謝罪する者、省みぬ者
<さぁ、アイネス様のダンジョンではアラクネ達の巧妙な罠によってタケル様のダンジョンの幹部のハーピーが死亡しました!この展開には実況席、観客席共に驚きです!>
<レベル100超えを倒すなんて凄いね~。>
<そして、タケル様のダンジョンでは、未だにアイネス様側の魔物たち3体が凄まじい勢いで敵を倒し、ダンジョンを攻略していきます!果たして、タケル様の幹部達は彼らに追いつく事が出来るのか!>
「フハハハハハハハハ!どうした、この程度か!もっと俺様を楽しませろ!」
「煩いですよこの脳筋。もっと静かに殺しなさい。」
「イグニさんは先日のパーティー参加出来ませんでしたからね…。その時の鬱憤を晴らしているのでは?」
「ああ、確かにありえますね」
「そこ!聞こえているぞ!」
一方その頃、アイネスからゴーサインを出されたベリアル達は開始前から隠れていたイグニレウスとすぐに合流し、タケルのダンジョンの攻略を開始した。
序盤からゴーレムがマシンガンを片手に銃撃してきたりこの世界では見たことのないような武器を使って攻撃してくる魔物がいたが、ベリアル達は難なく彼らを瞬殺し先を進んでいた。
彼らがこの世界には存在しないだろう銃や武器に対応出来ていたのは、ある理由があった。
『イグニ、ミギB3、プラス、ヨコAスラッシュ。』
「っと、『御意!』アイネスの指示は良いな!シンプルで分かりやすい!!」
「ええ、本当に、そうですねっ!」
『フォレス、マエY。ベリアル、マエAスナイプ』
「「『御意!』」」
彼らの耳に付けられたイヤホンから聞こえてくる、アイネスこと小森の的確な指示があったからだった。
準備期間中、アイネスはある懸念をしていた。
それは、ダンジョン戦争の間<オペレーター>に頼れない事。
<オペレーター>がいないと単語単語でしか指示を出せないため、的確な指示を出そうとすると遅れる可能性がある。
そう考えたアイネスは、事前にベリアル達三人と指示に使う単語を決めていたのだ。
Bはスキルなしでの物理攻撃、Aはスキルを使っての攻撃、Yは防御、数字は何回連続で攻撃するかといった感じだ。
指示用語を決めた後は、実際に指示用語だけで動いてみたりもした。
「イグニ**、マエAハンイ。」
「うおおおおおお!負けてたまるものかぁぁぁぁ!」
「くっ…しぶといですね…!」
「アイネスさん、これはどうすれば…」
「**、フォレス、ミギB5。プラスAX。」
「あ、なんか画面がキラキラ光り始めましたよ!」
「ぐわあああああああ!HPが!HPが減っていく!負けるな『ユキムラ』!!!!」
「『ミツナリ』!貴方はまだ行けるでしょう!回復!回復しなさい!!」
「あ、なんか文字が出ましたね」
「ウィナー、フォレス。」
「「あああああああ!!!」」
勿論レベリングに自分の配下を使ったタケルと違い、他の配下を使っての実戦をした訳ではない。
<ネットショッピング>で注文した某無双ゲームや某大乱闘ゲームを使って、テレビゲームの戦闘である。
最初はコントローラーの操作に戸惑いつつも、元々ジャンルが戦い好きの彼らの好みに合わせた物だったので、かなりハマった。
特に、機械操作が苦手でテレビゲームは苦手だろうと思われていたフォレスは天才的なゲームセンスを発動し、二人以上に熱中したのだった。
その熱中ぶりは、アイネスに対ゲームオタク禁断奥義『ゲームは一日三時間』を使わせるほどの熱中ぶりだった。
そんな練習の甲斐があり、三人は今では単語一つで瞬時に対応するだけの結成力を手に入れたのだった。
行く手を阻む魔物をなぎ倒しつつ、タケルのダンジョンをどんどん進んでいくベリアル達。
実況席では、このままホムラ達がベリアル達に追いつくまでに最深部に辿り着くか?とそう思っていた。
タケルのダンジョンの最深部まであと半分まで突破したその時、急に彼らは動きを止めた。
次の階層へと続く広い空間の中で、フォレス達は足を休め始めたのだ。
その奇行に、首を傾げる実況席とミルフィオーネ達。
<あーっと、どうしたのかアイネス側の攻略組!突然休憩を取り始めました!>
<あ~、懐からお茶と食べ物取って食べ始めた~。>
<これは本格的に休憩を取っております!懐から取り出した不思議な食べ物…>
「『かっぷけーき』です。」
<失礼、『かっぷけーき』を、それはとても美味しそうに食しています!一方、観客席の方ではミルフィオーネ様とディオーソス様が事前にアイネス様が差し入れてくれたお茶菓子を食しております!正直羨ましいです!>
<良いな~。僕たちも食べたい…。>
「だ、そうですがどうします?」
「後で司会役の報酬として何か渡せないかアイネス様に聞いてみますか?」
「彼奴なら普通に用意するだろうな。」
「と、いう事ですので、味のお好みがあればアイネス様にお伝えしますよ?甘いのとしょっぱい食べ物、どちらが宜しいですか?」
<甘いのでお願いします!>
<僕はしょっぱいの~。>
休憩を始め、実況席と和やかに会話をするベリアル達。
するとそこに、ホムラとシズクがやって来た。
二人は休憩しているベリアル達の様子に、眉をひそめる。
「随分と呑気ですのね…。敵のダンジョンの中で優雅にお茶会をしているだなんて。」
「ああ、これは申し訳ありません。あまりにも此方のダンジョンが静かでしたので、休憩所かと勘違いしておりました。」
「っ…。そちらのダンジョンマスターは幹部すらまともに躾けられませんの?口が悪くてよ。」
「アイネス様は個々の性格や個性を大事にしてくれる御方ですから。自身の意見を曲げようとしないそちらのダンジョンマスターと違って。」
「そもそも、此方の言葉が通じぬアイネスに此奴の口の悪さをどう察しろと?」
皮肉を言って煽るベリアルと、正論を言うイグニレウス。
シズクは思わず怒りそうになるものの、グッと堪えた。
彼女たちにもフェスタン達の実況でアイネス側のダンジョンで自分たちの仲間、ピカラが撃退された事は知っていた。
下手に彼らの挑発に乗って攻撃を仕掛ければ、自分もピカラと同じ目に遭うかもしれないと思ったからだ。
そんな中、ホムラがゆっくりとベリアル達に近づくと、彼らに話しかける。
「確認したいのだが、今貴殿達はアイネス殿と連絡し合っている状態なのだろうか?」
「………軽々と、そういった事を敵である貴方に教えるとでも?」
「別に答えなくて構わない。出来ればアイネス殿の耳にも直接伝えたかっただけだ。連絡しあっていないのであれば、代わりにアイネス殿に伝えて欲しい事がある。」
「…アイネス様にお伝えするかは内容によりますが、まあお聞きしましょう。」
「感謝する。」
ベリアルの言葉を聞いたホムラは背中にあった大剣を自分の横に突き刺し手放すと、真剣な表情を浮かべ、すっとベリアル達に向かって頭を下げ、そして口を開いた。
「先のパーティーでタケルやアリアがアイネス殿にした事、仲間たちが知らなかったとはいえ貴殿達のダンジョンマスターを侮辱するような言動を取った事、そしてそれらを止める事が出来なかった事に対し、謝罪申し上げる。…本当に済まなかった。」
深々と頭を下げ、謝罪を述べるホムラ。
ホムラのこの行動にはベリアル達どころか、先程まで一緒にいたシズクも予想外だったらしく、目を丸くしてホムラを見た。
「ホムラさん、貴方何をしているの?!」
「タケルに仕える魔物一人の謝罪一つで貴殿達の許しを得ようとは思わないが、謝罪だけはさせて欲しい。」
「貴方、それではタケル様とわたくし共が全て悪いような言い方ではないですか!」
「実際その通りだろう!アイネス殿は最初からタケルに敵意などなく、むしろ争いが起きないよう立ち回っていた。タケルの<誘惑>にも、ちょっとした注意だけで済ませようとしてくれた。なのにその注意に対し逆に怒り出して、彼女を怒らせるような真似を続けたのはタケル…そして我々だ。侮辱の言葉を浴びせるなど許されない。」
「ほぉ…自分たちの所業が如何に悪いのかを自覚しているのですね。」
「本当はダンジョン戦争前に直接謝罪したかったのだが、それでは許しを強制するようだったので憚られた。だからこの場を使い謝罪したい。申し訳なかった。」
一向に頭を下げ続け、謝罪を述べるホムラ。
その様子に横にいたシズクは信じられないという表情でブルブルと身体を震わせる。
謝罪を述べるホムラの様子に、ベリアル達は少し感心する。
見た所ホムラはタケルや他の4人と違い、まともな性格だったようだ。
アイネスからタケル達の性格やスキルを教えてもらった時にアイネスからホムラはまともだと思うとは聞いていたけれど、まさか本当にそうだとは思わなかった。
此方が許す気が更々ない事を理解した上で謝罪を申してくるという事は、本当に謝意があるのだろう。
その行動に感心すると同時に、ホムラに多少同情した。
確かに彼女自身は常識人かもしれないが、彼女の主人であるタケルや周囲の仲間達が非常識すぎる。
普段の生活でも、彼らにかなり振り回されてきたのだろうという事をベリアル達は察した。
配下の魔物はダンジョンマスターを選べないとはよく聞くが、まさにそれである。
ホムラの苦労を考えると、敵であるベリアル達も少し同情してしまう。
「貴方の伝言は確かに受け取りました。本当は敵の言葉などアイネス様にお伝えするつもりはありませんでしたが…、貴方の真摯な態度と少しの哀れみに免じて、貴方の謝罪はアイネス様にお伝えしましょう。」
「その心遣いに感謝する。」
ベリアルの言葉に顔を上げ、礼を告げるホムラ。
ベリアル達を見るその目にはまっすぐな光が宿っており、彼女が真剣に謝罪していた事が良く分かった。
「さて、少し雑談が過ぎましたね。フォレス、貴方は先に進みなさい。このお二人は私と脳筋羽トカゲが対処します。」
「羽トカゲと呼ぶな!フォレス、そういう事だ。此奴らの事は任せろ!」
「分かりました。お二人共、ご武運を。」
ベリアルとイグニレウスに促され、次の階層へと進むフォレス。
フォレスの姿が見えなくなると、残されたベリアルとイグニレウスはホムラとシズクと対峙する。
「陰湿蝙蝠、貴様はそこの魔女を相手しろ。俺様はリザードマンの娘を相手する。相性的にも、そちらの方が貴様の都合が良いだろう。」
「ええ、それで構いません。」
「シズク、そちらは任せる。エンシェントドラゴンと対決する。」
「はぁ…貴方の生真面目さにはほとほと呆れますわね。」
ホムラの言葉にため息を付きつつも、シズクはホムラを止める事はなかった。
ホムラは地面に突き刺した大剣を引き抜き、イグニレウスに近づくと、イグニレウスに話しかけた。
「では、エンシェントドラゴン殿。ここで4人が戦うのは少々狭いので、場所を変えよう。」
「ふむ…良いだろう。」
イグニレウスがホムラの誘いに乗ると、ホムラは一つの壁に近づいて左手を翳す。
すると、ホムラが左手の薬指に付けた指輪が光だし、ゴゴゴゴ…と音を立て、一部の壁が開いた。
中へ入っていくホムラの後を追い、イグニレウスが中に入ると、壁は自動的に閉まっていった。
その様子をベリアルは興味深しげに見る。
「ほぉ…、指輪に<魔法付与>で魔法を付与したのですか。」
「ええ、その通り。タケル様がわたくし達幹部5人の為にわざわざ作って用意してくださったのよ。素敵でしょう?」
「ああ、なるほど。あの男が作った物だったのですか。道理で指輪に付与された魔法が些か雑だと思いました。」
「っ!貴方、少々口が過ぎるんでなくて?悪魔の王となるとこうも下品になるのかしら?」
「いえいえ、これでもその指輪には感心しているのですよ?穴だらけでお粗末な代物とはいえ、人間には高度なスキルである<魔法付与>を使い装飾品に付与しようとしたのなら、相当な努力と良い素材を使わないときちんと付与する事が出来ませんから。」
「っ、この狡猾で下品な蝙蝠が!口を慎みなさい!」
クスクスと笑いながら挑発するベリアルに、とうとう怒りを見せるシズク。
そんなシズクを嘲笑いながら、ベリアルは言う。
「今でしたら、アイネス様への侮辱に対する謝罪をお聞きしますよ?どうされますか?」
「誰があんな小娘如きに頭を下げて謝るものですか!パーティーでのタケル様への罵倒…今ここでその身を持って償わせますわ!」
「フフ、実に愚かですねぇ。あのトカゲの娘と同じように素直に謝罪の言葉を言えば良かったものを…。丁度、やってみたかった事があるのです。貴方で試させて貰いましょうか。」
怒りで顔を歪ませ杖を構えるシズクと、笑みを浮かべながらも殺意を出すベリアル。
強力な力を持つ2体の魔物が、今決闘を始めた。




