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3、ノック音(怖さレベル:低~中)

 私は怖い話が好きだが、実はリアルの心霊現象については懐疑的である。

もちろん、体験談を話してくれた人達が嘘つきだと思っている訳ではない。

きっと本人達は本当に怖い思いをしたのだろう。


 ただどうしても「勘違いの可能性」や、「その時起きた偶然が作用した可能性」を一番に考えてしまうのだ。

本人や私が気付いてないだけで、科学的に説明がつく事象だったのではないか……と。


 なので私は可能な限り当時の事を詳細に聞くし、「こうだったのではないか」「この可能性はないか」とあれこれ考えてしまうのだ。


 さて、こんな面倒な性格の私だが、昔()()()不思議な体験をした事がある。

今までずっと「気のせいだった」と結論付けていたような地味体験だ。

しかし(当時としては)本当に鮮明であったし勘違いとも思い難かったので、一応の記録として残そうと思う。



 大学生の頃、私は「お絵描き」という共通の趣味を持つ社会人の女性達と仲良くなった。

ここでは仮にAさん、Bさん、Cさんとする。


 彼女達は真面目で優しく、世間知らずで生意気だった小娘の私をとても可愛がってくれた。

Aさん曰く「アホの子ほど可愛いって言うやんか」との事だったので、アホとは思われていたようだが。


 そんな彼女達と、大型連休を使って「海のお絵描き旅行」に行く機会があった。

我が人生初の四国旅行である。


 真面目な彼女達は綿密な旅行プランを練り、時刻表や分単位の移動時間の算出、食事処や宿の手配まで完璧にこなしてくれた。


 私がした事といえば自分の旅行費を貯める位で、完全にツアー参加のお客様状態である。

彼女達には頭が上がらないし足を向けて寝られない。

どんな体勢でいれば良いというのか。


 その四国旅行は一泊目は小さな宿、二泊目は民宿、三泊目はペンション、最終日が少しお高めのホテルと徐々にグレードを上げていくものであった。


 事は一泊目の夜──K県にある大自然に囲まれた小さな宿で起きた。

そこは木造で結構古く、かなり安い宿だったと記憶している。

部屋に入った途端、畳のど真ん中に握りこぶし大の蜘蛛がいて驚いた位だ。


 部屋は二人一部屋で、私とAさん、BさんとCさんの割り当てとなった。

夕食後に各々部屋に備え付けられている風呂に入る流れになり、私の入浴はAさんの後と決まる。


 風呂を出たAさんは「先にBさん達の部屋に遊びに行く」と画材を持って出て行ってしまった。

「物騒だから鍵を掛けるように」と言われたのでその通りにし、私も風呂へと直行する。


「狭っ」


 思わずそう声が出た程、浴室は狭かった。

戸を開けるとすぐ目の前が便器。

便器の真横が小さな洗面台。

その真横が狭い浴槽。

着替えを置く場所も無い為、便器の蓋の上に置くしかない。


 まぁ安いしこんなもんか、と気を取り直し、洗面台の前でこそこそと服を脱ぐ。

そしてシャワーカーテンを雑に閉め、ご機嫌に汚れと疲れを洗い流した。


 コンコンッ


 突然聞こえたノック音。

私は咄嗟にシャワーを止め、耳を傾けた。


 さて、一口にノック音と言っても扉を叩く音は色々ある。

手の横腹全体で叩く、低いドンドン音。

手をグーにして甲側で叩くコンコン音。

そして中指の第二関節で強めに叩く高めのコンコン音。


 私が聞いたのは自分でもよくやりがちな、中指の第二関節で叩く時に出る高めのコンコン音であった。


「?」


 コン


「……?」


 コンコンッ


 気のせいでは無かった。

ノック音は間違いなく扉から聞こえていた。

何の疑いもなく「はーい?」と返事をする私。


 コンコン、コンコン


「Aさーん? どうかしましたかー?」


 返事がない。

きっとAさんは忘れ物か何かを取りに来て、私に用があったけど返事が聞こえなかったから行ってしまったのだろう。

本気でそう思った。


 そのままシャワーを済ませ、狭い洗面台の前で寝間着を着る。

髪を乾かそうとドライヤーを手にした所で、すぐ後ろでノック音がした。

何なら今度は扉の叩かれる振動も感じた。


「あれ? はーい!」


 ガチャリと即座に扉を開く。

しかしそこにはすぐ寝られるよう敷いておいた布団があるだけで、Aさんはおろか誰も居なかった。

一瞬、「Aさん足早っ!?」と思ったが、秒でそれはあり得ないと考え直す。

私は本当にすぐに扉を開けたのだ。

コンコンダッシュにしても無理がある。


……と、ここで私はようやく部屋に鍵を掛けていた事を思い出したのだった。

気付くのが遅い、遅すぎる。


 何だか分からないが、少し怖い。

私はタオルを首にかけると、画材を引っ付かんで逃げるようにその部屋を飛び出した。

もちろん施錠はしてあった。


 斜め向かいのBさんCさんの部屋へ入るやいなや、私は三人に「こちらの部屋に来たか」「ノックはしたか」と尋ねた。

しかし三人とも昼に見た四国の海や山の絵を描くのに夢中で、誰も席を立っていないという。


「え、やだ何、怖いんやけど」と動揺するAさんを困らせる訳にはいかない。

私は明るく「あ、じゃあ隣の部屋の音が響いてきたんすねー。勘違いしてすんません!」と誤魔化したのだった。


 そう。

多分、「他の部屋の音が響いた」──それが正解なのだろう。

しかしあれほど鮮明に、明確に、すぐ背後の扉が叩かれる感覚があった事を勘違いとするのも些か不本意である。


 この件の真相は謎のままだが、実はこの旅行、不思議体験をしたのは私だけではなかったりする。

なんとこの後、メンバーの中で最も真面目で神経質なBさんも奇妙な体験をしたのだ。


 次回はその話に触れたいと思う。

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