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“くっころ”から始まる夢の島  作者: “くっころ”を愛する者
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“銀氷”クラウディア・ケレス

 ハーメルンの町は、誰一人の被害も無く強力な魔獣を倒したことを喜び、町をあげて宴をもよおした。


 もちろん、主賓はたった一人でギガントボアを退治してみせた(くだん)の女騎士である。


 ハーメルンの町の広場にはギガントボアの死体が運び込まれ――運び込むだけで、町の人間何十人もが動員された――その肉を皆でバーベキューしていた。


 途方も無い程の肉の量。そして、思いの外これが旨い。酒もふんだんに出され、もはやお祭りの様相を(てい)していた。


 楽師が楽器を奏で、巨大なキャンプファイヤーのまわりを男女が踊る。貴族のような優美な踊りではなく、楽しむことだけを目的とした踊りだ。皆が笑顔だった。


 そんな町の人々を、女騎士は満足げに眺めていた。だが、女騎士に群がる男達が放っておいてはくれない。


「銀氷殿! 私と踊ってくださらぬか!?」

「団長は何もしてないじゃないですか! ――クラウディア様、ぜひ私めと――」

「お前達には十年早いわ!」


 騎士団長のゲラルトをはじめとした騎士達、町長や町のミーハー達に囲まれた女騎士――“銀氷(ぎんひょう)”クラウディアは、幾度となく繰り返したようにやんわりと断る。


「いや、君達は君達で楽しんでくれ。私は旨い肉だけで満足だよ」


 皆、酒臭い。酔っぱらいながら性的な目で見てくる者も多く、クラウディアはうんざりしていた。


「何をおっしゃいますか! 本来なら一人で魔獣を倒したクラウディア様が総取りすべきところ! 遠慮は不要です!」

「私一人では食べきれんよ。――あぁ、すまない。ちょっと失礼」


 クラウディアは席を立ち、まわりの人だかりをかき分けていく。その先には、遠巻きにこちらを眺めている少年少女達がいた。


 クラウディアに話し掛けたくてもお偉方や騎士達に気後れしてしまい、距離を置いていたのだ。ただ、ソワソワと待っているようだったので、気付いたクラウディアの方から話し掛けに行った。


 まさかクラウディア自ら自分達の方に来るとは思わなかったのだろう。子供達は騎士達に(にら)まれ萎縮(いしゅく)してしまう。うつむいてスカートをぎゅっとにぎる少女の顔が下からのぞきこまれた。


「今日はお祭りのようなものだ。浮かない顔でいるより楽しんだ方がいい。一緒に食べないか?」

「――――いいの?」

「もちろんだとも。私としても君達と気楽に過ごしたい。――少々息苦しかったのでな」


 少女と目線が合うようにかがんだクラウディアが肩をすくめて横目でちらりと騎士達を見ると、子供達から笑いが起こる。


「僕、料理取ってきます!」

「いや、みんなで行こう。まだまだ量があるからな」

「うん!」


 立ち上がり、少年少女の手を取り料理の出店に歩いてゆくクラウディア。本人にそのつもりはなくとも、そんな姿にまた新たなファンがそこかしこで生まれてしまうのだった。

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