ダンジョン戦争の開幕
パーティーがあった日から7日が経過した今、壁も天井もない真っ白な空間に、二つのダンジョンの入口があった。
一つはアイネスこと小森瞳子の経営するダンジョン、もう一つはタケルこと、井上タケルが経営するダンジョンだ。
タケルは5人の美女魔物達と沢山の魔物達を連れて対面しているのに対し、アイネスはベリアルとフォレス、それにゴブ郎の3体のみを連れていた。
相手を睨み合っている両者を見つめるのは、今回のダンジョン戦争の仲介人を任されたディオーソスと、今回のダンジョン戦争の援助をしたミルフィオーネだった。
「では、ハプニングボーイ、タケルVSクールガール、アイネスのダンジョン戦争を執り行なおうではないか!」
「ルールは各自把握済みじゃろうが、一度振り返っておくぞ。」
そう言って、ミルフィオーネはダンジョン戦争のルール説明を行う。
ミルフィオーネは事前に自身の持つダンジョンマスター限定付属スキル<オペレーター>に通訳をしてもらっており、本来は異世界言語が理解できないアイネスにも内容を理解する事が出来る。
ダンジョン戦争のルールは至ってシンプルだ。
自身のダンジョンに入ってくる敵をダンジョン内に仕掛けた罠や魔物達でダンジョンを防衛しつつ、先に相手のダンジョンのダンジョンコアに触れるかダンジョンマスターを倒した方が勝利となる。
転移魔法を使って相手のダンジョンの最深部に一気に移動することや、白い空間での戦闘は禁止されていて、更に今回はアイネスの提示した条件により、ダンジョンマスターへの殺害行為も禁じられている。
復活型の魔物たちは、一度倒されたら脱落扱いとされ、ダンジョン戦争中に再参加する事ができない。
また、ダンジョンマスターは自分のダンジョン内をモニターで映像として見る事が出来る。
ダンジョンマスターの権限の一つで、<契約>を結んだ魔物に念話で会話をすることが出来るものがあるため、ダンジョンマスターはモニターを見ながら魔物達に指示を飛ばす事も出来る。
ダンジョンの中の構造の巧みさと、如何に魔物たちへ的確な指示出しが出来るかが肝となってくるのだ。
「更に、ダンジョン戦争中は一部のダンジョンマスターとしてのスキルが使えぬようになるのじゃが…双方、問題ないか?」
「問題ない。」
「#####。」
「アイネス様も大丈夫だそうです。」
ミルフィオーネの問いかけに、首を縦に振って返事を返すタケルとアイネス。
いつもと変わらず無表情を貫くアイネスに対し、ミルフィオーネは少し懸念があった。
アイネスはタケルとは違って異世界言語スキルがないため、魔物たちと会話したり言葉で指示を出したりする事が出来ない。
唯一アイネスの言葉を魔物達に伝える術であるスキル、<オペレーター>はダンジョン戦争の間は使えなくなる。
それはつまり、アイネスはダンジョン戦争の間ずっと魔物たちに指示を出せないのと同義だ。
ベリアル達は前々から勉強していた事もあって多少アイネスの言語を分かるようにはなってきているが、細かい単語や長い言葉はまだ十分に聞き取る事ができない。
ハッキリ言って、普通に仲間たちと意思疎通が出来るタケルの方がこのダンジョン戦争は有利なのだ。
ミルフィオーネはそれとなくそれを示唆したつもりだったのだけど、アイネスは特にこれと言った反応を示すことはなかった。
(見た所、何か他のスキルを使っている様子もない…。彼奴ら、何を考えておるのじゃ?)
ミルフィオーネは扇子で自分の口元を隠し、じっとアイネス達の方を見る。
アイネスは視線に気づきながらも、何か言う様子はない。
ベリアルとフォレスも、何も言わずにアイネスの隣に立って微笑んでいるだけだった。
「ダンジョン戦争のルールを一通り説明した所で、今回のダンジョン戦争を面白楽しくエキサイティングに盛り上げる実況をしてくれる司会二人を紹介しよう!」
「##?##?」
「出てくるがいい!フェスタン!バンチェット!」
「アイアイサー!マスター!」
「アイアーイ~マスター。」
ディオーソスの呼びかけに応えるようにド派手にバク転をして現れたのは道化師の衣装に身を包んでいる、ダークエルフの双子だった。
双子のダークエルフは華麗に着地をすると、目を丸くさせているアイネス達に対し礼儀正しくお辞儀をして自己紹介を始めた。
「お初にお目にかかります、アイネス様とその配下様方!ワタクシ、マスターディオーソスの配下、フェスタンと申します!」
「同じくマスターディオーソスの配下、バンチェット~。」
「この二人はワタシの配下の司会担当の中でも大の盛り上げ上手!今回のダンジョン戦争も存分に盛り上げてくれるだろう!ハーッハッハッハッハッ!!」
「ふむ…ダンジョンの魔物には司会担当なんてものがあるのですね。」
「初耳ですね…。」
「これ、真に受けるでない。司会担当なぞおかしな役職があるのはディオーソスのダンジョンだけじゃ。」
ディオーソスの言葉を聞いて思わず変な勘違いを仕掛けたベリアルとフォレスにミルフィオーネの冷静なツッコミが入る。
そんなやり取りが行われる中、タケルは作り笑いを浮かべてアイネスに話しかけた。
「7日前にも言ったけれど、僕が勝ったら君は僕のダンジョンに身柄を保護させてもらう事、君の配下の魔物達に結ばれた<契約>を僕に変更すること、君のダンジョンの取り壊しを要求するつもりだ。今この場で素直になってくれるんだったら誰も傷つかずにすむんだけど…。」
「#、#####。#################。」
「だ・か・ら!僕の言葉は君にも分かるはずだろう!「ちょっと何言ってるのか分からない」じゃないんだよ!ったく、最後の忠告はしたからな!」
アイネスはもうタケルの言葉をまともに聞くつもりはないようで、聞こえないふりをしてタケルを煽る。
アイネスのその態度にタケルはもう交渉を持ちかける気はなくなったようで、これ以上アイネスに話し掛けるのはやめた。
「それでは、早速ダンジョン戦争を開始したいと思います!双方、準備は宜しいですか?」
「勿論だ!」
「*****。」
フェスタンの問いかけにタケルとアイネスは頷いた。
それを見たフェスタンは、元気な声で白い空間に響き渡るような声で言った。
「それでは、アイネス様VSタケル様のダンジョン戦争の開始です!!!」
フェスタンの開始宣言の後、一番に動いたのはアイネスとゴブ郎だった。
アイネスは宣言を聞いた瞬間、クラウチングスタートの構えになり、勢いよく走っていったのだ。
ゴブ郎もそのアイネスに続いて、全力で付いていく。
アイネスのその行動に一同は目を丸くし、呆然とした。
その隙に、アイネスとゴブ郎はさっさとダンジョンの中へと入っていってしまったのだった。
―――――――――――そう、自分のダンジョンへと。
ベリアル達以外アイネスとゴブ郎の行動に呆然と立ち尽くす中、いち早く我に返ったタケルが、しまったという表情を浮かべて叫んだ。
「しまった、逃げられた!」
実はタケル達はこのダンジョン戦争を早々に終わらせるため、アイネスを倒す事を狙っていた。
現在300を越える魔物達を配下としているタケルだったのだが、彼にとってレベルが100以上を超えている上にSSRランクの魔物であるベリアルとフォレスは脅威でしかない。
下級の魔物たちをぶつけた所で、彼らの前では瞬殺されて終わりだろう。
ダンジョンコアを探すにしても、かなりの時間が要され、その間にベリアル達に沢山の魔物達が撃退されてしまう事が目に見えていた。
だから小柄で自分よりレベルが低いであろうアイネスが自分のダンジョンに入った瞬間、すぐに戦闘不能状態にしてしまおうと待ち構えていたのだ。
タケルのダンジョンの入り口には、相手を眠らせるスキル<睡眠>を持つ魔物を待機させていた。
アイネスがタケルのダンジョンに入った瞬間、すぐさま眠りに付かせようとしたのだ。
しかし、アイネスはタケルのダンジョンには一切目もくれずに自分のダンジョンの中へと逃げ去ってしまった。
この行動には、タケル達も呆然とするしかない。
アイネスに遠距離魔法を放とうにも自分たちは戦闘禁止エリアである白い空間にいるため出来ず、足の早い魔物がアイネスを追いかけて気絶させようにも、逃走するアイネスとタケル達のいる場所の間にはベリアルとフォレスが道を塞ぐように立ち塞がっている。
タケル達が動揺している隙に、アイネスとゴブ郎はダンジョンの奥へと姿を消してしまったのだった。
アイネスとゴブ郎がダンジョンの中へ入っていったのを見届けると、ベリアルはにっこりと微笑みを浮かべてタケル達に話しかけた。
「ダンジョンに入らなくても宜しいのですか?このままでは、見失いますよ?」
「っ!先行部隊、すぐにアイネスを追いかけるんだ!」
ベリアルの言葉を聞いたタケルが慌てて自分の魔物達に命令すれば、20体以上の魔物達が争うようにアイネスのダンジョンの中へと入っていった。
「攻略部隊とリリィ達はいつも通り僕と一緒に!」
「「「「「はい!」」」」」
タケルの呼びかけに元気よく返すリリィ達。
そしてタケルはリリィ達美少女魔物達と50体もの魔物を引き連れてアイネスのダンジョンへと入っていった。
そんな彼らをベリアルとフォレスは何もすることなく見届ける。
タケル達や魔物たちがアイネスのダンジョンに入っていったため、白い空間にタケルのダンジョンを阻む者は居なくなったのだが、ベリアル達はタケルのダンジョンに足を踏み入れない。
「全く、真っ先にアイネス様を狙おうだなんて下衆の考えですね。」
「アイネスさんが自分のダンジョンに走っていくのは想像してなかったようですがね。」
「アイネス様は思慮深い御方ですからね。私達で読める魂胆でしたらアイネス様が見破っていてもおかしくありません。」
「ふふ、そうですね。」
「では、私共は暫し待ちましょうか。その時が来るまで。」
和やかに談笑しながら、ベリアルとフォレスは白い空間に佇んでいる。
そしてその数分後、ベリアル達の予想通りにアイネスのダンジョンから大きな悲鳴が上がったのだった。
##### #####
〈さぁ、始まりましたダンジョン戦争!対戦するのは人間でありながら数々のダンジョンマスターを屠って来たハプニングボーイ、タケル様と、突如として現れ、そのか弱い小動物のような見た目とは裏腹に卓越した弁論と強力な魔物を従えるカリスマ性で瞬く間に注目を浴びたクールガール、アイネス様!司会兼実況はワタクシフェスタンと!>
<バンチェットでお送りするよ~。>
<ただいまタケル様はアイネス様を追いかけ、アイネス様のダンジョンを進んでいっております!対して、アイネス様の配下二人は未だ白い空間で和やかに談笑を繰り広げている!この戦い、勝利を手にするのはどちらなのか!〉
<どっちが勝つんだろうね~?>
フェスタンの実況を聞きながら、タケルはリリィ達と共にアイネスのダンジョンの中を進んでいた。
何処からか突然魔物が襲いかかってくる事もなく、タケル達は無事に開けた空間へと到着した。
その部屋には一つの黒い扉に加え、ガラスの箱に入れられ部屋の中心に飾られている大きな壺がある。
タケル達が部屋に入れば、壺の中から声が聞こえてくる。
『やぁやぁ、よくぞいらっしゃいました!』
<あっと、ここで突然のハプニング!壺の中からタケル様方に呼びかける声が!彼はアイネス様の魔物か!>
『わたくしめの名はティアーゴ、ちょっとお喋りなしがないただの蛇でございます。突然襲いかかったりしませんので、どうか攻撃は止めてくださいね?』
<壺の中から聞こえる声の正体はなんとただの蛇を自称するティアーゴという者だった!どうやら彼はタケル様方に攻撃するつもりはないという!しかし、圧倒的に胡散臭いです!>
<そもそも、ただの蛇は喋らない。>
<そこはワタクシも気になっていましたが、敢えてスルーさせて頂きましょう!この謎の蛇との対面に、タケル様方はどう行動するのか!>
ティアーゴの登場に驚く実況席とは裏腹に、少しも動揺していないタケルとその仲間たち。
タケルは壺に向かって話しかける。
「確か君は、アイネスのダンジョンで説明役をしている蛇だったかな?君がいるということは、何か説明しなくてはいけない事でもあるのかな?」
『流石、お察しが早い。実はこのダンジョンにはルールが幾つかありまして、それについて説明をさせてもらおうかと思います。とはいっても、今回は特別なお客様をご紹介ということですので、このダンジョンも少しスペシャルな作りとなっております。なので、此方から出すルールはたった1つでございます。』
「1つか…。そのルールは一体なんなんだい?」
『そのルールとは、ダンジョン内にある設置物の破壊禁止でございます。このダンジョンには高価な物が多いですからね…。もしお客様が一つでも破壊してしまった場合、お客様にとても恐ろしい事が降り掛かる事となります!』
「恐ろしい事?」
ティアーゴが何かに怯えるような声で叫んだ言葉に、タケルは思わず聞き返してしまう。
すると、ティアーゴはタケルの問いに対し、こう答えた。
『このダンジョン戦争が終わった後、高額な弁償代が請求されます』
「急に現実的な事を言うな!!!」
スンッと突然冷静になったような声で告げられた事にタケルは思いっきりツッコミを入れた。
確かに恐ろしいといえば恐ろしいけれど、ダンジョンの序盤で言うことではない。
『わたくしめからお伝えしたいルールは以上でございます。では、ご挑戦の方をお頑張りくださいませ。』
タケル達にそう告げた後、ティアーゴは以降何も言わなくなった。
タケルはため息をつきつつも、気を取り直してあるスキルを展開する。
それは<マップ>という、自分から半径周囲1kmの範囲を地図として把握する事が出来るスキルだ。
ダンジョンや建物の中で使えば、ダンジョン内の大まかな構造を知る事が出来る。
<アイテムボックス>や<鑑定>に続き、タケルが良く使っているスキルだ。
タケルはアイネスのダンジョンの構造を確認し、攻略部隊の魔物たちに命令を出す。
「よし、扉の先はどうやら赤の扉のルートに続いているようだ。攻略部隊のA班は先に進んでくれ。」
タケルの命令を聞いた魔物20体は、すぐに扉を開いてその中へと入っていった。
その様子を眺めるタケルとリリィ達の顔には、余裕の笑みが浮かんでいた。
実はタケル達は、アイネスのダンジョンの大まかな構造を把握していた。
アイネスが提示した条件である準備期間の間に、ケネーシア王国に訪れてアイネスのダンジョンに訪れたことのある冒険者達に聞き込みで調査していたのだ。
アイネスのダンジョンは事前にルールという縛りを付けて物語のネタバレやダンジョンの構造の詳しい部分を他者に伝えることを禁じているが、それでも大まかな構造を知る分には問題はない。
それぞれのルートがどんな形になっているかを把握しておけば、ダンジョン戦争の間に<マップ>を使う事で扉の向こうに何があるか予測が付くからだ。
ティアーゴの登場に驚愕しなかったのも、この聞き込み調査で事前に彼の存在を知っていた為だったのだ。
「流石はタケル様。あちらが提示した条件の裏を掻いてあちらのダンジョンの構造を事前に把握しておくとは…。」
「あの女が出した条件だと、準備期間中に相手のダンジョンの侵略行為と魔物たちに危害を加える事の禁止だもんね!他の人から話を聞くのは禁止されてないもん!」
「あっちのダンジョンは王族との縁はあれど冒険者たちとの縁はないから、あたし達のダンジョンについての情報を集める事なんて出来ないもんね!」
「情報戦はわたくし共の勝利…。最早このダンジョン戦争、勝ったも同然ですわ」
「皆、油断しちゃだめだよ。相手は僕と同じ異世界転移者なんだ。どんな仕掛けが待っているのか分からないからね。」
既に自分たちの勝利を確信して楽しげに笑うタケルとリリィ達。
事前に情報を知っているというのは、それだけ重要な事なのだ。
しかし、そんな余裕の笑みを浮かべている彼らの中、唯一ホムラだけはある違和感を抱いていた。
その違和感が拭いきれなかったホムラは、タケルに声を掛けた
「なぁ、タケル。少し良いだろうか?」
「ん?どうしたんだい、ホムラ?」
「なにか、可笑しくはないか?」
「可笑しい?」
「ちょっとホムラ!アンタ何変なことを言ってんのよ!」
「場の空気を悪くしたのは謝罪する。けど、どう考えてもおかしいだろう!」
「二人共落ち着いて。ホムラ、何が可笑しいのか教えてくれるかい?」
口論になりそうになるアリアとホムラを宥め、タケルはホムラに尋ねた。
ホムラは困惑した表情を浮かべ、タケル達に言ったのだ。
「先程、先行部隊の者と攻略部隊の者数十体を扉の先へと進ませた。けど、先程から彼らの声はおろか、気配も感じない!いくら直線的に道が続いているとしても、あれだけの数の魔物が中に入ったのなら、何か物音ぐらいするはずだ。」
「なんだって!?」
ホムラのその言葉を聞いたタケルは、慌てて念話を使って先行部隊や攻略部隊の魔物達に呼びかけた。
しかし、誰もその呼びかけに応答する事はない。
その事実に気が付いたタケル達から余裕の笑みが剥がれる。
「誰も応答しない…。」
「ほ、本当なの、タケルくん?」
「そんな…まさか、あれだけの数の魔物が一瞬で葬られたという事ですの?」
「あ、あり得ない!彼らは僕たち程じゃないにしても十分強い魔物達だぞ!アークデビルロード級の魔物と対面でもしない限り、そんな一瞬でやられるはずがない!きっと、念話を妨害する魔法でも掛かっているんだ!」
タケルはそう言いながら、慌てて扉を開けて攻略部隊達が進んだ道を駆けていく。
直線上に続く道は明かりがなく、正面に見える扉以外にはなにもない。
タケルは焦りと動揺で頭が一杯になりながらその扉へと向かい、その先を行こうと勢いよく扉を開けて足を踏み入れた。
否、踏み入れようとした。
タケルが扉の先へと入ろうとしたその時、待っていたのは太陽の光と、踏み入れた足が空を切る浮遊感だった。
ふと下を見れば、そこに地面や床といった足場なんてものはなく、あるのは底の全く見えない崖の暗闇だったのだ。
「う、うわああああっ!」
「タケル様!!」
そのままバランスを崩して谷底に落ちそうになるタケルだったが、慌てて駆けつけたリリィが彼を後方へと引っ張った事でなんとか助かった。
突如落下しそうになり、呼吸があらくなりつつも、タケルは目の前の光景を改めてしっかり見た。
そこはタケル達が事前に調査して知っていた、赤の扉のルートの雪の降る街道なんかではなかった。
広い空間に存在する切り立った崖にダンジョンの中であるにも関わらず存在する太陽の光、そして、点々と存在している小さな足場。
「な、なんで……」
事前に聞き込みで調査していたタケルは、すぐにその景色が黄の扉ルートのものであると分かっていた。
しかし彼は、動揺を隠せずにいられなかった。
何故なら、彼が展開している<マップ>にあらわれているのは一直線に続く道。
決して崖や向こう岸が存在している広い空間なんかではないのだ。
「なんで…なんで、<マップ>で出した構造と違うんだよぉ!!」
タケルの叫び声がアイネスのダンジョン内で響き渡る。
そんな悲鳴を聞き、笑みを浮かべる魔物達がいた。
その中の一人が懐からトランシーバーを手に取ると、爪で軽く『コッ、コッ』と2回音を立てた。
その音を受信した者…アイネスは通信用のマイクを手にとって、そして口を開いたのだった。
「タゲが侵入。プロセス1開始。」
『『『御意』』』
アイネスの持っている通信機からは、三人の魔物の声が聞こえたのだった。




