その希望は作られた希望
タケルが次々に謎を解いた事でどうにか部屋の中にある謎を全て解き明かし、タケルとリリィは部屋から一番早く抜け出すことが出来た。
二人が部屋を出るとそこは廊下に繋がっていて、タケル達が出てきた物と同じ扉が複数あり、廊下の端には黒い扉がある。
タケルとリリィは仲間たちとこれ以上分けられないよう、廊下で他の脱出者達を待つことに決めた。
「もう此処まで来れば安心だな。」
「流石はタケル様です!あれ程の難問をすぐに解いてしまうだなんて!」
「いや、あれくらい簡単だよ。」
タケルが容易く解けたのは当然だ。
何故なら部屋の中にあった謎は全てアイネスが<ネットショッピング>で取り寄せた子供向けのなぞなぞ本やクイズ本からシルキーズが選んだなぞなぞ。
地球出身のタケルに解けない方が可笑しいのである。
更にシルキーズ達は敵のダンジョンマスターであるタケルが窒息死しないよう、タケルのいた部屋に出された問題は一番簡単にしていたのだ。
そんな事も知らないタケルはリリィに称賛され、胸を張って自慢げに微笑んだ。
「それとリリィ、二人きりの時は…」
「あっ、ごめんなさい、タケル…。まだ少し照れくさくて…。」
「全く…リリィは可愛いな。」
「そ、そんな!か、可愛いだなんて…。」
「リリィは可愛いよ。本当に。」
タケルの言葉に頬を赤らめ照れるリリィ。
ダンジョン戦争中だというのにカップルのようにイチャつき始める二人。
アイネスがこの場を見ていたら、ブザー音を鳴らしまくっていただろう。
「リリィ…」
「タケル…」
あともう少しで口と口がくっつきそうになったその時、一つの扉がガチャリと開いた。
開いた扉からは、慌てた様子のパーリーウルフズが飛び出してきた。
5人は倒れ込むように部屋から出ると、好き勝手に話し始める。
「あっぶね~~~~!死ぬかと思った!」
「俺ら今のムーブマジヤバくなかった?俺らのチームプレイマジ神ってたわ!」
「神っていた。」
「あ、ボスとリリぴょんじゃん!ウィッス!」
「二人共、無事だったんっすね!」
「あ、ああ、うん。君達も無事だったんだね…。」
ワイワイ賑やかに騒ぐパーリーウルフズにタケルは内心リリィとの時間を邪魔されたと不満を覚えつつも、それを表面に出さないようにパーリーウルフズと会話をする。
パーリーウルフズが来て間もなく、もう2つの部屋の扉も開き、そこからおよそ20体の攻略部隊の魔物達が脱出してきた。
アイネスのダンジョンに入る前は100体以上いた攻略部隊が残り半分以下を切っているという事実に、タケルは身震いする。
するとタケルの身震いに気づいたリリィがタケルの腕にギュッとくっついてくる。
その行動にタケルはドキッと胸が高鳴り、そして勇気づけられ身震いが止まった。
やがて5つ目の扉が開き、そこから数体の魔物達が出てきた。
これで他の扉は全て封鎖された。
残るは別の脱出方法を試みているアリアだけなのだが、いくら待ってもアリアは来ない。
嫌な予感がしたタケルは念話でアリアに話しかける。
「アリア?アリア、聞こえてるかい?今何処にいるんだ?返事をしてくれ!」
しかし、アリアからの返事はない。
どれだけタケルが呼びかけても、アリアの声が聞こえることはなかった。
するとそこに、ルーシーからの声が聞こえてくる。
『皆さん、無事に部屋から脱出されたようですね。次の扉の中へどうぞお進みください。』
「ま、待ってくれ!まだ来ていない仲間がいるんだ!」
『先程も申されたように、部屋から出られるのは20ある部屋の中で謎を全て解いた初めの5部屋のみ。それ以外の者が出る事は出来ません。』
「いや、だけどアリアは別の脱出方法を使っているはずだ!だからもうすぐアリアも来るはずで…」
さっさと出ていけと言わんばかりのルーシーの言葉に、タケルは慌てて反論する。
するとルーシーは『ああ、ヴァンパイア・ロードの彼女ですか』と特に驚いた様子もなく、呟いた後、タケル達を絶望に突き落とす言葉を告げた。
『彼女なら既に死にましたよ?』
「え?」
『わたくし共が用意していた罠に見事引っかかってくれましたので、そのまま粉々に砕かせて頂きました。』
「な、なんだって………!?!」
淡々と告げられた言葉に絶句するタケル達。
その中で一番我に返ったリリィが、ルーシーの声に向かって反論する。
「う、嘘です!アリアさんが倒されるだなんて…!」
「そ、そうだ!アリアがそんな簡単に倒される訳がない!」
リリィに続いてタケルもその事実を否定し、他の魔物達もあり得ないと声をあげた。
そんな彼らにルーシーは何を思ったのか、天井から何かを落とした。
天井から落ちてきたのはバラバラになった紫色の布切れと、粉々になった金の破片だった。
それを見たタケルは、顔を青ざめた。
それは、前にアリアにプレゼントしたリボンの髪飾りだったからだ。
「これは、アリアの…」
「そんな…」
『これで信じてもらえましたか?』
「なんで…どうして…!」
信じられないという様子で涙を流しタケルに寄りかかるリリィに対し、タケルは焦燥感と恐怖に陥っていた。
ここまで来るまでに既に二人の幹部が倒されていて、攻略部隊の魔物達も半分を切った。
ピカラの死を間近で見ても未だ夢心地だったものが、一気に現実に戻されるような感覚に陥った。
「タケル様…」
「こ、このままだと全滅するかもしれない。シズクかホムラに戻って来てもらおう!」
不安そうに見るリリィを見て、タケルは他の幹部を呼び戻す事を決めた。
アークデビルロード達に攻略される不安もあるけれど、アイネスさえ捕まえてしまえば彼らは関係ない。
タケルはすぐにホムラとシズクに念話をする。
しかし二人が反応する事はなかった。
それもそのはずだ。
ホムラはイグニレウスによって、シズクはベリアルによって既に倒されていたからだ。
二人がすでに倒されている事を悟ったタケルは、顔色がより一層悪くなる。
「タケル様?まさか、シズクさん達も……」
「………皆、先を進もう。」
リリィの言葉を遮るように、タケルは先を進む指示を出した。
意気消沈するタケル達は、黒い扉をくぐって真っ黒な道を進んでいく。
やがて見つけた扉を開けば、そこは今までの場所とは全く違った場所になっていた。
「これは…鏡か?」
「これ、全部鏡で出来てんの!?マジヤベェ!」
「下手に行ったら迷いそうっすね…。」
扉の先にあったのは、巨大な迷路だった。
ただの迷路ではない。
壁が全て鏡で出来た、鏡の大迷宮だ。
柱は青色に光るヒカリゴケで照らされており、先の向こうが無限に続いている。
タケル達が周囲を伺って警戒していると、ルーシーの時のように何処からともなく声が聞こえてきた。
『やっと来た!もー、遅いよ!このまま皆途中で全滅しちゃうのかと思った!』
タケル達の暗い空気とは全く場違いな明るい女性の声が聞こえてくる。
タケルはその声に対し、苛立ちをぶつけるように叫んだ。
「誰だ!いるなら出てこい!」
『やだ、こわーい!そんなに怒鳴り散らしてどうしたの?もしかして、大事な女の子でも途中で殺られちゃった?』
「ぐっ、この…!!」
タケルの怒りを煽るように話す女性の声に、タケルは怒りで拳を強く握った。
そんなタケルの様子など素知らぬ顔で、女性の声は話始めた。
『あたしはこの紫の扉の番人をしているマリアだよ!今からここの攻略方法について教えてあげる♡って、言っても此処は他二つと違ってとってもシンプルなんだけど。ただ正解の道を見つけてゴールまで辿り着けばそれで次に行けるよ!それになんと!この迷宮を見事に攻略出来れば、最深部の前の部屋に辿り着く事が出来るの!どう?やる気になってくれたかな?』
楽しげな声で説明するマリアに対し、タケルは少し希望を取り戻す。
あともう少しで最深部に辿り着く事が出来る。
そしてダンジョンコアに触れるかアイネスを気絶させれば自分たちが勝つ。
その事実はタケルに希望を持たせるのには十分だった。
そして、マリアはそのまま話し続ける。
『因みにもし間違った道に行くと、最悪死ぬか、最初の所まで戻されちゃうから気をつけてね!また苦労してここまで戻ってくるのも大変でしょ?なんだったら、ギブアップとかもしていいからね?』
「そんな事、絶対にないです!だって、タケル様はあなた達になんて負けないんだから!」
マリアの言葉をリリィはすぐさま否定した。
リリィの言葉で元気を取り戻したタケルは、リリィを懐に寄せて微笑んだあと、マリアに言った。
「ああそうだ、僕たちは決して君達には負けない!姑息な手を使って仲間達を倒してきた君達には!」
そのタケルの言葉に攻略部隊の魔物たちも鼓舞され、一斉に声を上げた。
タケル達の士気が最初の時のように戻るのをカメラ越しに見たマリアは、フッと笑った。
『あ、そうだ!そういえばそこのダンジョンマスターの人に、プレゼントがあるんだった!危うく忘れる所だったよー!』
「プレゼント?それは一体…」
『じゃ、よーく見て、そして聞いてね?君にも結構大事な事だから…ね?』
突然の言葉に首を傾げたタケルがマリアに尋ねようとするものの、マリアはタケルを無視してタケルに告げた。
その時、目の前にあった鏡の一つが音を出し、映像と音声を流し始めたのだ。
そこに映ったのは男娼館らしき部屋の映像と二人の男女の姿だ。
男の方はまるで精魂を全て吸われたように干からびているのが分かる。
そして、女性の方はベッドに腰を掛け、独り言を呟いていた。
『あ~、やっぱ久々の人間の男の精力は最高だわ~。』
『あの童貞男の目があるからいつも行けないのが難点だよなぁ。本当、マジウザいったらありゃしない。』
『まあ、あいつのお陰で冒険者として名前を広げられてこうやって夜な夜な男達を食い散らかしても疑いが行くことはないし?そこは良いよね。マジでダンジョンマスター様様って感じ。』
『てか、あの「アイネス」って女どうしよっかな…。妙に勘が鋭そうだし、下手に此方に引き入れたら私が童貞男を裏から操ってるのバレそう。ま、最悪あの馬鹿女4人を煽って殺させれば良いよね~。』
『ダンジョン戦争で負けても、タケルを慰めて励ましとけばまた復活するだろうし、その時はもう一度ダンジョン戦争を挑ませて確実にあっちの戦力を潰してやろ。』
『は~、本当男って扱いやすいよね~。ちょーっと私が清純ぶって優しくしてあげるだけで私の思い通りに動くし。超楽勝って感じ♡』
『アッハッハッハッハ!』
タケルは映像に映っている女性も、その声も知っていた。
けど、タケルはその声が呟いている酷い内容に頭が真っ白になる。
信じたくないのに、醜く笑う彼女が映った映像が真実だと告げていた。
タケルは、出来ればその事実から目を背けたかった。
だってそれは、自分がこの世界に来て最初に出会い、一番長く過ごしていた女の子の姿だったのだから。
「……り、リリィ?」
「あ…あ…、なんで……これが…」
タケルが隣を向いて名前を呼べば、彼女は顔を青白くさせ、全身を震わせていた。




