オーマイガのトラウマ
――くっころ喫茶――
ひょんなことからアストリア・ルイスの名が挙がる。オークの里で“死の風”と呼ばれる程おそれられていたとは皆初耳だった。
「流石はアストリア様だわ」
「ア、アリシア。ここにはオーマイガさんもいるんですから」
「いやぁ、やっぱそんなに強かったのか、言い伝え通りだな!」
「まさか、魔族の文明にすら影響を与えてたなんて……」
新たなアストリア伝説を聞けて嬉しいのだろう。アリシア達はわき立っていた。
逆につまらなそうにしているのはバイオレットだ。ほお杖をついてムスッとしている。エレナが背中をさすさすしてなだめていた。
「ふぅむ……なるほど。オーマイガさんは実際にその女騎士を見たことが?」
「ああ。里にこもるのに我慢ならなくなった大人達が周囲の反対を押しきって狩りに出てな。オレは当時子供だったんだが妹にうまいもんを食わせてやりたくて、コソッと大人達のあとをつけたんだ。だけど――」
そして、オーマイガ達は一人の女騎士に遭遇。大人達はあっという間に倒されてしまった。離れた木陰に隠れながら震えるオーマイガの元に足音が近付いてきた。
『そう。まだ子供なのね……ダメよ? 外は危ないわ』
返り血で血まみれの女騎士はくったくのない笑顔で手を差し出してきたけども、当時子供だったオーマイガは怖くてその手を取れず、わき目もふらず逃げ出した。
女騎士は追ってはこなかった。
これがオーマイガのトラウマとなり、慎重過ぎる程慎重な性格になったのだと言う。
オーマイガの昔話を聞いた皆の反応はそれぞれだ。
「よかったねオーマイガさん……生ぎででよがっだぁ!」
「泣くなよユート……。――ぅう、俺も泣けてきたぁ!!」
「流石最強の女騎士……ヤベェ」
「アストリア様って実は結構怖い……?」
「で、ですね。魔族から見たら恐怖以外の何者でもないですもんね」
「最強ってのはそれくらいじゃねぇとな!」
「害さないまでも魔族にしっかり心的外傷を与えてるのは流石ね……」
「あーあ、面白くない。――ネル、お酒」
「はいはい。程々にね」
バイオレットに至ってはふて酒を始めてしまった。隣でエレナがしきりに「私はお姉様が一番ですわ!」とバイオレットをおだてなぐさめていた。
ネルもバイオレットとアストリアの因縁は聞き知っている。こんな時ぐらいはいいかとハンネスに酒を出すよう伝えた。
そんなまとまりの無い中ネルは強引に話をまとめると、そのまま皆でワイワイと食事会で盛り上がるのだった。
アストリアの話が出る度に酒が進み泥酔したバイオレットをエレナがおぶって寝室に運ぶまでその宴は続いた。




