ガチャとイケメンには気をつけろ
肉まんを食べ終わり魔力もそこそこ回復させた午後、私は洞窟の最深部に訪れた。
ダンジョン経営チュートリアルを行うのにダンジョン内にいたほうが良いと<オペレーター>に推奨されたからだ。
『これより、ダンジョン経営チュートリアルを開始致します』
「はーい」
「ぎゃーう!」
脳内に響く<オペレーター>の声に対し、敬礼と返事で返す。<オペレーター>の声が聞こえないはずのゴブ郎も隣で私と同じポーズを取って元気の良い声をあげる。
『まずご説明させていただくのは、ダンジョンの存在意義です』
「ダンジョンの存在意義っていうと、文明の発達とかを促すためーとかそういう感じですか?」
『肯定。しかし、それ以外にも霊脈回廊の巡りの潤滑剤という意義も存在致します』
「霊脈回廊……?」
私が首をかしげると、何もなかった空間にホログラムが現れそこに地球儀のようなものが現れた。恐らく、これはこの世界の全体図なのだろう。その球体にはなにやら細長い線が蜘蛛の巣のように枝分かれしているのが見える。
妙な所でハイテクだ。
『霊脈回廊とは、世界に存在する気や魂の流れを定める水路のようなものです』
「魂の水路……。水道管みたいなものか」
『神が世界の管理をより効率良く行うため世界には霊脈回廊が常に巡っています。しかし、この世界は未熟なため霊脈回廊の停滞箇所が多く、巡り方も最効率化されていません。霊脈回廊の停滞は管理システムの誤差を起こしやすくさせ、巡りの世界の天候や地脈、生物サイクルに影響を及ぼし、ひいては文明の発達に支障を及ぼします』
「天候や生物サイクルに影響っていうと…地震とか台風とか流行病発生とか?」
『肯定。主な誤差の影響の例としてそれらが挙げられます』
地球の災害って管理ミスによって生まれてたのかぁ。それは知らなかった。
しかし、もしその話が本当だとするならば地震が多い日本はその霊脈回廊とやらが停滞している場所なのではないだろうか? なにそれ怖い。
『ダンジョンマスターはダンジョンを運営し侵入者達の感情や魂を吸収することで霊脈回廊の停滞を解し、管理システムの最効率化を促す事が出来ます。吸収した感情や魂は全てダンジョンポイント――DPに変換され、ダンジョンマスターがダンジョンの再構築にDPを使用する事で霊脈回廊の停滞箇所の潤滑化を行います』
「ダンジョンに人を呼んでDP集めて、その集めたDPでダンジョンのリフォームを行って更に人を呼ぶ……それだけでその霊脈回廊の停滞って防ぐ事が出来るんだ」
『肯定』
<オペレーター>にDPの貯め方について尋ねてみると、結構色々あった。
1. 自然回復(一日に大体10ポイント程。)
2. 侵入者の滞在
3. ダンジョン内で侵入者が死亡する
4. 侵入者の精神状態を大きく揺さぶる
5. 所有している魔物が死亡する
獲得できるDPの総数は侵入者のレベルの高さ、精神状態によって稼げるポイントが変わるらしい。この5つ以外にもDPを稼ぐ方法は他にあるそうだが、それはダンジョンマスターとしての役目に慣れてきたら説明してくれるそうだ。
『また、ダンジョンという住民以外の脅威を作る事で人同士の争いを減らし結託させる事での生物間での成長の促進を促す事もダンジョンとしての存在意義です』
「管理させやすくして、更には人同士のぶつかり合いをなくす……一石二鳥って奴だね」
知ってみるとダンジョンマスターとは中々スケールの大きい職業なのだなぁとしみじみに思った。そして同時に、あることも思った。
「結局それって、女神の仕事ぶりがあまりに杜撰すぎてダンジョンシステムがないとまともに世界の管理も出来ないって事ですかね?」
『肯定。端的に言えばその通りです』
「いや肯定するんだ。普通肯定しちゃ駄目な所じゃない?」
『回答。スキル<オペレーター>及びダンジョンマスターによる世界管理支援システムは創造神共通の独立システムの一部に属しているためこの世界の創造神の干渉は一切受けておりません。事実の肯定に関してこの世界の創造神の意見に左右される事はありません』
「それつまり女神が文句言おうが知った事じゃないって言ってるようなものですよね!? 神様相手に冷たく接するね<オペレーター>さん!」
人には出来ない事をやってのける<オペレーター>に思わずツッコミを入れてしまう。
私には分かる。この<オペレーター>、絶対上司相手にも物怖じせずに意見するバリバリ優秀な美人キャリアウーマンだ…! そこに痺れる、憧れる!
『続いて、ダンジョンコアについて説明を致します。ダンジョンコアとはダンジョンの心臓部にして、ダンジョンの命そのものです。貴方様がダンジョンマスター登録を行った際に触れた水晶玉がダンジョンコアです』
「ダンジョンコアって、ここにある水晶玉がそうなの?」
『肯定。ダンジョンコアとダンジョンマスターの命は一心同体になっております。ダンジョンマスターが討伐された場合、ダンジョン内にあるモンスター、トラップ、ダンジョンの構造が全てリセットされます』
「え、それって逆にダンジョンコアが壊された場合もダンジョンマスター死んだりしないですかね?」
水晶玉=私の命という方程式が勝手に作られている事に少し恐怖したけど、<オペレーター>が即座に否定してくれた。
『否定。ダンジョンコアが破壊された場合、ダンジョンはリセットされる事には変わりありませんがダンジョンマスターは命を落とす事はありません。また、ダンジョンコアは世界の住人には破壊できないように創造されています』
「良かった、死なないのか……。でも一応ダンジョンコアも隠しておかないと行けないね。あ、ダンジョンコアってこのまま動かせないんですか?」
『回答。ダンジョンコアはダンジョン内であればダンジョンマスターの権限によって設置したい場所に変更できます』
「流石にマイホームには持ってけないのか……」
<ホーム帰還>でマイホームに引きこもっていれば自分の身は守られるけど、ダンジョンコアはダンジョン内で隠す必要があるようだ。
青色の光を放つ水晶玉を最深部の中心に置いておくのは流石に目立ちすぎる。後でもっと目立たない場所に変えておくことを忘れないでおこう。
『次に、ダンジョンマスターのみが扱える権限に関して説明します。ダンジョンマスターは主として2つの権限を所有しています』
ダンジョンマスターの1つ目の権限はダンジョン内部構造の再構築。簡単に言ってしまえばダンジョンのリフォームだ。
ダンジョンマスター専用のスキル<カスタム>を使うと、目の前にダンジョンの地図が立体的に表示され、DPを使ってダンジョンの姿を自由自在に変更出来るそうだ。
チュートリアル前は変な改造を防ぐ為、ダンジョンマスターはチュートリアルを受けなければ<カスタム>は獲得出来ないようになっているらしい。
確認のために<オペレーター>が表示してくれた私のステータス画面には確かに付属スキルの項目に新しくスキル<カスタム>が増えていた。
DPを消費すれば落とし穴や痺れる床といったトラップを設置したり、ダンジョンの階層を増やしたりと、ダンジョンのグレードアップが可能らしい。それこそ大量のDPを消費すれば、城だって作る事も出来るそうだ。私はマイホームがあるので城は要らないけど。
2つ目の権限はダンジョン内にいる魔物の管理だ。
魔物たちへの指示出しは勿論のこと、DPを支払う事で魔物を召喚して<契約>で増やしたり強化したりする事が出来るそうだ。
更に、ダンジョンで管理する魔物にも2つのタイプがある。
1. 使い捨て型。DP消費が少ないが、一度倒されたらそれでおしまい。
2. 復活型。使い捨て型よりもDPを多く消費するが、討伐されても復活する事が出来る。
多くのダンジョンマスターは前者のタイプのモンスターを活用するらしい。長期的に見れば復活出来る方が効率良さそうなのに、と思っていると私が尋ねる前に<オペレーター>が答えてくれた。
なんでも<契約>した魔物は基本ダンジョンマスターに絶対服従でダンジョンマスターに攻撃することはないけれど、復活する魔物だと稀にダンジョンマスターに対して謀反を起こす子がいるのだとか。理由はまだ解明出来ていないとのこと。
因みにゴブ郎くんはダンジョン産ではなく、外で自然発生したゴブリンだそうだ。外で自然発生した魔物が意思を持つことは結構良くあることなのだとか。
DPを使ったモンスターの購入……もとい召喚はダンジョンのリフォームと同じく<カスタム>で表示された画面で好きな魔物を選べるらしい。
実際に確認してみると、RPG定番のスライムからエンシェントドラゴンなんてラスボス級の魔物まで様々な魔物が表示されていた。
課金で購入出来るドラゴン、と考えると大分スケールダウンしてしまう。
そして最後に、<オペレーター>は大量のDPを消費して購入する以外に魔物やダンジョンのリフォームに使えるアイテムを手に入れる方法を教えてくれた。
それこそが付属スキル<ガチャ>だ。
<ガチャ>の表示画面には魔物ガチャにアイテムガチャ、超激レアモンスターやアイテムが獲得できる可能性のある混合ガチャなど、スマホのゲームアプリよろしく色々なガチャが存在する。
このスキルを使用すれば、少ないDPで<カスタム>での購入では1000万DP以上消費する魔物やアイテムもゲットできるというわけだ。
しかも、ガチャでゲットした魔物は全部復活型だという。
それだけ聞くと結構便利そうだが、勿論ガチャと名前が付くほどなので何が出るかは運次第らしい。
少ないDPで希少で強い魔物を獲得できる場合もあれば、逆に大量のDPをつぎ込んでもスライムしか出てこないなんて事もままあるわけだ。
課金ガチャって、怖いね。
『以上でダンジョン経営チュートリアルは終了です』
「え? これで終わり? 案外あっさり終わったね……」
『肯定。チュートリアルを終えたダンジョンマスターには、初期ボーナスとして1000DPが贈与されます。今後質問がある場合は<オペレーター>にどうぞ』
ダンジョン経営と聞いたから半日は掛かると思ったけど、チュートリアルは一時間程度で終わってしまった。
一先ず、ダンジョンマスターとしての仕事は大体分かった。ようはダンジョンに挑戦者を入れまくって討伐されないように心掛けながらDPを稼いで魔物を増やしたりダンジョンをリフォームしたりしてダンジョンをグレードアップしていけばいいようだ。
チュートリアルが終わったいうことなので、私は早速<ガチャ>を使ってみる事にしてみた。ダンジョンコアも移動しないといけないけれど、まずどんな魔物が出て来たかでどんな風にダンジョンをリフォームするかを決めなければ行けないからだ。
私は<ガチャ>の画面から魔物ガチャを選択し、『ガチャを回す』と書かれたボタンをタップした。
軽快なBGMと共に現れる魔法陣。結構な大きさの魔法陣なので、スライムなどではなさそうだ。
画面に『SSR!!!』と書かれた綺羅びやかな文字が表示された瞬間、魔法陣が眩い光を発し始める。魔法陣から放たれる光は余りにも眩しくて、私は目が眩みそうになる。次回やる時はサングラス掛けた状態でやろう。
眩い光の中、魔法陣から何かが姿を現した。
手で影を作り、目を凝らして見てみるとそれは人の姿をしていた。
光の放出が止み、魔法陣の中心に立つ者の姿がハッキリと見えるようになった。
それを一言で表現するなら、悪魔そのものだった。
深淵を彷彿させる黒髪。
透き通るような白い肌。
大人の色気を感じさせる甘いマスク。
貴族か王族が着てそうな衣装を着こなすそのルックスは、一見すればとても顔の整った男性に見えるだろうが、背中から生える蝙蝠の羽とヤギの角が目の前のイケメンが人外であると示していた。
黒白目と言うべきなのだろうか?
白目の部分は黒に染まりきっており、黒目の部分には血のように鮮やかな赤色が存在しているその両目は、ネットに公開されているイラストの悪魔が持つ瞳そのままだ。
数多の女性を魅了してきたであろう大人っぽい微笑みはとても優しげだが、彼が放つオーラは明らかに邪悪そのものだ。
私は目の前の悪魔系イケメンを凝視し、その存在が妄想ではないと知ると、思わず大きく口を開き、そして叫んだ。
「チェンジで!!!!!!」




