007 好きな子
――くっころ喫茶――
銀髪寡黙系くっころメイド、シルヴィアの登場により、場がザワツキだす。
「キレイ……」
「あんなお嬢様っぽい子がどうしてここに?」
「そりゃあ、このオークに敗けたんじゃない?」
メイド達のジト目がオーマイガにつきささる。――いたたまれない!
そんな中、ネルが動いた。無言のままシルヴィアに歩み寄るとおもむろに床に片膝をついた。そしてシルヴィアの右手を両手でつかみ顔を上げた。そしてのたまう――
「僕と結婚してください」
「……い、嫌っ!?」
「そのメスから離れろ! ネル!」
「あんた私にも同じことしてたでしょうが!!」
ネル、いきなりの求婚だった。
オーマイガは焦燥感にかられネルを羽交い締めにしてシルヴィアから引き剥がし、そのネルの頭をアリシアがどこから持ってきたのか銀のトレイでぶったたいた。小気味良い音が店内に響く。
ハッとするネル。
「――っ! 僕は一体……」
辺りをキョロキョロ見回すも、向けられる目は白けたものばかり。オーマイガに至っては明らかな怒気をたたえていた。
「ごめん、オーマイガさん。僕の悪い癖なんだ。素敵な女性に会うと求婚してしまうのは」
「どんだけよあんた……」
アリシアのため息にうなずく一同。場の空気をなおそうと、床から起き上がったハンネスが鼻血をハンカチでふきながら間に入る。
「すみません、皆さん……。ボスの悪い癖はもうどうしようもないんです……。許したってください」
そしてペコリと頭を下げる。年上にこうまであやまられてはとアリシア含めメイド達は渋々ながらひき下がった。
そして、場の変化についていけていないシルヴィアがネルを羽交い締めにしているオーマイガをチラチラと見てか細い声でつぶやいた。
「……た、助けてくれて、あり、がとう」
「――ごはっ!?」
「オ、オーマイガさん!?」
惚れたメス――ぶっちゃけ――にいじらしい仕草でお礼を言われたオーマイガは、女慣れしていないことがたたってぶっ倒れた。後ろ向きに。慌てて皆がオーマイガの元に集まってくる。オーマイガの意識は暗闇に包まれた。
◆
――コテージ――
「ん……」
目を覚ましたオーマイガ。視界一杯に映る木の板――いや、天井。見慣れない光景だが、身を包む柔らかい感触から自分がベッドに寝かされていることを理解した。
上半身を起こすと、気付いたネルがかけよってきた。
「だいじょうぶ? オーマイガさん」
「悪い……そうか、倒れたんだったな」
記憶が蘇ってくると、心配そうな顔のネルに申し訳なさが芽生えてくる。だが、それよりもハッキリさせたいことがある。
「お前もあのメスが好きなのか?」
「え!? あ、いや~……好きと言えば好きなんだけど、僕は恋しやすいというか……!」
ジト目で見てくるオーマイガに冷や汗をかきながら頭をかくネル。ネルは観念したようにうなずいた。
「わかったよ。シルヴィアには手を出さない。ほんとはみんな嫁にしたいくらいなんだけど、オーマイガさんの好きな子だもんね!」
「べ、別に好きなわけじゃ……!」
「あ、じゃあ僕が――」
「それはダメだ!!」
素直じゃないオーマイガに苦笑しつつも、ネルはそれ以上は踏み込まなかった。
(まさかのツンデレ……? オーマイガさん。でも、これはこれで面白いよね!)
「なんだ? ネル……」
「ううん! なんでも!」
恋バナに花を咲かせる少年とオーク。世にも奇妙な組み合わせで心の距離をつめていくのだった。