8、座敷わらし(怖さレベル:低)
私は子供の頃から某国民的アニメの原作が好きで、大きくなってからはその原作者が主催するファンとの交流会イベントに参加していた。
確か二十歳前後の頃だったと思う。
今回はそのイベントの目玉でもある講義(制作秘話や裏話が聞ける)で聞いた話である。
作者先生の話によると、なんと「うちには座敷わらしがいるのよ」との事だった。
しかも怖がる所か名前も付けているとか。
面白い感性である。
当時、先生はもう何年も外泊以外に布団で寝た事が無かったらしい。
畳部屋の文机で漫画を描き、眠くなったらそのまま足を伸ばし、伸びをして横になる──
そんな生活を長い事続けていたそうだ。
正直、聞いているだけで背中が痛くなりそうな話である。
そうやって横になっている時、たまに近くで人の気配がするというのだ。
始めの頃はアシスタントの子かと思っていたらしいのだが、どうにも気配が違うらしい。
小さくてまるで子供のような──
しかもその気配は壁しか無い筈の頭上から感じられる事もあり、明らかに人ではあり得ないのだという。
その後、先生の話は「夢の中でお告げっぽい物を聞いた」という話に代わってしまった。
「ネンショには気を付けろと言われた」
「その後、アニメ化にあたって念書(契約関係の書類?)で大揉めに揉めた」
そんな感じの内容だった。
こちらの話はファン限定イベント以外でも語られている、割と有名なエピソードなので割愛する。
夜の宴会後、私はたまたま先生ご本人と宿の廊下で会った。
流石、ファンとの距離が近い事で有名な作者である。
挨拶やら原作愛を伝えつつ、私は「そういえば」と昼に聞いた座敷わらしの話を蒸し返した。
先生も、まさか漫画についてではなく小話に食いつくとは思わなかっただろうが、気になってしまったんだから仕方ない。
優しい事に、彼女は嫌な顔一つせず答えてくれた。
「お仕事をもの凄~く集中してる時なんかも来るんよ。視界にギリギリ入るか入らないかって所にね。でも『あぁ居るなぁ』って分かるんよ」
「寝てる時以外でも感じるんですか?」
「たまにだけどね。でも、こっちも原稿に集中しとるし、構ってやれへんから放っとくんよ」
「はぁ(まさかの放置!)」
「フフ、でも全然嫌ぁな感じはせんのよね。見守ってくれとるんやろなぁって思って漫画描いとるわ」
そんな感じの話をしてくれた。
月並みな発想だが、本当に座敷わらしだとしたら羨ましい限りである。
成功を収めるような人だから座敷わらしが住み着いたのか、座敷わらしが居たから成功したのか──
個人的には、「この先生だったから座敷わらしが住み着いた」と考えたい。
明るくサバサバとしていて、本当に優しい先生だった。
今はもう交流会が行われていないのが残念でならない。
ちなみにこの話を含む講義の内容は「録音は禁止だが、ネットに書き込むのは全然OK(※当時談)」との事であった為、こうして思い出しながら実話怪談として投稿するに至った。
講義中、「むしろ広めちゃって~」と笑っていた先生のおおらかさは見習いたいものである。
だからどうか座敷わらしさんは私の所にも来て下さい──
そんな下心だらけの俗物な私は、一人寂しくポチポチと文字を打ち込むのであった。
コアなファンの間では結構有名な話なので、もしかしたらこのお話に心当たりある方がいるかもしれません。
当時のメモを紛失してしまったので、かなりうろ覚えです。
もし「いやちょっと違くね?」という有識者の方がおりましたら、その辺の指摘はやんわりめでお願いします。
詰めが甘くてスミマセン。