利点の切れ目こそ縁の切れ目(フォレス視点)
『却下!却下!却下ぁぁぁぁぁ!』
「いや、承認しろって!なんで拒否の方を押すんだ!」
『そんな18禁になること間違いなしになりそうな血みどろヒャッハーなバトルを誰が承認すると思う?もしどうしてもやらなきゃいけないなら対決内容は料理対決にするね。2対2でそれぞれの自慢の料理を作って審査員からより多く評価を貰ったほうが勝ちで。私はベリアルさんとやるんで、そっちは誰か女子一人選んで。』
「ああ、それは素晴らしい提案ですね。審査員は平等をきしてディオーソスさんや此処の招待客の誰かに致しましょうか?まあ勝敗は分かりきっていますが。」
「誰がするか!良いから承認しろよ!話が進まないだろう?!」
『残念、既に通行止めだよ!』
「上手いことを言ったつもりかい?!良いから戦え!」
『お断りする。』
「あああああもう!」
タケルというアイネスさんと同じ人族のダンジョンマスターがダンジョン間で行う“ダンジョン戦争”を挑んできた。
ダンジョン戦争で勝てば勝者は敗者に3つの願いを命じる事が出来る。
そんな争いの挑戦状をアイネスさんはまるで埃を手で払うかのようにあっさりと拒否した。
それに対しタケルさんはアイネスさんに理由を問いかけた。
その問い掛けに対し、アイネス様はこう答えました。
『ルールが全然分からないバトルに無闇に挑んで下手に裏技を使われたら一気に勝率が変わるから面倒。そのバトルをしている間は当然経営がストップになるだろうからその間に得られるDP機会が無くなるし、自腹のDPでそのバトルの為だけに消費するのもただの無駄遣いにしか感じない。それに此方はそっちに要求したい物は特に思いつかない…というかそっちが勝った時の要求があり得なさすぎ。それどう考えても自分が勝つって思ってて要求してるよね?ダンジョン経営してまだ2ヶ月も経ってないダンジョンに本気で潰しに来ようとしてるとかクズなの?それとも自分より弱い相手にマウント取りたい荒らしなの?私はさっきも言った通り、アンタと違って只管目立ちたいとか活躍したいって思ってない訳。そんなハイリスクローリターンなバトルを受けるほど大きな実績を残したいとか思ってないの。特に強制されてる訳でもないんだから圧倒的却下案件でしかないでしょこんなの。』
とても早口でしたが、アイネスさんのサポートスキルの通訳のお陰でなんとか理解する事ができた。
確かにこう言われてみると、わたし達が彼の宣戦布告を受け入れても特に良いことはなさそうだ。
他の招待客の皆さんも同じことを思ったようで、アイネスさんの言葉に大きく頷いていた。
やはり皆さん、思うことは同じなのですね。
それでもタケルさんという青年はどうしてもアイネスさんとダンジョン戦争をしたいのか、何度も何度も宣戦布告をしました。
それに対し、アイネスさんも自らの意志を変えずに承認画面が出る度に拒否します。
ベリアルさんは特に止めるでもなく、むしろアイネス様に便乗するようにタケルさんを煽っている。
そういうわたしも、何も言わずにアイネスさんの攻防を見守っていた。
これがイグニレウスさんやベリアルさんだったらわたしも仲裁に入るけれど、アイネスさんは彼らとは違い、怒っている時もどこか冷静さがあるし、わたしもタケルさんとその仲間たちの酷い言動には少し腹を立てていた。
なのでここは、黙ってアイネスさんの様子を見守っていた。
下手に止めてしまっても、アイネスさんの邪魔になるだけだ。
……というより、激高しているタケルさんという青年に対するアイネスさんの反論の仕方がちょっと愉快なんですよね。
少し気を抜いてしまうと思わず吹き出してしまいそうだ。
周囲にいる他のダンジョンマスター達も同じなようで、何人か口に手を抑えて必死に笑いを堪えている。
普段アイネスさんとは言葉が通じないのでこういった事になるとは思わなかった。
ベリアルさんもベリアルさんで絶妙に合いの手を入れて来ますし…あれは多分確信犯でしょう。
「いい加減にするんだ!良いか、“ダンジョン戦争”はダンジョンマスター達が自分の強さや配下の魔物たちの結束を証明する神聖な戦いでもあるから、挑戦を挑まれたらそのダンジョンマスターは拒否する事はあまり良くないんだよ!」
「おや、そうなのですか?」
「ああそうだ。アイネス、君がいう所のマナー違反という奴だ!マナーは護るべきなんだろう?どうなんだ、アイネス!」
『…すみません、今ちょっと突発的に難聴になりまして何も聞いていませんでした。なんか言いました?』
「って、おい!知らない振りで押し通そうとするな!良いか、ダンジョン戦争は、拒否したらマナー違反なんだよ!」
『あれー、おかしいな?さっきから声が聞こえるけれど全然何言っているのか分かりたくない。』
「分かりたくないって言ったな!?今さり気なく分かりたくないって言ったな!?本当は全部分かってるんだろう?!そもそも、僕の言葉は君に分かるはずだろ?!」
『いやー、最近の異世界言語スキルって欠陥があるんですね。早く修正して欲しいものです』
「発する言葉が全て羽虫の飛ぶ音になる欠陥でしょうかね?すぐ目の前に羽虫がいますし。私も彼が何を言っているのか突然分からなくなりました。」
「ぎゃうー?」
「それは絶対嘘だ?!さっき自分で『知りませんでした』って返答してるのを聞いたぞ!」
『オー、アナータ、チョットナニイッテルノカワカラナーイ。』
「ぶふっ。」
「ふざけるなぁぁぁ!!!」
アイネスさんの突然の片言喋りに思わず耐えきれなくなってしまった。
タケルさんが真剣に怒っているのが、逆に可笑しくて可笑しくてつい…。
よく見れば、今ので笑いが堪えられなくなっている方が何人もいた。
ディオーソスさんなんて、堂々と腹を抱えて爆笑している。
あんなに堂々と笑えたら良いんですがね…。
「アッハッハッハッハ!いやぁ、実に愉快じゃ。これほど笑ったのは何十年ぶりかのう。」
まともに相手をする気のないアイネスさんと、無理矢理にでもダンジョン戦争をしたいタケルさん。
そんな二人の会話に対して笑い声を上げて、近づいてくる者がいた。
それは、アイネスさんがグレーターワーウルフ達に話しかける前に雑談を交わしていた天狐族の女性ダンジョンマスターだった。
彼女はアイネスさんの方へと歩いていくと、ニコニコと微笑みを浮かべながら口を開いた。
「アイネス、お主は本当に頭の回る子じゃ。己の欠点を逆手にとって無知を演じるとは。実に愉快な見ものじゃった。」
『あ、ミルフィーさん。お騒がせしてすみません。』
「構わぬ構わぬ。最近の宴はこれといったハプニングがなくて飽いていた所じゃったからな。ところで先程言うていた料理対決とやら、やるならわっちが審査員とやらをしても良いぞ。どうじゃ?今からやるかえ?」
『あー…、コレ多分さっき言った料理対決のこと言われてる…。料理対決するには良いですけど、食材と調理場がないとちょっと難しいですね…。』
「ふむ、食材か…。確かにここの宴の料理をアレンジするだけではちとつまらんからのぉ。」
『また次回お会いする時があれば、その時に何かミルフィーさんが気に入りそうなご飯をお渡ししますよ。いなり寿司とか。』
「『イナリズシ』とは、料理の名前かえ?それじゃったら、お主の言う通りにしようかのぉ。」
クスクスと妖艶な笑みを浮かべてアイネスさんと楽しげに会話をする、天狐の女性。
わたし達は通訳のお陰で一時的にアイネス様の言葉が分かるけれど、此方の言葉はアイネス様は分からないはずなのに、とても流暢な会話だ。
妙なことに、彼女がわたし達の前に現れると、周囲の招待客達が一斉に沈黙した。
あれほどざわついていたはずなのに何故?と思っていると、タケルさんが信じられないという表情で口を開いた。
「あ、アイネス…、君、いつの間にミルフィオーネさんとそんなに親しくなったんだい?」
『え、つい先程ですが?』
「嘘だ!だってその人は、ダンジョンマスターの中でも最大のダンジョンを持つトップレベルのダンジョンマスターなんだぞ!何かしない限り、そんなに仲良くなれる訳ないだろう!」
「「トップレベルのダンジョンマスター?」」
『ああ…道理でなんか最強そうなオーラ放ってると思ったら…。』
「ククク、確かに巷ではそう呼ばれていたりもしているのぉ。」
まるで悪戯に成功したかのように笑い声を上げるミルフィオーネさんと呼ばれた女性。
アイネス様と仲良く会話していると思っていたけれど、まさかそんな大物のダンジョンマスターだとは思わなかった。
「強大な力を持つ魔物を数体連れた小柄なダンジョンマスターがおったからついつい気になってみていたのじゃが、面白い食べ方をしていたのでちぃと話しかけたまでよ。それより前に会ったことはないぞ、小童よ。」
「おや、アイネス様がダンジョンマスターだといつお気づきで?」
「最初からじゃ。確かにそなた達に比べてアイネスは貧弱に見えるが、身の安全のために守護精霊を連れている上に、そなた達がちらちらとアイネスの様子を確認しておるからのぉ。流石に気づくわい。」
「そうでしたか。少々分かりやすかったですかね?」
「いやいや、それ以外はほぼ立場が逆転して見えておったぞ?特にアイネスは周囲に紛れ込むのが上手かったからなぁ。」
そこまで見ている自覚は無かったですが、まさか気づかれる程とは…。
アイネスさんが何かないか心配で、つい何度も様子を見てしまっていました。
次からは気をつけませんとね。
「さて小童よ。そなた、今日は随分と派手に暴れたようじゃのぉ。」
「い、いや、だってそれはアイネスが…!」
「つまらん言い訳はやめぃ。わっちは小童らが何をしていたか一部始終見ておったわ。小童は偶に興味深い事を零すからわっちもディオーソスもそなた達がなにをしようが黙っておったが、もうそれも、終いじゃろうなぁ。のぉ、ディオーソスよ」
「エ~キザクトリー!その通りだな、ミス・ミルフィオーネよ!」
ミルフィオーネさんの呼びかけに、すぐに姿を現したディオーソスさん。
彼らは笑っているが、タケルさんを見る目は何処か冷めている。
「な、なんで…!?今まで、色々やったじゃないか!僕の知っている知識だって教えたし…!」
「その通り!確かにユーは面白い料理のレシピや道具の設計図などを伝えてくれて、パーティーに一波乱を起こしていた!だからこそ、今までこのパーティーへの参加を許していたのだ!」
「じゃが、ただそれだけじゃ。わっちらは特にそなたにそうするよう頼んだわけでも、そうするように誘導したわけでもない。小童が勝手にしていたことよ。そなたからは気になる情報はもう殆ど聞いたからのぉ。あとは適当に放置しておっただけじゃ」
「そ、そんな……。」
「ユーがもっと礼儀の良い客であれば、今回もワタシ共は何もしなかった!しかーし!ユーのマナーははっきり言ってベリベリバッッッッッ!今回の事で流石にワタシも動くしかない!」
「確かにアイネスは小童と違って言葉が通じない。しかし、そなたと違って派手な立ち回りで周囲に迷惑を掛けることはせんかった。わっちのお願いにも快く了承し、そなたに反撃する時でさえわっちとディオーソスに確認を取った。まあ、あれほど強烈な一撃を加えるとは予想外じゃったがな。見ていて爽快じゃったが。」
「そういうわけだハプニングボーイ、タケル!今回を持ってユーのパーティーへの参加はなしにさせてもらう!」
「な…し…。」
ディオーソスさんの言葉を聞いたタケルさんは、そのまま意気消沈してしまった。
残念だけど、同情の余地はない。
アイネスさんの言う通り、彼は自分の無知を自覚せず、好きに動きすぎたのだ。
その結果が、今になって降り掛かった。ただそれだけの事だ。
アイネスさんも彼に同情や情けの言葉を向ける事はなかった。
そんな彼は、身体を震わせた後、思い通りに行かなかった子供のように、アイネスさんに怒鳴り始めた。
「君のせいだ…!君がいなかったら、こんなことにはならなかったんだ!」
『ここに来て責任転嫁?ミルフィーさんとディオーソスさんが何を言ったかは詳しくは分からないけど、別に私がいなくても遅かれ早かれこういう運命を辿っていたと思うよ。』
「黙れ!良いから、僕とダンジョン戦争をするんだ!そしたらきっと、元通りになるはずなんだ!」
『いやしつこいな…。別に私とダンジョン戦争とやらをしても、もう元の通りになることはないよ。前の世界にもこんな童謡があったでしょ?「ハンプティダンプティ、塀に落っこちた。王様の馬や家来でもハンプティを元に戻せない」って。落ちて割れてしまった卵を元に戻せないのと同じように、やらかしたことをなかったことにはならないんですよ。』
「煩い煩い!早く承認ボタンを押すんだ!!」
冷静にタケルさんに正論を告げるアイネスさんだったが、タケルさんは既にアイネスさんの言葉に耳を傾ける気はないのか、ひたすら戦争をしろ、戦えと喚くばかりだった。
手に負えないと判断したのか、肩を竦めるアイネスさん。
そんな姿を見ていたミルフィーさんが何かを思ったのか、アイネスさんにある提案をした。
「アイネスよ。この小童とのダンジョン戦争、受けてみたらどうだ?」
『え、承認しろってことですか?』
「…正気ですか?」
「わっちは正気よ。そなたらとて、この小童の所業には腹を据えかねているじゃろう?」
「それはそうですが…」
「例えこの場で拒否していても此奴は諦めずにアイネスに執着するはずじゃ。むしろ後日、アイネスのダンジョンに来て好き勝手に暴れるやもしれぬ。この場で芽を摘んでおくべきじゃろう。」
「…なるほど、一理ありますね。」
「じゃろう?」
黒い笑みを浮かべるミルフィオーネさんとベリアルさん。
アイネスさんにされた事に一番腹を立てていたベリアルさんはその言葉で乗り気になった。
それに対し、アイネスさんはまだ難しそうな顔をしている。
『承認するにしてもルールはあまり分からないし、DPとか此方が勝って良いことがないですからね…』
「それじゃったら、わっちが今回のダンジョン戦争で使用するDPを援助してやろう。使わなかったDPはそのまま自分の物としても構わんし、なんだったら勝者の賞品として良い物を贈与してやろう。先程の『クッキー』とやらの礼じゃ。」
「ミス・ミルフィオーネがDPの支援をするのだったらそのダンジョン戦争の仲介人はこのワタシ、ディオーソスが受け持ってやろう!どちらか一方が不公平なルールがないよう、公平なジャッジメントを行うと誓おう!」
「これで、アイネスが気になっておったデメリットは大方潰せたじゃろう?詳しいルールは<オペレーター>に聞けば分かるじゃろうし、わっちらが見届人になることで、小童が狡賢い方法を使うことも防ぐ事が出来る。少しはやる気にもなるはずじゃ。」
ミルフィオーネさんとディオーソスさんの言葉を、ベリアルさんがアイネスさんに伝える。
アイネスさんはそれを聞いた後、何か考え込んだ後、二人に向けてこう言った。
『ベリアルさん達がどうするかは分かりませんが、私は負けたとしても別の方のダンジョンに行く気はないですからね?精々お礼にお酒とか食べ物ぐらいしか渡せませんよ?』
「む、此方の意図まで読んできたか。そこの小童が万が一アイネスに勝った時はアイネスを引き抜こうとしたのじゃが…。まあ、今回は酒と食べ物だけで構わんぞ」
なるほど、二人はアイネスさんが負けてしまった時に自分のダンジョンに引き込もうと考えて援助や仲介人の申し出をしたのですね。
確かにそうでもしないと、この場の仲介を受け持つメリットがないですからね。
「で、受けるのか?受けないのか?!」
『うーん…。ミルフィーさん達が援助とか審判とかやってくれるなら、別に受けても良いけど…』
「おお!じゃあ早速…。」
『ただし、条件が二つほど。これを受け入れないのであれば私は承認しないよ。』
「何でも良い!その条件というのは何なんだ!」
『一つはダンジョン戦争を始めるのは今日から一週間後にすること。それまでは双方の準備期間として、お互い相手のダンジョンの侵略行為や魔物たちに危害を加えることを一切禁じる。此方も他の皆に情報伝達とかしないと行けないし、そちら用に色々と準備が必要だからね。』
「良いだろう…。もう一つは?」
『もう一つは、準備期間、そしてダンジョン戦争共にダンジョンマスターの殺害を禁じること。命あっての物種って言うし、こうやってルールを設定しないと、どっちも力加減を間違えて事故とか起きそうだもの。「殺っちゃったぜ☆」って軽く言えないように、もしもどっちかのダンジョンマスターが殺された場合は、殺したダンジョンマスターもダンジョンマスター権限を剥奪、殺しに関わった魔物達も今後人に危害を加えることがないように討伐するという形にしよう。』
確かに、今からダンジョン戦争をしようと言ってもこの場にいないイグニレウスさん達は何の状況も分からないので混乱する。
ダンジョンマスターの殺害の禁止も、お互いのダンジョンマスターに殺気を向けているベリアルさんやタケルさんの連れの女性達を見ていると、事故と見せかけて殺害を試みようとする可能性が高そうだ。
どちらも合理的な条件だった。
「良いだろう。その両方の条件を飲むよ。それで、君が勝った時に僕たちに要求するものは?」
『それ、別に今言わなくていいよね?今更止めると言われても困るし、この場で言う気はないよ。』
「…っ、ああそうかい!じゃあ、7日後と今と同じ時間に、ダンジョン戦争の申し込みをする!それまで待ってろよ!」
『はいはい。じゃあ7日後に。』
タケルさんはそう言うと、連れの女性達とグレーターワーウルフ達を連れてパーティー会場を後にした。
7日後に決まったダンジョン同士の争い…。
アイネスさんだったらきっと彼らに勝つ良い戦略があるのだろうけど、タケルさん達が何をしてくるかが少し不安だ。
ふとアイネスさんの方を見てみれば、そこでわたしはある異変に気が付いた。
アイネスさんの顔が、妙に赤いのだ。
「あ、アイネスさん?『ソノ、カオ、ドウシタ?』」
『異世界転移者なら特典として必ず<鑑定>と<アイテムボックス>を持ってるはずだから、さっきのやり取りでベリアルとフォレスのステータスは全部あっちにバレた。マリアとイグニの存在はバレていないと思うから、ダンジョン戦争ではこの二人の立ち位置が重要になってくる…。あのタケル青年が持っているので把握しているスキルは<鑑定>と<アイテムボックス>と<造形>と<誘惑>。<誘惑>はアラクネ三姉妹やシルキーズには有効だろうから、そっちの対処もしないと…』
「あ、アイネス様?」
『ダンジョンコアの位置も一時的に移動させたほうが良いな。相手はパワーレベリングによるものとはいえレベル100超えで配下の魔物が最低でも50体…いや100体以上はいるはずだ。だから数の力押しで最深部にまで向かう可能性がある。構成とかもしっかり考えないと。出来れば序盤当たりにあの美少女たち数人を戦闘不能にまで削っておきたい。彼女たちが引っかかりそうな罠と言えばあれとそれと…』
此方の呼びかけにも反応せず、今後の戦略を練りながらブツブツ呟いているアイネスさん。
その顔は赤く、妙にふらついているし、目も何処かトロンとしている。
まさか、わたしの<精霊結界>を超えて精神攻撃スキルが当たったのか?
と思っていると、ふとアイネスさんのサポートスキルからの声が聞こえた。
『推奨。ダンジョンマスターアイネスの即急な介抱を推奨します』
「え?」
『というかさっき、ついくちにだしちゃったけど『だがことわる』のつかいどころまちがえてたな…。いちどはいってみたいことばだったからおもわず…。いや、つかいどころまちがえてない?まちがってる?あれ、どっち?あとでほんもとをちぇっくしてかくにんをK*y2c1#@~…』
「「アイネス様!?」」
「ぎゃうぎゃう!?」
呂律の回らない喋りでブツブツと呟いた後、最後は意味のない言葉の羅列を呟きながら、後方に倒れ込んだのだ。
咄嗟にベリアルさんと一緒に支えたので頭から床に倒れ伏す事は無かったけれど、アイネスさんはそのまま眠りについてしまった。
そこで、ミチュさんとマリアさんとグライドさんがアイネスさんの元に駆け寄った。
ミチュさんはアイネスさんの様子をじっと見た後、ホッと安堵の表情を浮かべた。
「安心しなさい。ただ酔いが回って眠っちゃっただけよ。」
「よ、良かった~。心配したよ~!」
「ぎゃう~!」
「そういえば、アイネスはあの小童からエールを飲むように言われて口にしたり、エールを身体にぶっ掛けられておったからな…。先程の騒動で小童ほどあからさまで無かったにしろかなり興奮しとったようじゃし、彼奴らが去って力が抜けたせいで急に酔いが回ったのじゃろう。」
「むしろ、あの騒動の最中に倒れなかった事を良くやったと言えよう。あの場で小娘が倒れていたら、また更に波乱を呼んでいただろうからな。」
「ディオーソスさん、アイネス様を何処か寝かせられる場所はありますか?」
「ふむ、だったら客室を使いたまえ!そこであればクールガールアイネスも横になれるだろう!」
「畏まりました。失礼しますね、アイネス様。」
「##…」
ベリアルさんがアイネスさんを横抱きにして、ディオーソスさんの案内のもと、慎重に眠っているアイネスさんを運んでいった。
残されたのは私とマリアさん、それに他の招待客のダンジョンマスター達とその配下だけだった。
アイネスさんとベリアルさんの姿が見えなくなると、ミチュさんが最初に口を開いた。
「それにしても、まさかアイネスちゃんがダンジョンマスターだったとは驚いたわ~。」
「アイネスさんは言葉による意思疎通が取れない上、その種族から周囲に何か言われる可能性を考えて、自ら身分を隠していたんです。何も伝えず、申し訳ありませんでした。」
「いや、そういう理由だったら致し方なかろう。あの小娘の見た目は他者から貧弱だと思われる。まあ、その実態は違っていたようだがな。」
「ほんと、あの時のアイネスちゃんの蹴りは凄まじかったわ~!蹴りをくらったタケルがその場で崩れ落ちるくらいだもの!」
「それに小娘の弁論も実に見事だった。膨張も虚言もない正論であの問題児を追い詰めるその姿は実に爽快だった。ダンジョン戦争の宣戦布告を拒絶した時も、本来はああいった行動は叱咤に値するのだが、言葉の壁を利用するのは実に良い対処だったと我も思う。」
グライドさんもミチュさんも、他の招待客の皆さんも、アイネスさんを褒め称える。
自分の主がこう他の方にも認められると、此方も嬉しい気分になりますね。
アイネスさんにこの称賛が届いていないのがなんとも寂しい事です。
アイネスさんが再び目を覚ましたその時、この事をお伝えしましょう。
そして、7日後に行われるダンジョン戦争ではアイネスさんがより称賛の言葉を貰えるようにベリアルさん達と一緒に力の限りを尽くしましょう。




