回顧 バイオレットとクラウディア②
『ようやく見つけました、ヴィオーラ様!!』
満面の笑みで私に駆け寄ってくるかつての愛弟子を邪険にできるはずもない。嫌いになったわけではないのだ。むしろ今も変わらず大事に思っている。
クラウディアが冒険者になったことは、私が近衛騎士をやめて田舎町の酒場に入り浸っていた時に噂で知った。クラウディアは騎士をやめてから半年も経っていないのに、『スゴイ新人がいる』と田舎町にまで噂が広がったのだ。
そこからメキメキと頭角をあらわし、今やこの国で知らぬ者の方が少ないくらいの一線級にまで登り詰めている。
嬉しくて誇らしかった。近衛を辞めて冒険者になってもクラウディアは名を馳せている。むしろ、国の束縛を受けずに済む分、冒険者の方がいいとさえ思っていた。
私は陰ながら応援できたらそれでよかった。
――だが、運命のイタズラか、再会してしまった。見つかってしまった。
◆
『なによあんた! お姉様に何の用よ!?』
『お、おいおい! “銀氷”じゃねぇか!? なんでこんなとこに!?』
『ふぁあ~! スゴイ! 本物です!!』
クラウディアと初対面のエレナ、フェイ、フローリカ。エレナはクラウディアを知らなかったようだ。フェイとフローリカは表向き冒険者をしているので知っていたようだ。
エレナがズイッと私とクラウディアの間に入り大の字に立ちはだかる。それを見たクラウディアの笑みが消えた。値踏みするようにエレナを見下ろす。そして、私にジロリと目を向けてくる。
『ヴィオーラ様、なんですかこのおてんば娘は』
『おてんば!?』
エレナがショックを受けている。ガーンというように。
元より歯に衣着せぬ物言いをするクラウディア。私にだって面と向かってどんなことでも言うのだ。これでもだいぶ抑えている方だろう。
クラウディアの変わらぬ様子が嬉しくて、思わずクスリと笑ってしまう。
『笑うなんてお姉様ヒドイ!』
『お姉様!? ――ヴィオーラ様! いったいこ奴はなんなのですか!?』
騒ぎが大きくなりそうなので、宿屋の個室に場所を移した。
◆
『なるほど……。いや、私という弟子を差し置いて三人も新たな弟子を設けていたことには業腹ですが、ヴィオーラ様の剣を受け継ぐ者が増えるのは喜ばしい。――と、正直複雑な気分です』
私からの説明を聞いたクラウディアはウンウンとうなずいて――いや、ウ~ンウ~ンとうなっていた。
――わからせて恋人にしたなんて言えなかった。
クラウディアの知っている私はもういない。今の私は、剣聖に憧れるイタイケな少女達を狩って手込めにする通り魔的存在だ。
クラウディアの中の私は堕ちる前の私。自分で言うものでもないが、彼女の理想像の私だろう。多分に美化されているはずだ。あえてその理想を打ち砕く必要はない。
この時はそう考え、本当の所を言わずに隠した。
――それが過ちだったとわかるのは半月後のことだ。




