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第6話 提案


「美味しいか?」

「えぇ、とても」

「…それは良かった」


いや、良くない。何故こうなったんだ…私は無表情ながらに穏やか(?)な雰囲気を纏う彼を見た。

私と顔が会うと王族の特徴である漆黒の瞳が優しげに光を差してるように見えた。本当になんでこんなことにと私はこの茶会の発端の出来事を思い返した。


ことの始まりは夜会の日に戻る。

私は間者の男を夜会の本会場から離すことにまず成功した。その後、わざとハンカチを落として男に拾わせることにした。男がハンカチを拾おうと私に背を向けたときに男の首元に思っきり手を打ち込んだ。

狙い通り、男が上手く意識を失ったので適当に廊下に寝転がせてその後に近くにいた衛兵を声を掛けた。

衛兵を通してロキ殿下に言伝をたのんだ。紙媒体にしても良かったのだが、念には念をということで口で伝えてもらうことにしたのだった。

それから、適当に休憩室で休んでお父さまやお母さまと合流して自分の家に戻って行った。

何も無かった訳じゃないけど、表面上は何事もなく終わって良かった良かったなんて呑気なことを思ってたら…数日後、見覚えのある判子の絵柄が再度父の手に握られていた。父は父で困惑したように「感謝を述べたいと言っているが…迷惑掛けたの間違いなのでは」と宣ったので足の脛を蹴っやりました。えっへん!

ご心配なく、2日か3日程で痛みが引くように加減は調節致しましたから_まぁ、与太話はここまでにして。


父には致し方なしに夜会の出来事について話をした。久し振りに本気で怒られました…「お前のことだから何も無いことはわかってる!たが心配はするし、次からは報告しなさい!事後報告でもいいから!」とゲンコツと共にお説教を受けた。親の愛から来るものだとわかってるので、大人しくゲンコツの痛みは受け入れた。父も私もそうだが、貴族の割に口が悪い。貴族の遠回しな嫌味のようなことはやろうとも思えば幾らでもできるが、それは外でやることで身内内ではあまりそのような猫の被り合いはしない。母はいつも父と私の軽いやり取りを微笑みながら見てくれている。本当に悪いことをしたり、心配させるようなことをすると物理ではなく精神攻撃をしてくるがそれでも愛情があるのを感じる。上の2人の兄たちも妹としての私も可愛がってくれくれる。…むず痒い気持ちになる。幸せだと思う。前世のことを思うとあまり徳を積んでいないような気もするが、前世では一切受けることのなかった親の愛というものを感じる。兄たちも私を愛してくれている。あぁ、愛されるということはこういうことなのか。前世で最後の最後まで埋まらなかった心の空白を今の私が埋めてくれている気がしている。


そんなで割と長閑な我が家に王族の直接会いたい手紙とその相手が父ではなく(父は軍部の総司令官なので王宮務め)私だったということで使用人たちも含めて少し騒然とした。とくに母と女性の使用人たちは私を着飾る理由ができたと喜んだばかりに慌ててドレスや装飾品を用意していた。当本人は置いてけぼりであった。私としてもお年頃なのでめかし込むのは嫌いではない。割と外見から入る(たち)なのだ。しかし蛇足的な買い物は好まないので、母や使用人たちをその都度落胆させていたのは知っている。女性…私も女性だが一般的な女性は蛇足的な買い物を好むようなところがある。別にそれが悪いとは思いはしないし、そういう人々がいなければ娯楽分野のビジネスなどほぼ壊滅的である。そういう意味でも居なくてはならない存在である。ただ私はいいものをずっと使っていたので、基本的なドレスも何か特別な用事がない限りは基本的に買わない。買うときは買うが一般的な女性貴族から見たら何処となく物足りなくなるような買い物していた私に夜会、王宮の呼び出し、と次々へと特別な用事というのが転がり込んできてきたのだ。母や使用人たちもこの前の夜会では出来なかったデザインができると思いはしゃいでいても可笑しくはない。

…可笑しくはないが。当日、母たちの渾身のドレスを見て思わず苦笑を零してしまった。一言でいうならば実に"張り切った"ドレスであった。何も知らない人が見たら「あぁ~あの子はロキ殿下狙いなのね」と囁かれても不思議ではない。私が第3者ならそう思う。

実に困ったが…着ないという選択肢は目を輝かんばかりの瞳でドレスを見せられた時点でそれは潰えた。

仕方ない。腹をくくろうとドレスを着込んだ。

着込んだ後、気が変わらぬ内にと馬車に放り込まれ王宮へと連れて行かれてしまった。あの華麗なまでの連携プレーは何だろう…自分事であるはずなのに何処か他人事のように彼らの行動を見てしまっていた。


王宮に来た私は使用人たちに王宮のピンクと白の薔薇が綺麗に咲き誇っていた庭園に案内して貰った。

庭園の真ん中にはテーブルと椅子が置かれ、テーブルの上にはテーブルクロスが敷かれていた。あらゆるお菓子が綺麗に盛り付けられている。あぁ、この短期間でここのパティシエのスイーツが食べられるなんて…と夢心地になりかけた私は、はっとする。椅子が2つしかなかったのだ。1つはロキ殿下が座ってるから…もうひとつは…え?は?2人でお茶会と理解した瞬間に背中を背に逃げ出したい衝動に駆られる。令嬢としての自分がなんとか押さえつけ、逃げずに済んだ。

やっぱりドレスは断固拒否しておいた方が良かったかもしれない。2人でお茶会に、普段よりも目かし込んでいる貴族女性がいれば__逢瀬にしか見えない。


「ん?座らないのか?」

「…あ…いえ…その…はい」


中々座らずに、テーブル手前で固まっている私を不審に思ったのかロキ殿下は少し首を傾げてこちらを見ていた。もうこれは逃げ切れない。他の貴族やその他の関係者がこれを見ていないことを祈るしかない。

「こんなの逢瀬にしか見えないでしょ」と言って逃げるという選択肢はまだ命が惜しい私にはできなかった。


_そして冒頭に戻る。


「…ロキ殿下」


少しお茶を含み、潤った喉で彼の名を呼んだ。


「私からこのようなことを言うのは恐縮ですが…お茶会にするためだけに呼んだのではないのでしょう」


緊張だろうか、彼からピリッとした空気感を感じた。殿下という立場でも緊張する内容とは…思わず私もゴクリと唾を呑み込んでしまう。


「そうだ。君に提案があってここまで来て貰った」


まるで決闘を申し込まれるような感覚がした。

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