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天使の条件。  作者: はねとら
エピソード・森川紗季
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天使への憧れと再会



「すごっ」



 思わず漏れる私の言葉に、

「あそこが私の職場。多くの天使達が通う会社よ。

 他にいま私達が出てきた様な建物がいくつか見えるけど、そこには紗季ちゃんと同じ、亡くなった人が最初に訪れる建物ね」

「職場? 天使って職業なんですか?」

「そうだよ、夢が壊れちゃうよね。

 私も同じ現世で生きていた人間、天使に就職したの。

覚えておくといいよ、天国も現世とあまり変わらないから、『働かざる者食うべからず』はこの世でも基本ね」

「はは、ホントですね」

 弥生さんは優しい顔をこちらに向けて、

「紗季ちゃん笑えたね。よかった。

 大丈夫、怖いことはないよ。

 ここは天国だけど、現世と変わらない。

 それは人によって良い事だとは限らないけど、紗季ちゃんにとっては良いことだと願うよ」

 心にす~っと入ってくる弥生さんの言葉。

 すごく安心して、心が落ち着いた。

 まったく知らない場所に突然訪れて、わたしはこれからどうなってしまうか分からないけど、それでも安心できる一言だった。



 城に入ると広いロビーが広がっていた。

 石造りの床は、見下ろすと自分の顔が映るくらいピカピカに磨き上げられている。

「ちょっと待っていて、連れてくるから」と言い残して、弥生さんはどこかに走って行ってしまった。

 ロビーを改めて見渡すと、老若男女、性別年齢関係なく色々な天使がいる。

 近くにベンチがあったので、ベンチに座りぼ~っと周囲を眺めた。

 ここにいる人達。元々現世で生きていたのだろうか、天使という職業になったのかな。

 ……不思議だ。死んだ実感が無い、受け入れることもまだできない。

 けど、弥生さんの優しさや温かさ、ぬぐってくれた不安に接して、天使になりたいと思ってる。

 わたしもなれるかな。



「紗季ちゃん連れてきたよ」

 右手を振りながらやってくる弥生さん、しかしその後をついてくる人は入なかった。『その人??』は弥生さんの腕に抱かれている。

「じゃ~~~~ん」

 弥生さんが興奮気味に、両手に抱かれた犬をわたしに差し出した。

 その犬は、忘れるはずがない、四年前に亡くなった愛犬。

 背中に翼が生えているけど、間違いなく、トイプードルのチョコだった。

「ちょ……チョコ――――!!」

 差し出されたチョコを抱きしめる。

 楽しい時も辛い時も一緒に過ごした十二年間の思い出が溢れる。

 わたしが辛い時、顔を舐めて慰めてくれた優しいチョ……

「苦し―――――言とろーがぁぁぁぁぁ」



 ごふっっっっっっ!!


 鳩尾に突き刺さるチョコの後ろ右足。

 息が出来なくなり、その場に崩れ落ちるわたしの腕からチョコはすり抜けて床に着地した。

「あんなー、こっちは苦しいって、ずっと言ってるやろ。

 お前は変わらんな、こっちの抗議も聞かずに力づくで抱きしめる。

 何回お前に殺されるかと思ったか」

 うそ、しゃ………しゃしゃしゃしゃしゃしゃ。

「喋ってる! チョコが喋ってる!!」

 チョコはニッと笑いながら、

「でも殺されることなく、寿命を全うできたのは、紗季や母ちゃん父ちゃんのおかげやけどな」

 弥生さんはわたし達の様子をニコニコ見つめながら、

「チョコちゃんは天使になる事で喋れるようになったのよ」

「チョコも天使だったの?」

「まぁな、亡くなった犬の案内人や。

 まぁ、そうは言っても我々は飼い主より先に死ぬ方が多いけど……って、そんな事より。


 …………早すぎんでお前は………」


 蹲るわたしの前に来て、顔をペロペロ舐めながら、

「辛かったな、紗季」

「う……う…ん……

 うん……辛いよチョコ、辛いよ~~~。

 わたし死にたくなかった、生きたかったよ」

 弥生さんの前でも泣いたはずなのに、家族に、チョコに寄り添ってもらえて堪えられなかった。弥生さんの時は辛うじて抑えられていた感情が、この時ばかりは全てが抑えられなかった。

 わたしは死んだ事を、初めて実感した。



「紗季。俺はな、いま犬仲間と一緒に暮らしてんねん。

 こっちの世界に飼い主がいない場合は、犬仲間と一緒に暮らすのが大体やな。でも皆、飼い主が早く来ない事を願ってるんや」

「うん……うん……」

「……でも、来たのは仕方ない。

 こんなに早く会うことは願ってなかったけどな、でも会えてうれしいで、また一緒に暮らそうな」

「うんチョコ、チョコ………」

「へへ………懐かしいな。

 俺も今日から、紗季と一緒にばぁちゃん家に住まわしてもらう。

 先に帰っといてくれ。 

 まだ仕事中だから、仕事終わったら帰るでな」

「うん……待ってるガらね」

「なんちゅう顔してんねん。グシャグシャやん」

「ご、ごベン」


 弥生さんは再びハンカチをわたしに差し出してくれた。

 涙を拭くわたしをチョコは見てから、

「弥生さんありがと、世話かかるけど紗季の事よろしく頼むわ」

「うん、チョコちゃんの嬉しそうな顔久しぶりに見たよ」

「そか? 俺はいつでもヘラヘラ顔やで、それじゃ仕事残っとるから、紗季また後で」

「え、待って本当に一緒にいてくれるの!?」

 チョコは振り返って、

「は? 耳遠くなったんか? 言ったやろ今日からまた一緒に暮らすって、家族やで俺たちは」

「うん、分かった。待ってるから、絶対帰ってきてね」

「あたりまえや、あと四時間後には帰るで」

 チョコは言うと走り去っていった。

 


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