シルヴィアの正体
――くっころ喫茶――
耳障りのよくない金属音をかなでながらバイオレットの黒剣とつばぜり合いを繰り広げるオーマイガとネル。人数的にはオーマイガ達の方が有利だが、その表情に余裕はない。
(なんだこのメス!? やっぱりヤバい!!)
力には自信を持つオーマイガですら剣を受け止めるのが精一杯。隣のネルはいつになく真顔でバイオレットをにらみつけていた。
「あなたもそんな顔ができたのね、ネル。私と戦った時よりよっぽど必死じゃない? そんなにこのペットが大事なの?」
「オーマイガさんは仲間だよ。アリシアもシルヴィアも、みんな仲間だ。――ちょっと調子に乗りすぎじゃないかな? 前の僕だと思ってたら痛い目見るよ?」
ネルの挑発返しにスッと目を細めるバイオレット。
「ふふ……、いいわ、屈服させがいがあるわぁ」
バイオレットのまとう空気が膨張する。この場の誰もが大惨事を予期した。――ただ一人をのぞいて。
「あ、あの! ヴィオーラ様ですよね、四騎士の! お会いできて光栄です!!」
皆が声の主に注目する。バイオレットでさえも怪訝な表情で後ろを向いて。
――そこには、いつになく興奮にほおを赤く染めたシルヴィアがいた。
◆
「わ、わたし、八年前に王立闘技場でヴィオーラ様とアストリア様の闘いを拝見して……スゴかったです! お店にいらっしゃった時から気になってたんですけど確信が持てなくて……でも、今ならわかります!」
「………………」
普段口数の少ないシルヴィアがたどたどしくも想いを語る。バイオレットはジッとシルヴィアを見つめていた。
「四騎士のヴィオーラ……様って、あの?」
「アストリア様と唯一対等に渡り合えたこの国きっての凄腕騎士よね? え? ほんとに?」
カレンとサラのボソボソ話がもれ聞こえてくる。当のバイオレットはやがて小さくため息をつくと――剣をおさめた。
「やめやめ。興がそがれたわ。元、四騎士よお嬢ちゃん。あなた、お名前は……いや、名札があるか。シルヴィア? シルヴィアって、まさか……え?」
今までの殺気が嘘のように消え失せ、バイオレットはシルヴィアをマジマジと見回しながら逆にうろたえた様を見せる。これもまた珍しい。
「――君も忙しいね、バイオレット。身バレしたことがそんなにショックかい?」
武器をしまい、ネルが呆れた表情を見せる。何を今さらと言うように。この界隈ではバイオレットの素性を知る者は少なくない。
「――ネル、あなたを見直したわ」
「……なんだい急に?」
先程まで一触即発だった相手から急に褒められると逆に気持ち悪い。ネルはまゆをひそめてバイオレットの言葉の続きを待った。
バイオレットはそんなネルの態度に逆に不審げだ。もしやと思い、シルヴィアに問いただす。
「あなた、まさか素性を明かしてないの?」
「……それ、は……」
シルヴィアの反応にバイオレットは察した。隠しもせず特大のため息をつく。焦れたネルが割って入った。
「どういうことだ? シルヴィアに何があるって?」
ネルだけでなく皆が注目する中、黙り込むシルヴィアに代わりバイオレットが口を開いた。
「彼女の名はシルヴィア・フォン・エーゼルハイム。この国の三大貴族の一つであるエーゼルハイム侯爵家の御令嬢よ」




