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言葉も心もその壁は分厚いもので。

ミルフィーさん達が自分たちのダンジョンに戻った後、私はあることを考えていた。


それは、レジェンドウルブスを筆頭とした多くの新入り魔物達の類まれなる才能のことだ。

はっきり言って新入り魔物達はステータスこそあまり目立った物はないものの、珍しいスキルやステータスには出ないような才能を持った魔物達が多い。

マサムネはちゃんと鍛冶仕事とバーの仕事の両方をこなしているし、タンザはスルスルと私の世界の言葉を覚えて図書室の管理の傍ら他の皆に言葉を教えている。

ケット・アドマー達はウィッチ達と一緒にダンジョン戦争でも使ったハードモードルートの担当をしてくれている。

レジェンドウルブスは演奏練習後に色んな所で助っ人として働いてくれるし、コボルト達もそれぞれが得意な分野の役割をしてくれている。

一週間彼らと側にいて分かるけど、タケル青年は本当彼らを良く見ていなかった事が分かる。

皆十分すぎるくらい優秀だ。

というかこの世界の人…じゃなくて魔物って天才や秀才が多いよね。

人間とそもそものスペックが違う事を差し引いても優秀だ。

冒険者とかいつもどうやって魔物たちを倒してるの?

コボルト達やスライム達だけでも勝ち目なさそうなんだけど。


私はタケル青年と違い、<鑑定>が使えない。

一応新入り魔物のステータスは一通り確認したけど、ステータスだけではレジェンドウルブスのように自分のスキルを応用している魔物やマサムネのように種族の特性による才能は分からない。

タケル青年のようにならないためにも、一度全員の能力を確認する必要がある。

出来れば紙面で確認するのではなく、実際にその目で見て彼らの能力を見たい。

そうすれば、地球の知識を活用して彼らの才能が発揮出来るようサポートが出来るかもしれない。


だけど、私はディオーソスさんと違って人の才能を見抜く才能はない。

多少人や物事を観察して予測することに長けている自信はあるけれど、他人の才能を見抜く事に関しては自信がない。

だってゴブ郎がいないと、私はまともに直視出来ないからだ。

ケット・アドマーやコボルト達ならギリギリ大丈夫だけど、その他は私的にアウトである。

ベリアルとイグニ監督の特訓の時だって出来るだけ特訓をこなすことに集中して、ベリアル達と対面している時は遠くを見てやり過ごしているくらいだ。

あんなイケメン、非リア充がまともに直視出来るとでも?


話が少し逸れてしまった。

とりあえず、新入り魔物達がやって来て落ち着いてきた頃合いの今、また問題事が降りかからない内に彼らの能力を知れる限り把握しておきたい。

実際に見てすぐ分かる能力というと、一番はスキル、次に身体能力、その次に技術や知識が並ぶ感じだろうか?

普通に頼めば彼らは私にそのスキルを披露してくれるかもしれないけれど、それでは不十分だ。

出来れば実戦に近い形で見て、彼らが普段どういう風に使っているかも見たい。

けど、実戦に近づけて直接見ようとすると私が余波を受けそうなんだよなぁ。

フォレスかイグニあたりにカメラを持たせて動画を取ってもらおうか?

いや、フォレスは機械音痴だから間違って途中でカメラの停止ボタン押しちゃいそうだし、イグニに至ってはじっとしていることが好きじゃないから撮影の途中でカメラを放って実戦披露に乱入する可能性がある。

ダンジョンマスター権限を使ってモニターで見ればいいだろうという話かもしれないけど、ダンジョンマスター権限で出すモニターってあれダンジョン内全部が見えてしまうのだ。

下手に使うと、ダンジョン内のルールを破ってバッドエンドを迎えた侵入者達の哀れなスプラッタシーンまで一緒に見えてしまう。

私まだ17歳。リアル18禁グロは見れません。


ひとまず、後でイグニやマリア、あと<オペレーター>に皆の能力を見るのに良いアイディアがないか相談してみようか。

イグニとマリアはこういった事は好きみたいだし、スーパーエリートAIスキル<オペレーター>の力もあれば一発だろう。

ところで話は変わるのだが、一つ気になる事がある。


「************…」

「うん。」

「*************」

「うん。」

「*************」

「うん。」

「……イグニレウス*アイネス*アイス*******。」

「イグニが私のアイスを何したんです??まさか食べたんですか?」

「……***********。」


気になる事というのは、今目の前で何かを話しているジャスパーである。

ジャスパーはよく私が小休憩を取っていると、向かい側の席に座ってこうやって何かを話し始めるのだ。

何か私に言いたいのであれば私ではなくイグニやベリアルを通す事も出来るはずだけど、何故か私に直接言うのだ。

むしろベリアル達が来るとすぐにその場を離れる。ベリアル達には言いたくない事らしい。

何か相談事なら話を聞いてみたほうが良いのではと<オペレーター>に話の内容について尋ねてみたけど、どうやら私への相談ではなく、黙々と独り言を言っているだけのようだ。

具体的な内容は人間や私に対しての恨み言。

確かに面接中に「私は言葉が分からないから何を言われても平気だ」って言ったけど、こうもどストレートに恨み言を言われるとは思わなかった。


まあ、一度言った事は守った方が良いだろうと思い、<オペレーター>の通訳は使用しないまま彼の恨み言を聞いている。

それにしても、彼の人間に対する恨みは相当なのか、始まると結構長い。

あれほど喋っていて喉が乾かないのだろうか?


「そんなに喋って喉乾かないんですか?」

「ぎゃう?」

「*************。」


私が喉に手を当てて飲み物がいるかをジェスチャーで尋ねたら、ジャスパーはギロリと睨みを強めて首を横に振った。

多分だが、「お前の出した飲み物なんか飲めるか」的な事を言っていると思う。

ジャスパーが私と同じ人間だったら足の脛を蹴っていた。


ジャスパーは日本語を覚えるのにあまり積極的ではない。

一応ベリアル達に言われて研修中に地球の言葉を覚えたようなのだけど、頑なにそれを使わない。

聞き取りは良いようで私が何か言えばジャスチャーやイラストなしでも返事を返してはくれるけど、彼自身から地球の言葉で話してくれることはないし、ジェスチャーやイラストでコミュニケーションを取ってくれはしない。

私は特に困っているわけではないので気にしていない。

何を言っているのか分からなければスルーするだけだ。

今更言葉が通じない事で困ることもないからだ。


「そういえば、ジャスパーさんって<分身>っていうスキルがあるんですよね。」

「*******。」

「一度どんなスキルなのか見せてもらっても良いですか?」

「************。」

「何故?って聞いてるんですかね。いや、ちょっとどんな風に発動するのか気になって。別に無理にとは言いませんが。」


<分身>。

フクさんから教えてもらったジャスパーの持つ変わったスキル。

スキルの名前からして自分の分身を作るスキルのようだけど、分身なんてアニメぐらいでしか見たことがない。

こういう時ぐらいでしかジャスパーには話しかけられないと思い、試しに聞いてみた。


ジャスパーはじっと私を睨んだ後、静かに席を立ち上がる。

両手で印のようなものを結ぶと、一言何かを呟いた。

すると、ドロンッという音と共にジャスパーそっくりの分身がジャスパーの隣に現れた。


「すごっ、本当にそっくりじゃないですか。」

「ぎゃうぎゃー!」

「***************。**************。」


ジャスパーはそう言って誰もいない空間に正拳突きをすると、分身も同じように正拳突きを行う。

どうやら、分身はジャスパーの思い通りに動いてくれるようだ。

某忍者アニメを知っている私としては、目の前の分身の術に少し感激してしまう。

多重分身とか作れないのだろうか?


「ジャスパーさん、凄いですね。こんなスキル使えるなんて。」

「ぎゃうぎゃー♪」

「***********************。****************。」

「<分身>なんて子供なら一度は憧れる人気スキルじゃないですか。分身に面倒事とか代わりにやってもらえますし、日本なら引っ張りだこ間違いなしのスキルですよ。私も欲しかったな、<分身>」

「…………。」


もしも異世界転移前にこんなスキルがあったのなら面倒な宿題は一緒にやって時間短縮出来るしパーティーゲームもわざわざフレンドを探さなくても遊べる。

普通に便利なスキルで羨ましい限りだ。


「……………。」

「じゃすはーさんいひゃいれす。」

「……………。」


そんな事を言っていたら何故かジャスパーさんに無言で両頬をつねられた。

ダンジョンマスターは配下の魔物から危害を加えられないのではないのか?

現在進行系でつねられてるんですが。

最初は地味に痛かったものの、段々その力は弱まる。

目の前のジャスパーは眉間にかなり皺がよっていて怖い表情を浮かべているものの、頬を抓るその手の力は手加減してくれているようで、頬が取れるなんて事はなさそうだ。

むしろ肉球が頬に触れて痛気持ちいぐらいだ。

これは頬を抓っている、というより揉んでいるのではないか?

きっと犬の甘噛みのようなものなのだろう。

私はジャスパーが気の済むまでやらせることにした。


やがて満足したのか、ジャスパーは私の頬から手を離した。

その間も何も言わず、眉間に皺を寄せて私をじっと睨んでいる。

結局何がしたかったんだ。

スキルを見せるように頼んだのがよっぽど駄目だったのか。

それならそうと言ってくれ。

そしてゴブ郎は私とジャスパーが遊んでいると思ったのか、自分にもやってと自分の頬に手を当ててジャスパーに言う。

ジャスパーは渋々といった感じで、ゴブ郎にも同じように頬をもにもにと揉み始める。

ゴブ郎は肉球マッサージを受けてちょっと満足げだ。

良かったね、ゴブ郎。


「にしても、やっぱりスキルを見せる場はあったほうが良いなぁ…。」


ジャスパーの<分身>は私の知っている分身の術と変わらなかったものの、私の持つ<ホーム帰還>のようなバグスキルがあってもおかしくはない。

どうにかスキルを披露する場を作らないといけない。

何かいい方法はないかなぁ。

私はつねられて赤くなった頬に手を添えて、考える。

横で見ているゴブ郎も私の真似をして同じポーズで何かを考え出す。

いや、ゴブ郎は真似しなくても良いんだよ。


「アイネス!」


その時、イグニがワクワクと興奮気味の表情で私達のいる会議室に入ってきた。

イグニは図書室から持ってきたらしい漫画を片手に持っていた。

私達がイグニの方を向けば、イグニはすぐに私の方に目を向けた。

しかしイグニは私の顔を見た瞬間、イグニはその楽しげな顔を強張らせる。


そしてその次の瞬間、イグニはジャスパーの分身に強烈な蹴りを食らわせていた。


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