第7話 婚約
先週はサボってしまいました。
何だか最近ドタバタしていて…(苦笑)
またちょっずつ頑張りたいと思います。
「婚約して欲しいんだ」
「え?」
いや、あの…え?何故婚約の話に…思わず令嬢としての皮が剥がれ、素っ頓狂な顔を覗かせてしまったのは仕方ないことである。しかし私に一目惚れしたとか恋要素ではない、もっと別の意味があるのだろうと考えるくらいには頭は冷静だった。
「…流れを説明して頂けますか」
「そうだな、端折りすぎたな。すまない」
えぇ、本当に_なんて本音を言ったら首が物理的に飛ぶので「いいえ」とにっこりと微笑んだ。本当に王族方たちと話していると口の悪さが出ないように細心の注意を払い続けないといけないので精神的に疲れる。
そんな私の苦労は知らぬか、ロキ殿下は凛とした顔立ちで今日の婚約話までの流れを説明していった。
「私に流れる隣国の血を嫌ったものたちがいるのは知っているな。」
「えぇ」
そこから異母兄弟であるヘルト殿下の話になった。彼は見た目の通りに穏やかな性格であるようで元々王位になる興味や関心は薄いようだ。だが、血なのか何なのかわからないが彼も優秀な類の人間であった。
それは1つの不幸を呼び込んだ。昔ながらの凝りに凝り固まった王侯貴族に目を掛けられるようになってしまった。彼なら、第1王子ロキ殿下に引けを取らないと、勝手に王位争いの渦中に立たされてしまった。まだ救いがあるなら、彼はまだ14歳であり、その流れに王太子に付けられるようなことはなかったところだろう。しかし逆なことを言うなら、彼は王位継承権を返すことはできないのだ。この国の法律として、直系の王族が2人以上いる場合は王族は15歳のときに意思確認をされる。そこで本人に王を継ぐような意思がないとされた場合はもう一方の意向を汲んで互いに妥協できる点は妥協していくというものだ。基本的に第1王子が王太子になることが多いので、第2王子は臣下になるときにどの領土がいい的な話し合いの場ような感じになっている。しかしヘルト殿下の心とは違い、彼に一心に期待しているのが現王妃である。王妃はどうも乗り気ではない息子を見兼ねて、婚約を結ばせることとしたようだ。確かに有効な手段ではある。第1王子に婚約者がいない場合は第2王子の方が後継ぎの残す意思表示にもなるし、有利に動く可能性が高い。しかし…王家の水面下の戦いに態々身を乗り出すとは、と思ってるとロキ殿下は次の話に展開していた。
話を聞くと、なんと第2王子の婚約者予定が政を司るユリヤーナ家の御令嬢と聞いて驚いた。御令嬢はなんとヘルトに一目惚れをし、父に婚約を願ったようだ。ユリヤーナ家の現御当主は親馬鹿という類の人物であり、無茶苦茶じゃないものを限りはそれなりに娘のために尽力するタイプだ。案の定、現当主はヘルト殿下やチェリー王妃に会い婚約を結ぶことに成功した。
利害が一致してしまった、という感じらしい。そこで王が慌てて開いた会がこの前の夜会である。実はあのときに目星の令嬢を絞っていくためだった。そんな場で大活躍してしまったのが…私である。元々、私はロキ殿下の仮婚約者の候補筆頭だったようだ。よくもまぁ筆頭にしてくれちゃって…思わなくはなかったが、話が進まないので心中で呟く。
「…つまりは第2王子たちが婚約を発表する前にロキ殿下も婚約を発表もしくは仄めかすようなことをする必要があるという訳ですね。」
「あぁ、予定のままで行くなら1年後程に私が立太子になることが発表される。」
「…ヘルト殿下の意思確認後ということですか。」
「察しが良くて助かる。」
再度穏やかな雰囲気を漂わせたロキ殿下は、手前にある紅茶を一口飲んで軽く息を付いていた。大体のことはわかった。私ならロキ殿下と歳としても離れすぎていないし、三大侯爵家の一つの家の者だ。今回の思惑を解決したということは第2王子派閥に入っていないことになるので安全パイといえば安全パイなのだろう。少し自分で言ってて悲しくなった。
「期間限定の婚約者、ということですね?」
「あぁ、そうだ…それと」
言いくそうにロキ殿下は口を開いた。
「命が狙われる…ことになると思う」
「そうでしょうね」
軽くお茶に口を付ける私に驚いたよう表情でロキ殿下は見ていた。何か驚くことでも…そうか。普通の令嬢ならビビるか。命が狙われるなんて知っていて、自分から飛び込むようなことはそうそうにない。だが、そもそもこの婚約はもうそれなりのところまで進んでいるのだろう。王は出てきていないが、王も後ろにいると考えた方がいい。それにこの婚約が成立すれば、間違いなくロキ殿下の立太子が決まるだろう。私との婚約も彼が王太子になるまでだったとしても、彼が王になったときに脚色加えまくった話を聞かせて上げれば私の婚約話も頓挫なんて悲惨なことにはならないだろう。
「派閥の話を聞いていれば大体の想像はつきます」
「そ、そうか」
痛ましそうな表情に見える。表情自体はそこまで動いていないが…その雰囲気が物語っている。彼は根から善人だろう。彼が私に話を持ち掛けている時点でこれはほぼ王命に近い。余程、私に問題なければ逃げられないだろう。命が狙われる、なんて言えば大体の令嬢は嫌がる。それでも彼は私がリスクを知らないでこの話を引き受けることを嫌がり、敢えて私にそのリスクを開示した。それは彼なりの誠実さであろう。
「出来る限りは私が責任を持つ」
ロキ殿下は真面目な顔立ちでそう述べた。少しできちゃった婚の男の台詞っぽいなと思ってしまったのは、それこそ正しく不敬罪なので黙っておいた。
「大丈夫ですよ。私の責任は私で持ちます」
己の責任くらいは己で取る。確かに、これは王命のようなものであり私に拒否権がある訳ではない。しかしだからと言って、死ぬときに誰かの所為で死んだと思って死ぬ程惨めなものはないだろう。これは前世の記憶からも何となく、僕が感じていることだ。
「…だが」
難儀の分類に入る程に本当に真面目な人なんだと思いながら、口を開く。今世は親孝行というものを含んでいるし、親より先に死ぬのは何よりの親不孝だろう。
それに今の戦闘能力と前世の勘や知識があれば、そこらの間者だったら死にはしないと思っている。
「殿下も知っての通りに、私には武道の心得があります。身内贔屓かもしれませんが、父曰く部隊長くらいの実力であると言われていますし。そう簡単にはくたばる気も死ぬつもりも毛頭にありませんから」
私は彼を安心させる為に今日一の笑顔を見せた。