよね。そういえば春と言えばさ…」
意外にも『天気』の話題から会話は繋がり、盛り上がる
違う、先輩が盛り上げてくれてるんだ
『お嬢様』に気を使わせているのは情けないと思いながらも彼女の優しさに感謝する
自分の中でこの人が『お姉さま』なのかもしれないという想いが強くなっていく
「おっと、もうこんな時間だ、そろそろ良いかな?」
朗らかに笑っていた先輩が急に真面目な顔になり、私との距離を少し詰める
そうか、抱かれる時間が来たんだ
「はい…」
お尻を上げて先輩との距離を詰めた
先輩は無言で私の背中に腕を回す
違う…
すぐに分かった
この人は『お姉さま』じゃない
けれどもまだ仕事中だ、陽咲先輩の時のように暴言を吐いてはいけない
「………」
さっきまであんなに喋ってたのに、今はお互い無言だ
彼女のシャンプーの香りが鼻腔をくすぐる
これも『お姉さま』とは違う匂い
けど、人と触れ合う経験が薄い私はどうしてもドキドキしてしまう
陽咲先輩の時よりも強く感じる胸の感触も私の理性を揺らがせる
ピピピピピ!
タイマーが鳴る。終了の合図
「ありがとね」
そう耳元で呟いた先輩に俯きながら小さな声で返事した。
「はい…」
俯いていたのは顔を上げると真っ赤な顔を見せてしまうから
先輩と一緒にカーテンを開いて部屋に戻る
途端に小鳥遊が走り寄ってきた。口には何故か笛を咥えている
「ピピーイエローカード!」
え?なんか『禁忌』を犯した?
イエローカードってサッカーの試合で審判が出すヤツでしょ
唖然としている私の制服のポケットに小鳥遊は無遠慮に手を突っ込んできた
ちょ!なにすんの!
「はい、LINEのIDみっけ!これはどういうことですカナー!?」
びっくりして小鳥遊が取り出した紙切れを見る
抱き合った時に入れられたのか?
「いやーバレちゃったか」
イエローカードを貰った先輩はウインクしながら舌を出す
全然反省してねぇな!
「これで二枚目ね。カメラの死角から連絡先を忍ばせるとはかなり悪質ね」
麗奈先輩が呆れた声を出す。ん、二枚目?今、二枚目って言った?
「だから言おうとしたのに…」
陽咲先輩が軽く麗奈先輩を睨んだ
麗奈さん?
「あー言い忘れてたけどコイツは前科があって、前は陽咲に連絡先を渡そうとしたの」
「「絶対ワザと言い忘れてましたよね!?」」
小鳥遊とツッコミが被る。数年ぶりに気が合ったな
それにしても麗奈先輩は人が悪すぎる。ルーキーにさせる相手じゃない
一生付いていきますなんてもう二度と思わない
「彼女も三人居るって噂あるし」
ジト眼で呟いた陽咲先輩にプレイガール先輩が訂正する
「二人だよ。陽咲ちゃんも入れれば三人になるけどね」
無言でティーカップを振りかぶった陽咲先輩を麗奈先輩が慌てて止める
あの天使があんなに怒るなんて…
「さっきはありがと」
波乱万丈だった部活後、帰り道で小鳥遊に礼を言う
助けて貰ったわけだし、一応お礼は言わないとね
「べ、べつに…不正は見逃せないだけだし」
お前そんな風紀委員みたいなキャラじゃないだろ
って思ったけど、彼女なりの照れ隠しなのだろう
幼い時に止まってしまっていた彼女との時計がゆっくりと動き出したのを感じた




