森川紗季と天使との出会い
ふと気が付くと、目の前に大きな扉があった。
とても大きくて、わたしの身長一四〇センチの五倍はあるだろう、その金色の扉がゆっくりと内側に開く。
まばゆい光が射しこみ、耐えられず目をつむる。
光が止んだそこには、真っ白い空間の中心に、一人の女性がポツンと立っていた。
綺麗な黒髪を腰まで伸ばした、白い法衣を身に纏った美人の女性。
年齢は二十代後半だろうか、端正な顔立ちだけでも充分に目奪われたが、驚いたのは彼女に翼が生えていることだ。
すごくきれいな純白の翼。
本当の天使っていたんだ……素敵。
ぼーっと立っている私に、天使さんは私に視線を向けて。
「ようこそ天国へ。森川紗季さん。
私はあなたを御親族の元へお連れする案内人。
天使の弥生です」
あ……そうか、
「わたしやっぱり死んじゃったんだ……」
「……はい。まだ把握できてないかもしれませんが、今から一時間ほど前、高校からの下校。信号無視したトラックにあなたは轢かれて亡くなりました」
「……………」
十六歳、まだまだやりたい事がたくさんあったのに……
言葉に表せない悔しさや、悲しさ、幾つのも感情がグタャグチャになって、足に力が入らなくなりわたしはその場に崩れ落ちた。
弥生さんは歩み寄り、わたしの肩に優しく手を添えて翼で包み込んだ。
言葉はなかったけど、すごく温かい優しさに包みこまれ、わたしは感情を爆発させて泣き崩れた。
「落ち着いた?」
数分後。わたしは泣くだけ泣いて、だいぶ気持ちの整理がつき、弥生さんの言葉に頷く。
「立てる?」
差しのべられた手をとり、立ち上がる。
「あなたのご両親と弟さん、父方の祖父母さんは現世で生きてらっしゃるから、ここには居ないけど、ここには母方の祖父母さんはいらっしゃるから、そちらにお連れします」
「……はい」擦れた声で頷きながら、手で涙を拭うわたしに、
「これ使って」
弥生さんはハンカチを差し出してくれた。
涙で顔がグチャグチャになっているのが自分でよくわかる。
鼻水も出ているから、受け取ることに躊躇するが、
「大丈夫だから」笑顔で言われ、
「ありがとうございます」受け取り、涙を拭いた。
弥生さんは、ポンと両手を叩いて、
「さて、堅苦しい言葉遣いもここまでにします。
改めまして、よろしくね」
「は、はい、よろしくお願いします」
ニコニコ顔の弥生さんは頷くと、
「私たち天使はね、その日に誰が天国に来るか分かるんだ。
紗季ちゃんが来る事も分かっていて、天使の一人がね、紗季ちゃんに会いたいと言っている人がいるの。
祖父母さんの所に行く前に会っていく?」
「え?」
突然何を言っているんだろうと、戸惑うわたし、
「その人って誰ですか?」
弥生さんは少し意地悪そうに、
「ないしょ。言っちゃったらつまらないでしょ、でも紗季ちゃんも知っている人よ」
わたしの事を知っていて、亡くなっている人。
誰だろう祖父母以外に亡くなっている近い知り合いは見当もつかない。
弥生さんは突然、わたしをギュッと抱きしめ、上空を見つめる。
わたし達がいる広く白い空間は、入ってきた巨大な扉が一つだけ。
あとは白い壁に囲まれている。壁は上空に高く続いているが、吹き抜けで先には白い雲が見えた。
「紗季ちゃんしっかり捕まっていて、飛ぶよ」
――― えっ? ―――
瞬間。
弥生さんの閉じられていた翼は大きくひらき、一度羽ばたくと、凄まじい速さで上昇した。
いきなり飛び上がり、強烈な風と重力を感じて悲鳴をあげることもできず、怖くて体を縮こむ。
バンジージャンプはおろか、ジェトコースターのような乗り物が苦手で、体に重力を感じる様な物は大嫌いだ。
それを、いきなり喰らわれて半泣き状態、もう嫌だ。
ボンッッ!!
一瞬で雲を突き抜け、穏やかな風がわたしを包む。
ひらかれた視界には、雲の上に浮かぶ巨大な西洋の城が視界に入った。
アニメや小説で見た事がある天空の城だ。