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ハードモード、始動。

残酷描写注意です!一応出来る限り抑えましたが、もしも駄目でしたら年齢制限を付けるので教えて下さい!

時は遡って7日前。

アイネスこと小森瞳子はダンジョンに冒険者たちが居なくなった夜にマリアとノーマル魔物達を会議室に集め、話し合いをしていた。

<オペレーター>に通訳してもらい、アイネスは彼らに話をする。


『今回のダンジョン戦争内でのダンジョンの防衛とタケルの直属の配下の撃退は、皆に任せようと思っています。』

「あたし達に?」

「ちょいと待ってくれ、アイネス様。ベリアルの旦那達に並ぶ力を持っているマリアと違ってアタシらは然程力のないノーマルランクの魔物だよ?」

「直属の配下達の中にはヴァンパイアロードやエルダーウィッチ、それにマリアさんと同じリリスまでいるのでしょう?わたくし共が束になっても軽傷を負わせられるかどうか…。」


アーシラとラクの言葉を、アイネスの隣に立っているシシリーが日本語で伝える。

それに対し、アイネスは『確かに、普通じゃそうでしょうね』と頷きつつも話を続ける。


『ですが、だからこそ倒した時に彼らにダメージを与える事が出来るんですよ。』

「ダメージ?」

『彼らの言動を見ていた所、彼らは種族やステータスの弱い魔物を見下している節がありました。更に、自分の種族やステータスに自信がある。そんな彼らがもし自分たちの勝利を信じて疑わない勝負で、自分よりもステータスが低い、今まで下に思っていた種族に負かされるような事があったら凄いショックだと思うんですよね。より凄い力を持った種族の彼女達なら特に。』

「確かに、女の魅力対決でネアちゃん達に負けた時は凄いショックだったなぁ…」


過去の対決の屈辱と精神的ショックを思い出し、遠い目をするマリア。

彼女も戦闘での事ではないにしろ、自分が自信を持っていた女性としての魅力がアラクネであるネアに負けた事でその日の夜はショックのあまりにベッドで号泣するほど精神的ダメージを受けた。

元から高いプライドがタケルとの生活によって更に高くなった彼女達は、それ以上のショックを受けることになるだろう。


『それに、生き物って嬉しかった記憶よりも辛かったり苦しかったりした時の記憶の方が残りやすいんですって』

「それがどうしたんですぅ?」

『彼女たちは皆復活型。普通なら死んで全てがリセットされる人生…いや魔物生?だけど彼女達は死んだら即復活。その時の記憶も、感情も残ったまま。その時の記憶がよりショックであればショックである程、苦痛であれば苦痛であるほどその時の記憶は残り続けるんです。どれだけその苦痛を忘れたくても、記憶を消す魔法でも使わない限り忘れる事は出来ません。それこそ、自殺を図ろうとしたとしてもです。』

「死んでも残り続ける記憶…。確かにこの上ないくらいの拷問ね…。」

『私のいた世界ではそういった心の傷…トラウマに何十年も苦しむ人って少なくないんですよ。それに耐えきれず自殺を図る人なんて、一年間だけでもおよそ2万、もっと遡れば、軽く国が建てられそうなぐらいには多いかと思います。』


アイネスのいた世界の自殺総数の多さを聞いた魔物達は、心の傷の恐ろしさにぞっとする。

ゴブ郎に負けたベリアルとイグニ、ネア達に負けたマリアは、アイネスが慰めたり美味しい食べ物を食べたりして傷を癒やして自分の糧にすることが出来た。

けど、恐らくタケルにはそれだけの献身をする力はない。

彼女達がベリアル達のように立ち直る可能性は、ほぼ限りなく低いだろう。


「まあ、アタシ達にダンジョンの防衛を任せる理由は大体分かった。けど、一体どうやって倒せば良いんだい?真正面で相手しても瞬殺されて終わりになっちまうけど…。」

「マリアさんがいるにしてもぉ、5人も強敵が相手じゃあ数で押されるかもしれませんよぉ?」


二人の懸念をシシリーが通訳してアイネスに伝える。

するとアイネスは特に狼狽える様子もなく、彼女たちにある書類を手渡した。

そこには、タケルとタケルと一緒にいた5人の名前と、スキルの名前が書いてある。


「アイネスちゃん『コレ、ハ?』」

『昨日会話した時に聞いた内容と<オペレーター>から教えてもらった情報から、彼らのスキルを特定したんです。』

「え、敵のスキル!?これに書かれているのが?!」

『<オペレーター>って、ダンジョンマスターの情報を記録しているらしいんですよ。ダンジョンマスターの性格やダンジョンの場所から、配下の魔物のステータスとか全部。それであの人の連れている5人が所有する主なスキルを聞いてみたら、普通に主だったスキルは教えてくれました。』


そう、実はアイネスが黒歴史を閲覧出来ないようにした後、アイネスは試しに<オペレーター>にリリィ達のスキルについて尋ねてみたのだ。

すると<オペレーター>は、特に拒む事もなくアイネスにリリィ達のスキルを教えたのだ。

これには尋ねた本人であるアイネスも驚いた。

「それは他のダンジョンマスターに教えていいものなんですか?」と質問してみると、


『回答。創造神に情報を渡す事は基本的に禁じられていますが、ダンジョンマスター間に関しては特に規制はありません。』


と無機質に答えたのだ。

この回答を聞いたアイネスは、天を仰いだ。

恐らく、過去のダンジョンマスターはこの事実を知る者はいなかったのだろう。

アイネス自身も、<オペレーター>からダンジョンマスターの情報が保管されている事なんて知らなかった訳だし。

過去にいたとしても、その人は誰かに言う事は無くこっそりと活用していたのだろう。

知らない所で個人情報の流出し放題とはなんと恐ろしい。

アイネスもこの事実を伏せようか考えたが、流石に知り合いのミルフィオーネ達の個人情報が他に漏れまくるのはヤバいだろうと考え、こっそり<オペレーター>に頼んで自分のダンジョン情報と一緒にミルフィオーネやディオーソスの情報も他のダンジョンマスターに流出しないように閲覧可能レベルを少し上げてもらったのだった。


『流石にタケルさんのスキルまでは良心が傷んだので敢えて聞かず、私が実際に見聞きした物と彼が持っていそうなスキルを推測してリストアップしました。殆どが推測ですが、多分十中八九合ってるかと。』

「いや…その割には随分と詳しいんだけど…」

「<マップ>に<気配察知>に<剣術>…ダンジョンマスターの傍ら冒険者をしている者なら持っていても有り得なくなさそうなスキルですね。」

『相手は異世界ラノベのテンプレ主人公に憧れを持ってたみたいでしたので、そういったテンプレなスキルも取ってそうだと思いまして。』

「テンプレとかラノベだとかアタシ達にはよく分からないけど、どれも有り得そうだね…。」

『スキルの効果とかも大体名前で分かるんで、色々<カスタム>でダンジョンを改造したり彼らのスキルがバグを起こすように対策が練れます。その応用次第では彼らを撃退する事が出来るはずです。』

「『ホントウ?タトエバ?』」

『例えばそうですね…。こんなのはどうですか?作戦名は、「<マップ>持ち殺し」で。』

「<マップ>持ち殺し?」

『実はですね―――――――――』


アイネスが伝える作戦に、マリア達は一瞬驚愕の表情を浮かべたものの、すぐに悪い笑みを浮かべ、その満場一致でその作戦の実行を賛成したのだった。


##### #####


そして現在、タケル達は目の前に広がる光景に慄いていた。

<マップ>の情報と違うダンジョンの構造。

突如として連絡の取れなくなった魔物達。

そして、そこの見えない崖底を見たタケルは彼らに何があったのかを理解した。


タケルの命令に従って先を行った魔物たちは、タケルから聞いたダンジョンの構造を信じてタケルと同じように勢いのまま扉を開けてその先へと足を踏み入れたのだ。

しかし、その先にあったのは奈落。

先頭の魔物が慌てて体勢を整えようにも後ろから魔物が押し出すように扉の向こうへと突撃し、結果として全員谷底へと真っ逆さまに落っこちてしまったのだ。


(もしもリリィが引っ張り上げてくれてなかったら僕も…!)


すぐ目の前まであった死の恐怖に、タケルはその体を震わせた。

ここ暫く感じる事のなかった恐怖。

タケルは今、身に沁みてその恐怖を実感したのだった。


「あらあらぁ、惜しかったですねぇ。あともう少しで谷底へ落ちてたのにぃ。」

「金髪の髪に、女を連れている男…。見た目の特徴からして、あれがアイネス様にエールを掛けたという敵のダンジョンマスターでしょうか?確かに、見るからにマナーのなっていなさそうな人ですね。」

「ラク、ネア。それくらいにしな。相手はああ見えてもアタシ達より何倍もレベルが高いんだ。間抜け相手だって油断すんじゃないよ!」


その時、自分たちの上方から3人の女性の声が聞こえてきた。

タケル達が開いた扉から顔を出して上を見上げてみれば、そこにいたのは崖の存在する空間の上に糸を張り、タケル達を見てクスクスと笑いながら佇んでいる三人のアラクネだった。


「ようこそ、坊や達。アタシはアイネス様のダンジョンの黄の扉の番人の一人、アーシラだよ。此方は妹のラクとネアだ。」

「どうも~、ネアですぅ。」

「ラクと申しますわ。命が尽きるほんの短い間ではありますが、どうぞお見知りおきを。」


タケル達が見ている事に気がつくと、敵の前であるにも関わらず自己紹介を始めるアーシラ達。

その表情は一見微笑んでいるように見えるが、その瞳は怒りの感情が見えている。

言葉の出ないタケルの代わりに、エルダーウィッチのシズクがアーシラ達の挨拶に返した。


「…これはご丁寧にどうも。それで、これは一体どういう事ですの?」

「『これ』とは?」

「タケル様のマップには、この先の空間はただの一本道だと表示されていた。けれど、実際の場所は足場が殆どない切り立った崖…。明らかに何かしたようにしか見えませんわ。一体どんな方法を使って、人のスキルに干渉したというのですの?」

「え~、どうしましょうかぁ、アーシラ姉様ぁ、ラク姉様ぁ?教えちゃいますぅ?」

「別に教えてもいいのではないですか?別に知った所でどうにか出来るわけでもありませんし。」

「そうね…。それじゃあ、さっさと教えてやろうかね。簡単に言えば、アンタ達のボスの坊やの<マップ>は別に間違っちゃいないのさ。ただ少し、見方が悪かっただけさ。」

「見方…だって…?」

「わたし達がいる場所より上の方を、よ~く見てみてくださいねぇ。」


何がなんだか分からず、困惑しつつも、アーシラ達の上方の方を見るタケル。

すると、彼女達の頭上…天井近くの方に透明なガラスで出来た吊り橋が存在していたのだ。

吊り橋はかなり長くまで続いており、向こう岸の方まで続いているのが分かった。

そして渡り道があるのは丁度、タケル達が今いる場所の真上(・・)だった。


「これは…!?」

「アイネス様がアタシ達の部屋を作ってくれている時に、『ハリ』っていう、天井を支える柱みたいなのを取り付けて糸を巻きつけられる場所を用意してくれようとしたのさ。その時に<カスタム>で空中に柱や道を設置すると、同じ部屋でも上にある柱や橋を道だと認識して、それ以外は全部マップ上では壁と同じように認識される事に気が付いたそうなんだよ」

「それでぇ、今あなた達がいる場所に吊り橋を設置してぇ、扉の先の足場をなくしてみたんですよぉ。アイネス様曰くぅ、皆さんはきっとアイネス様の提示した条件の裏を掻いて直接ダンジョン内の構造を調べに入るかぁ、冒険者たちに聞き込みで調査して調べるだろうと読んでいたのですよぉ。」

「アイネス様が逃げる姿を見れば、貴方方はそれを追いかける為に走って先に進むでしょう?貴方が<マップ>でここを一本道だと勘違いすれば尚更距離を詰めてしまおうと勢い良く先へ進もうとする。扉の向こうの足場を少し消してしまえば、走っていた侵入者達はその勢いのまま崖へと勝手に落ちる…。此方が手出しをせずとも、勝手に自滅してくれるという訳です。」

「そ、そんな…。」


アラクネ三姉妹の説明にタケル達は言葉を失う。

そこでリリィはハッとした様子である事に気が付いた。


「…っ!ま、まさか、わたし達がこのダンジョンの構造を調査することも分かって…!」

「ええ、アイネス様は予測しておりました。相手は何度もダンジョン戦争の実戦経験のある方々。準備期間があれば、その間に情報収集に動く事は絶対だろう、と。」

「アイネス様曰く、『隙のある条件を付けておけば、相手はその裏を掻こうと動くはず。隙のない条件を提示して好きに動かれるより、此方が作った穴を利用して動いてもらう方が対処しやすい』、だ、そうですぅ。」

「案の定、アンタ達は此方の読みどおり聞き込み調査をしていたって訳さ。ま、此処はダンジョン戦争用に備えて、通常のルートとは別に新しく建てちまった物だったからそんな調査は意味がないんだがね。」

「元々あったものを後で直す予定で作り直すよりもぉ、今後の機会に備えて新しく作った方が安価ですもんねぇ。」

「それでスケルトンさん方が工事でかなり頑張られる事になりましたが、お陰で何十体もの敵勢が一気に撃退出来ました。此方の読み通りに動いていただき、本当に感謝します。」


準備期間中の行動も全て相手に読まれていた事を知ったタケル達は愕然とする。

相手の裏を掻いたつもりが、実は相手の手のひらの上で踊らされていただけだったのだ。

そんなタケル達の心情を察して、アラクネ三姉妹達はクスクスと笑う。


「それよりも、アンタ達良いのかい?そんな強力な魔物達をダンジョン攻略に全員連れてきちまって」

「ど、どういう事だ?」

「貴方方もベリアルさんとフォレスさんは見たのでしょう?急いで誰か防衛側に向かわないと、大変なのでは?」

「あの陰険な悪魔とアタシの邪魔をした妖精王のこと?はっ、あんな奴2体いた所でタケルのダンジョンが攻略される訳ないじゃない!」


自分たちのダンジョンに余程の自信があるのか、アリアはアラクネ三姉妹にそう言った。

しかし、アラクネ三姉妹は未だに笑みを浮かべながら、そして口を開いた。


「2体?なにかぁ、勘違いされてませんかぁ?」

「……え?」

「アイネス様のダンジョンに置いて、最強格の魔物は彼らだけではありません。」

「な、何が言いたいんだ!」


よく分からない恐怖に顔が強張りつつも、気高く声を上げるホムラ。

その時、実況席のフェスタン達の声が響き渡った。


<おーっと!早い早いはやーい!タケル様のダンジョンを次々と攻略していっております!襲いかかってくる魔物達を3(・・)の魔物達が次々と瞬殺していきます!>

<罠も仕掛けも全部回避してる~。このままだとダンジョンの半分まですぐ攻略しちゃいそう~。>

<タケル様の配下達は、果たして彼らの猛攻を止める事が出来るのだろうか!>

<多分無理~。だって3(・・)ともレベル100以上の最強格だし~。>

「な…っ、3体だって!?」


フェスタン達の実況を聞いたタケルは、耳を疑った。

あの時白い空間にいたのは、アイネスとゴブ郎、そしてベリアルとフォレスの4人だけだった。

アイネスとゴブ郎が開始直後に自分のダンジョンに逃げたので残ったのは二人だけ。

3体の魔物…それも、レベル100超えの最強魔物達がいるわけがないのだ。

アラクネ三姉妹達は、現実を受け入れられないタケルに説明を始めた。


「今回のダンジョン戦争で攻め側に回る最強格の魔物の数は3体。アークデビルロードのベリアルの旦那にフェアリーロードのフォレスの旦那、それに、エンシェントドラゴンの内の一つ、エンシェントサラマンダードラゴンのイグニレウスの旦那だ。」

「え、エンシェントドラゴン…!?」

「あ、有り得ません!だって、パーティーにはエンシェントドラゴンなんていなかったはずです!」

「ええ、いるはずがありません。なにせイグニレウスさんはあの時のパーティーではお留守番させられていたのですから。」

「る、留守番!?」

「『ジャンケン』で負けちゃってぇ、その日はずーっとダンジョンでわたし達の指示出しをしてたんですぅ。普段の経営でもぉ、イグニレウスさん達は裏方に回ってるんでぇ、冒険者達の中でも知られてないんですよぉ。」

「イグニレウスの旦那はダンジョン戦争開始前からダンジョンの入り口近くに作った隠れ場所に潜んでて、アイネス様の指示が来たらすぐに出て来て三人でアンタ達のダンジョンの攻略に進む事になってたのさ。アタシ達がさっきアイネス様にアンタ達が中に入ってきた事を伝えたんで、アイネス様も指示を出して、三人はダンジョン攻略を始めたって訳さ。」


ダンジョン戦争が始まる前から、イグニレウスはダンジョンの入り口から最初の間に続く道中にある一人分の空間でずっと待機していたのだ。

自分の<威圧>と気配を消して姿を隠していたイグニレウスに対し、ベリアルとフォレスは逆に自分の存在感を強める効果のある<威圧>や<威光>スキルを少し強めに発動させていたのだった。

その結果、気配が大きかったベリアル達がイグニレウスから放たれる微小な気配を上から掻き消し、<気配察知>を持っているタケル達にイグニレウスの存在を気づかせなかったのだ。


「ホムラ、シズク!すぐにダンジョンに戻って彼らを止めてくれ!」

「っ、分かった!」

「はい…っ!」


タケルは慌ててホムラとシズクに指示を出し、二人を自分のダンジョンへと戻させた。

レベル100超えの魔物3体に対し二人だけで相手させるのはどうかと思ったが、アイネスがどれだけの最強格の魔物を連れているのか分からなくなった今、これ以上攻略側の戦力を削る事を恐れた。

そんな中、今まで黙っていたピカラが声を上げた。


「あ、あり得ないもん!」

「ん~?なにが有り得ないんですぅ?」

「だって、ドラゴンと悪魔は基本かなり仲が悪いはずじゃん!ちょっと顔を合わせたら喧嘩を始めるような二人が、協力してダンジョン攻略なんてするわけがない!」

「あぁ…確かに普通ならそうだねぇ。」

「実際、ベリアルさん達も普段からよく口論していますからね。」

「じゃあ、なんで!?」


悪魔とドラゴンがドワーフとエルフのように険悪なのはこの世界では当たり前の事だった。

にも関わらず、ドラゴンの存在を隠すように<威圧>を使った悪魔のベリアルと、口論を吹っ掛けずにベリアルと共にダンジョンの攻略を進めるドラゴンのイグニレウス。

本来の悪魔とドラゴンの関係の悪さを知っているタケル達にとっては信じられないものだった。

理由を問いただすピカラに対し、アラクネ三姉妹達は答える。


「え~っとぉ、わたし達はその場にいなかったので詳しくは分からないんですけどぉ、経営中や戦闘中、それにアイネス様が見ている時は出来るだけ喧嘩をしないように決めたそうなんですよぉ。」

「『ムカつく奴だからと喧嘩してお互いの足を引っ張ると、いざ勝てると思った相手にも勝てなくなるから』…と言っていましたね。」

「そういう訳で、今こうしてベリアルの旦那達は一時的に喧嘩を止めて協力しているのさ。」

「それにぃ、二人共アイネス様の事が大好きですからね~。今回はアイネス様が散々馬鹿にされて怒ってるみたいでぇ、二人共この7日間はずっと口論も無かったんですよぉ。」

「そんな…!アイネスの何処が良いんだ!?彼女の何が彼らを変えたんだ?!」


信じられないと言わんばかりに尋ねるタケル。

アラクネ三姉妹はキョトンとした表情でお互いの顔を見合わせると、笑みを浮かべた。


「なぁ、坊や。知ってるかい?アタシ達アラクネの持っている爪は、人間の肌なんて簡単に切れちまうぐらいに鋭利なんだ」

「そ、それくらい知っている!それと何が関係して…」

「アイネス様に召喚されて間もない頃、わたくしが誤ってアイネス様の手をその爪で傷つけてしまった事があるのですよ。」

「ベリアル様が回復魔法でアイネス様の傷は治ったんですがぁ、わたし達はその時のことがショックで、アイネス様を傷つけないように接触を控えようとしたんですよぉ。」

「だけどその三日後、アイネス様はアタシ達の部屋に訪れてこの手袋をプレゼントしてくれたのさ。アタシ達の鋭利な爪を覆ってくれる、この革手袋をね。」


アーシラは、懐から黒い革手袋を取り出して、下にいるタケル達にも見えるように見せる。

アラクネ三姉妹が召喚されて間もない頃、アーシラ達はアイネスが人間であるという配慮が足らず、誤ってその爪でアイネスの手のひらを軽く切ってしまった事があった。

その時は傍にいたベリアルが<回復魔法>でアイネスの傷を治したものの、彼女たちは自分の主人を傷つけた事で深く傷ついたのだ。

それから3日間、アイネスを傷つけないように接触を控えて気を使っているとその事に気が付いたアイネスがやって来たのだ。

その時にアイネスがプレゼントしたのが、女性物の革手袋だった。

アラクネ三姉妹達は話を続ける。


「『この革手袋があれば無闇に傷つける事はない。だから変わらず接して欲しい』と、絵やジェスチャーでアイネス様は伝えてくれました。」

「本当だったら主であるアイネス様に傷つけた時点でぇ、見捨てられても可笑しくなかったんですけどねぇ。」

「けどアイネス様にはそんな気は全く無くて、むしろ変わらず接しようと色々方法を考えてくれたのさ。アンタ達の坊やは、そこまで優しくしてくれるのかい?」


革手袋を懐に戻しながら尋ねたアーシラに、ピカラはムッとした表情ですぐに答えた。


「し、してくれてるもん!タケルはいつもピカラの頭を撫でて褒めてくれるもん!」

「そりゃ、可愛い姿をしているアンタにはそうだろうね。けど、他の魔物達はどうだい?」

「聞いた話では、その男は自分のレベルを上げる為に自分の配下の魔物たちを倒して経験値を貯めてたのでしょう?そんな恐ろしい方法を他のダンジョンマスターに自慢げに伝える…、とても優しいとは言えませんね。」


ラクの言葉に攻略部隊の魔物の数体は思う所があったのか、顔を俯けた。

彼らも、タケルとリリィ達のレベリングのために何度もタケル達に苦しめられた事があったのだ。

ピカラは負けじと、アラクネ三姉妹達に反論する。


「ち、違う!タケルは、ちゃんと優しいもん!」

「確かにぃ、強い魔物や綺麗な女性の魔物には優しいのかもしれませんねぇ。」

「ですが、アイネス様は容姿も種族もステータスも関係なく気を回して優しくしてくれるのです。」

「問題があったら一緒に解決方法を考えてくれて、皆が楽しく過ごせるような環境を作ってくれる。シルキー達と一緒になって配下達の食事を作ってくれて、落ち込んでいる時には何も言わずに傍にいてくれる。格上の魔物相手に対等に意見を言えるように役職や機会を作ってくれる。こういった相手への気遣いを欠かさない奴が『優しい』ってことなのさ。特定の魔物を甘やかしてかわいいかわいいと褒めそやしているのは『優しい』って言わない。『甘い』って言うのさ。その違いをちゃんと分かりな、お嬢ちゃん!」

「ッッ!!」


アーシラの言葉に、顔を歪めるピカラ。

ラクやネアはアーシラの発言に、「流石姉様~♡」「まさにその通りですね。」と拍手をしてアーシラを称賛する。

その称賛に少し照れつつも、アーシラはタケル達に告げた。


「安心しな。構造こそ違ってはいるが、中の仕組みは大体通常のルートと同じさ。そこに一人渡れるだけの橋があるからそれで誰か一人が先に向こう岸に行くんだ。」


アーシラが指差した方向を見てみれば、確かに一人渡れそうなボロボロの橋があり、そこまで行くための足場と窪みがある。


「台に触れれば全員が渡れる橋が現れるから他の奴らに指示出しして全員を向こう岸まで連れていけば簡単に突破出来る。まあ、その間アタシ達が妨害するんだがね。」

「橋にも落とし穴や罠がいくつもありますので、指示役の方はそれを教えないといけません。」

「ここから落ちたらそのまま谷底に落っこちちゃうのでぇ、気をつけて渡ってくださいね~。」


敵であるはずのタケル達に攻略の仕方を笑顔で教えるアラクネ三姉妹。

別に突破されても構わないような余裕がある。

ピカラはそんな三人の態度に我慢が出来なくなったのか、その翼を広げて飛んだ。


「煩い煩い!ピカラは空が飛べるから、橋や罠なんて関係ないもん!」

「ピカラ!」

「空が飛べる…それが何か?空が飛べるだけでは、ここは攻略出来ませんよ?」

「皆を運ぼうとしてもぉ、一人一人運ぶのには時間が掛かりますしぃ、その間にわたし達が邪魔出来ますからねぇ。」

「邪魔をするなら、先にあんた達を倒しちゃえば良いんだ!タケルに酷い事を言う虫は、もう死んじゃえ!!」


そう言って、アラクネ三姉妹達目掛けて突進をするピカラ。

空を制していると言われるハーピー族のピカラが飛ぶスピードはとてつもなく早く、凄い勢いで飛んでいる。


<フェザータックル>。

それは、ハーピー族の持つ攻撃スキルで、猛スピードで相手に突進して攻撃するという、ピカラが良く使うスキルだ。

既にレベルが100を超えているピカラの攻撃をまともに受ければ、アラクネ三姉妹はひとたまりもないだろう。

タケル達は期待の眼差しを、ピカラに向けた。


しかし、アラクネ三姉妹達は依然として笑みが絶える事はなかった。

むしろ、逆に笑みを深くしたのだ。

彼女達は自分たちに向かってくるピカラの姿を見て、7日前にアイネスが言っていた言葉を思い出す。


―――――――――『私は誰かを殺す、というのは感情や前の世界の倫理観念で拒否感があるため、誰かを殺す目的の罠はあまり良い案が思い浮かびません。それに、ダンジョン戦争中ではベリアル達の指示出しに集中するため、皆さんの様子を伺う事は難しいでしょう。』

―――――――――『だから実際にどうやってリリィ達を撃退するかは、皆さんに案を出してもらいたいです。』

―――――――――『アイディアのネタになりそうな漫画や映画…もとい資料はお渡ししますし、必要な道具や仕組みは私が用意しますので。』

―――――――――『別に全員撃退できなくても大丈夫です。誰か一人にターゲットを絞って、集中的に狙って撃退すれば十分かなりの戦力を削れますから。』

―――――――――『ただ相手はレベル100超えなので、大抵の攻撃や罠では死ぬことはないでしょう。なので…』


「行っけええええええ!」


ピカラが大声を上げ、タックルをしてくる。

そんな彼女を、アラクネ三姉妹達は目の前に餌が現れたような眼差しを向けた。


―――――――――『相手が耐久力関係なしに即死するような、そんな罠や攻撃を仕掛けてください。』


ピカラとアラクネ三姉妹の距離が残り5mまで縮まったその時、それは起きた。

突如シュパッと風を切るような異質な音をタケル達は微かに聞いたのだ。

先程まで雄叫びを上げていたピカラは突如叫ぶ事を止め、徐々に上昇スピードを無くした。

そして、アラクネ三姉妹の足元より少し下まで行くと上昇が止まり―――――――。



そのまま空中で、身体がバラバラの状態に切り裂かれた。

その光景に、タケル達は言葉を失った。

バラバラになったピカラの身体は浮力を失ってそのまま重力に従い下へと落ちていき、そのまま谷底へと落ちていく。

谷底へと落ちていくバラバラに切断されたピカラと目があったその瞬間、タケルは大きな悲鳴を上げた。


「ぴ、ピカラアアアアアァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」


タケルの声が響いたその瞬間、リリィ達もその光景に青ざめ、ざわつき始めた。

そんな彼らの様子を、クスクスと笑い始めるアラクネ三姉妹。

アラクネ三姉妹達とタケル達のいる場所の間には、キラキラとピカラの血で姿を現したワイヤー状の鋭利で硬い糸が張り巡らされていた。


「アイネス様のくれた資料に、『わいやー』っていう金属を細長くして糸状にしたものを固定して勢いよく突撃してきた奴の身体を切断する『わいやーとらっぷ』っていうのがあってね。それを参考にしたのさ」

「魔力を込め、より鋭利に、より頑丈にしたわたくし達の糸をこの空間の上部に仕掛けておいたのです。」

「敵側にハーピーがいることは分かってたんでぇ、ちょーっと煽れば私達にタックルしてくると思ったんですよぉ。」

「もしも糸を突破されたとしても、フォレスさんが召喚した守護精霊のお陰で身を防ぐ事が出来ましたしね。」

「さぁ、坊やの厄介なお嬢ちゃんは一人撃退した。あとは出来るだけあっちの数を削る事に専念するよ!」

「は~い♡」

「勿論ですわ。」


そんなアラクネ三姉妹の言葉に、タケルは改めて恐怖を実感した。

SRランクの魔物で、既にレベルが100を超えていたピカラが、ノーマルランクの魔物であるアラクネにいとも容易く殺された。

その事実はタケル達に衝撃を与えるのには十分過ぎるほどのダメージがあったのだ。


純真で明るく元気だったピカラの翼からとれた羽根が、静かに、ゆっくりと谷底へと落ちていった…………。





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― 新着の感想 ―
[気になる点] いや、大切なものを賭けた勝負なんだから真面目に勝ちにいけよ・・・ 何だ「相手の心に傷を与えたいので、弱い魔物で戦います!」とか「心が痛むので、相手の情報を収集出来たけど収集しません!」…
[一言] ピカラはサイコロステーキ先輩だったのか…
[気になる点] このハーピー、復活してもPTSDで飛べなくなるんじゃないですか? まさに狙い通りw
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