バグもほどほどにしてくれませんかねぇ?
イグニが新人達を研修させている頃、私はスキルの検証を行っていた。
スキル検証を行う事を決めたのは、翌日の早朝にステータスを確認した事が理由だ。
実はタケルとのダンジョン戦争のお陰で、私はレベルが上った。
レベルアップの結果、私のレベルはこうなった。
【レベル】18
「しょっぼ!!!」
思わず叫んでしまった。
あれだけ全員で頑張ったのにたったの4レベル上がっただけ。
これは文句の一つや2つどころか、5つは出てしまう。
確かタケル青年とその幹部達のレベルは100を超えていたはずだし、魔物の数も何十体もいたはずだ。
私が得られる経験値はたった数割といえど、あれだけの数を相手にすればたった5レベル上がる程度の経験値ではないはず。
騎士団より経験値が少ないってどんなバグだ。
バグってる。これはバグっている。
私はすぐに<オペレーター>にこの件について尋ねた。
『回答。ダンジョン戦争中にて貴方様の配下が倒した魔物はヴァンパイア・ロード1、スライム29、コボルト41、ゴーレム20、ゾンビ36、オーガ17、スケルトン40です。』
「あれ、マリアさんの話によるとピカラさんもアラクネ三姉妹に倒されたはずじゃ…」
『回答。ハーピーの死因はスキルの発動途中に罠に向かって突撃し、罠に掛かった事によるものだったため、自滅と判断されました。』
「自滅…。一体どんな事をしたんですかね…?」
直接手を出して倒したわけじゃないから経験値を得られる対象ではなかったのは理解した。
けど、アラクネ三姉妹達は一体何をしたんだろうか?
マリア達に何をしたかを聞いても、ただ笑うだけで何も教えてはくれなかったから、私はピカラやアリアがどうやって倒されたかを知らない。
けど多分、えげつない方法で倒したんだろうなぁ…。
『告。これらの魔物から得られる平均経験値を基準にした場合、貴方は20レベル上げることが可能なはずでした。』
「はずでした…ってことはまさか、何か普通ではない事が?」
『回答。撃退された魔物達の殆どのレベルは一桁,またはレベル一桁台と同等程度の経験値しか所有していませんでした。』
「ひ、一桁台と相当の経験値!?いやいやいや、アリアさんは確か100レベル超えていたはずでは…。」
『回答。ヴァンパイア・ロードを含め、数名の魔物は本来の経験値獲得方法とは異なる方法で得ていました。そのため、本来得られる経験値数とは大きく異なる結果となりました。』
「サンドバッグパワーレベリングのせいかーーーーー!」
私は納得した。
そりゃあそうだ。
本来は敵と命がけに戦って倒すことで経験値を得る事が出来る。
しかしタケル青年は、無抵抗のコボルト達をいたぶって倒す事で経験値を得てレベル上げをしていたのだ。
つまり、カカシをただただ殴っていたようなものだ。
そんなレベリングでは確かにレベルは上がるだろうけど、彼らは本当に強くなったとはいえない。
いわば、ハリボテの強さだったというわけだ。
そんなハリボテを倒した所で、そのレベルに合わせた経験値なんて得られるはずがない。
レベル一桁と同等だった…ということはまあ、彼らの本来の強さはその程度の物だったということなのだろう。
有り得ないレベリング方法を行っていた結果、このようなバグを引き起こしてしまったのだ。
「<オペレーター>さん、一度レベル上げに関するシステムを色々見直した方が良いですよ…。」
『了。レベルシステムの見直しの要請を送信します。』
<オペレーター>を通してバグ報告を行って、再びステータスを見返したけれど、スキルの方に変化が起きていた。
まず<お出かけ>のスキルレベルが2に上がっていた。
これは恐らく、タケルのダンジョンを模した異空間を作るために魔力回復ポーションを飲みながら<お出かけ>を使いまくっていたからだ。
スキルレベルが上がった結果何が変わったのかは後で調べる予定だ。
次に<威圧耐性>が5に上がっていた。
きっとパーティーでリリィ達から威圧を掛けられたからだろう。
これは普通に有り難い。
更には、新たなスキルとしてこんなスキルが追加されていた。
<洗脳耐性 LV1>
<洗脳耐性>は恐らく、リリィの洗脳魔法を受けたから。
あの時はガッツリ掛かってしまったけれど、このスキルのスキルレベルを上げていけば今後何かあった時にでも耐える事が出来るだろう。
「こう改めて見て思ったけど、私って弱いなぁ」
「ソンナコト、ナイ。」
「アイネス**、ヨワイ、ナイ。」
「ありがとうございます。けど私は戦闘面で弱いのは承知済みですから。」
ダンジョン戦争の時のように、ベリアル達が全員近くにいないのに戦闘に入る可能性がある。
ダンジョン戦争の時はシュールストレミングが有効だった事とタクトに私を傷付ける気がなくて手加減してくれた事で怪我はなかったけど、外でそうなるとは限らない。
また戦闘することになることを考えると、このまま放置するのは駄目だろう。
「自己防衛出来る程度の戦闘能力か、身を守る事が出来るスキルがあれば良いんですけどね…。」
「ぎゃうぎゃーう!」
「どうしたんです、ゴブ郎くん?」
ステータス画面を見てウンウン唸っていると、ゴブ郎が私に声を掛けて、何かのジェスチャーをしてきた。
何かで身を隠すジェスチャー…これは、<隠蔽>だろうか?
「確かに<隠蔽>なら地雷や敵に認知されなくなるから身を守る手段に使えるかもしれないけど、それでも危険じゃないかな…。」
「ぎゃう?」
確かに単体攻撃やスイッチ式の罠だったら身を守る事が出来る。
けど、範囲魔法や時限式の罠は違うだろう。
範囲系の魔法の攻撃対象は単体ではなく、範囲の中にいる複数人なのだ。
人数や位置、見えるか見えないかは関係なく、範囲の中にいる物を攻撃するのが範囲魔法。
私の存在を認知出来なかったとしても、問題はないのだ。
時限式の罠も、時間が来たら発動するものだから私の存在が認知されなくても関係がない。
フォレスの<精霊結界>や守護精霊の防御魔法に比べると、防御に使えるとはイマイチ言えないのだ。
「やっぱり<隠蔽>じゃ、身を守る方法としてはイマイチ役立てないですかね…?」
『回答。十分使う事が可能だと推測されます。』
「へ?」
***** *****
「安全対策の<精霊結界>よし、周囲の物や人なし。それじゃあ、実験といきましょうか。」
「ハイ、アイネス**。」
<オペレーター>からある話を聞いた私はそれが真実であるかを調べる為、ルール違反者を制裁するための部屋で実験をすることになった。
協力者はベリアルとフォレス。観察者は私とゴブ郎だ。
私とゴブ郎にはフォレスに頼んで<精霊結界>を掛けてもらっている。
余波で被害が及ぶ事はないだろう。
「ターゲット、鶏の貯金箱2体。で、その1体を<隠蔽>」
私が<隠蔽>を使えば、ちょっとアホ面の鶏の貯金箱の片方が姿を消える。
豚の貯金箱はトン吉を燃やしてチャーシューにしているように感じたので、実験に使うのは鶏の貯金箱にした。
鶏に先に謝っておこう。ごめんなさい。
霧のように姿を消した貯金箱を確認すると、私はすぐにゴブ郎とともにフォレスの背後に逃げる。
「ベリアルさん、お願いします。思いっきりどうぞ」
「ワカッタ。******。」
ベリアルが何か呪文のような言葉を唱えたその瞬間、貯金箱を中心に炎の柱が出現する。
<精霊結界>によって護られている為私達に炎に飲み込まれないで済んでいるが、結界の外は炎の海で、映画で見るような炎上アクション以上の迫力だ。
いや、思いっきりやれとは言ったけど、此処まで思いっきりするとは思わなかった。
絶対に結界なしでは喰らいたくない。
「フォレスさん、消火をお願いします。」
「ハイ、*********。」
フォレスが何かの呪文を唱えると、結界の外に台風のような強い突風が巻き起こり、炎の海と化していた周辺の炎を消し去った。
炎がすべて消え去り、突風が収まると、<隠蔽>を掛けていなかった鶏の貯金箱一体は跡形もなく消え去っていた。
私は燃やし尽くされた鶏の貯金箱に手を合わせた。
跡形も残らないとはなんと恐ろしい。
人に絶対に向けちゃいけないたぐいの魔法だ。
「<隠蔽>解除。」
私は貯金箱のあった場所に手を向け、スキルの解除を行う。
すると、私が<隠蔽>で隠していたもう一つの鶏の貯金箱が無傷の状態で姿を現した。
私はそっと焦げ跡一つない鶏の貯金箱を手に取り、中身を確かめる。
中に入れていたおもちゃのコインも入れた時と同じ数が揃っている。
私は大きなため息を付いた後、言った。
「やっぱりバグってますね。」
「***。」
「******…。」
「ぎゃうー…」
私の言葉にうんうんと頷く三人。
私は再度ため息をつき、思いっきり叫んだ。
「当たり判定まで認知できなくなるとか聞いてないわ!!!」
<オペレーター>から聞いた話とは、この<隠蔽>の隠しバグだった。
姿を隠して認知されなくなるスキルだとは分かっていたけど、まさかこんなオンラインゲームのチートみたいな事が出来るとは思わなかった。
スキルレベルの高さや対象に触れられなくなるという時点で既にバグっているとは思っていたけど、こんなバグまで隠されていたとは思わなかった。
最早チートスキルだ。
チート(みたいに強い)スキルではなく、チート(ガチ)スキルである。
「でも、これなら攻撃から身を守る手段としては問題無さそうですね。」
これがアニメだったら『良い子は真似しちゃ駄目だぞ♪』みたいなテロップが出るだろうし、ゲームだったら即刻運営にアカウントをBANされるだろう。
しかし此処は現実。テロップも出る事がなければアカウントBANする運営も居ない。
防御手段としては問題はないだろう。
ただ、一つ問題がある。
「炎の中に包まれたりなんてしたら、私のメンタルが保たないんですが。」
いくら無事だとは分かっていても、辺り一帯が炎に包まれる状況なんて起きたら気絶する。
炎に包まれたり雷に打たれたりなんてしたら、普通の女子高生は気絶する。
それにあれだけの勢いの炎に包まれれば周囲の酸素も無くなるので、窒息してしまう。
酸素問題は酸素スプレーでどうにか出来るかもしれないけれど、気絶はどうしようもない。
ダンジョン戦争では気絶したら敗北なのでこの防御方法だけでは駄目だ。
どうにかする方法はないだろうか?
『回答。精神力を鍛えましょう。』
「ですよねー。」
相変わらず<オペレーター>が辛辣です。
<隠蔽>以外にも防御手段が必要だろう。
こうなると、残された手段はたった一つだ。
「鍛えて、自己防衛出来るようにしよう。」
「ぎゃうぎゃう!」
「ベリアル、モ、テツダウ。」
「フォレス、モ。」
鍛えて強くなる。これが一番有効な方法だ。
今までは外に出ないからと戦闘面で鍛えるなんて真似はしなかったけど、この死と隣り合わせの世界で鍛えておいて悪い事はない。
国の英雄レベルに強くなる事は出来なくても、自分の身を守れる程度に強くなれればそれでいい。
タケル青年のようにパワーレベリングすることなく、誠実にコツコツと鍛えれば自分のためになる。
今日から、頑張っていこう。
そう私は意気込むのだった。
「トックン、ノ、シドウ、ハ、ベリアル、ニ、マカセテ。」
「ほ、程々にお願いしますね?」
あ、もう心折れそう。




