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5、空飛ぶカニ(怖さレベル:ほぼ無)

 私の母から聞いた話である。

その話をする前に、母がどんな人物なのか少しだけ説明しておきたい。


 私の母は善良だが空気を読めない超ド天然である。

百姓の娘という事もあってか、生粋のお嬢様育ちだった義母にはかなりいびられて泣かされていた。


 しかし寝ればサッパリ忘れる人間なので全く根に持たない。

そして無いものを「ある」と言ったり、白い物を「黒」と言うような嘘を吐かない──そんな「馬鹿」がつく程の正直者である。


 さて、悪口のようになってしまったが、ここから本題に入る。



 私が物心つく前の幼児だった頃の事。

その日、母は縁側で遊ぶ私を横目に洗濯物を干そうとしていた。


 足元にカゴを置き、よく晴れた空を見上げた母は、生まれて初めて見る奇妙な物を発見してしまう。


「? 何あれ?」


 十メートル以上離れた前方上空に、銀色っぽい金属製の何かがウゴウゴと浮いていたそうだ。

少し角張った楕円形の下側に、七、八本の蜘蛛の足の様な関節のある機械的な何か──

それがプロペラも羽も見当たらないのにホバリングしていたというのだ。


 音は聞こえなかったそうだが、足(?)の動きはバラバラで、音で例えるなら「ガシャガシャ」とも取れる動きだったとか。


……申し訳ない。

母の語彙力がアレなので、私がどうにか汲み取れた描写はこれが限界である。


 すぐに母は「カニが飛んでる!?」と、その謎の状況に大混乱。

何だあれはと思いつつも、目が離せない。

謎の物体は足部分を動かしながらその場に留まっている。


「ねぇ彩葉、あれ見える? あれ何だろねぇ」


 相手は幼児である。分かる筈もない。


「ねぇ彩葉、分かるー? ラジコンかなぁ?」


 相手は幼児である。分かる筈も(以下略)


 だが当時のイメージではラジコンといえばプロペラ式。

男児の玩具に興味の無い母でも、あれは変だと思ったそうだ。


──義母を呼ぼうか。


 しかし当時の家は横に広い日本家屋であった。

祖母を探してる間に居なくなるかもしれない。

そうしたら信じて貰えない所か「嘘つき」だと責められるかもしれない。


 散々観察しながら悩んだ末、母は気にせず洗濯物を干す事にしたらしい。

マジかよ。


 その物体は徐々に徐々に前方へと離れていってるのが分かったそうだが、どうする事も出来ない。

結局干し終わるまでの間──二十分前後だろうか。

遠ざかっていく()()をチラチラと見送り、気付けば見えなくなっていたそうだ。


 当時はまだ高い建物が周囲に無かった為に視界が広く、何処かに降りるような動きがあれば気付いたと思う、との事。


「クモかカニのラジコンにしてはおかしかったし、UFOだと思ったよ」


「まぁ未確認飛行物体だからUFOではあるよね」


「難しい事言わないでー」


 難しかったらしい。


 ちなみにこの話を初めて聞いたのは私が六年生の頃だった。

その後も気になって何度か聞いたものの、情報量に変化なし。

結局、私達の間では「白昼夢か最先端のラジコンかもね」という結論に至る。

それからウン年後──


 私が大学生かそこらになった頃、テレビでドローンが話題となった。

それまで一般に認知されていなかった最先端の機械を見て、母は「あっ!」と声を上げた。


「形も動きも全然違うけど、こんな感じだった! 足あるし!」


 フワフワ上下に揺れるような動きでは無かったそうだが、チラッと調べてみたらドローンの歴史は長いらしいので、恐らくこれが答えなのだろう。


「でもなんでうちの庭にドローンが飛んでたんだろね?」


 それは確かに謎である。

家の周りは何の面白味もない住宅地だ。

しかも当時はまだ携帯電話が肩掛け(ショルダーフォン)のポケベル時代。

そんな時代にドローン。

違和感が凄い。


 母が見たのは本当にドローンだったのか──

ドローンだったとして、誰が何の為に飛ばしていたのか──


 謎は深まるばかりである。


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― 新着の感想 ―
[一言] ドローンかな?と思っていたらやはり似ていたんですね 「後にそれはドローンと呼ばれる代物になったのであった。めでたしめでたし」 と謎のナレーションが頭の中に流れました
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