なんか異世界定番の騎士っぽい人キター!
アーシラ姐さんに連絡を受け、私とベリアルとイグニ、それにワイト3体は魔物専用通路を使って黄の扉ルートの一つにある崖の下…失格者スペースに駆けつけた。
本来はスライムたちが気絶してしまった冒険者達を運ぶ為に向かうために作ったものだった。
私はアーシラ姐さんが何を見たのか分からないけど、アーシラ姐さんの慌てっぷりとにかくヤバいものであるのは間違いなかった。
懐中電灯で中を照らして辺りを調べてみると、そこにいたのは、なんと鉄の鎧を身にまとった騎士っぽい姿の大人三人だった。
金髪のポニーテールの女性はただ気絶していただけだったけど、アラサー後半くらいの大柄で男性と若めの細身の男性は背中に大怪我をしているのだ。
大量の血なんて間近で見たことがない私にも分かるくらいの重傷だった。
「ヤバいヤバいヤバい!警察?いや、重傷者がいるから救急車?というかその前に応急処置!」
殺す気はないと宣言しているこのダンジョンで見るからに殺されたと分かる死体があるのは駄目だ。
それに私はダンジョンマスターをしてはいるけれど、大量出血なんて見たことなんてなかったし、ましてや人死になんて見たくない。
私が<ネットショッピング>で担架を購入している間、私の考えを察してくれたらしいベリアルはスキル<回復魔法>を使って重傷者二人を治療していた。
男性騎士二人を担架に乗せ、ワイト達とイグニとゴブ郎に慎重に居住スペースの方へと運んでもらう。
ただ気絶しているだけの女性騎士の方はベリアルが背負って運んでくれた。回復魔法を使ったまま、女性騎士を運ぶ姿はイケメンそのもの…ってそんな冗談を言っている場合ではない。
私は怪我をした魔物達用に設置していた医務室へと誘導し、三人の騎士たちをベッドの上に寝かせるように伝えた。
ベリアルの治療魔法のお陰で重傷者二人の傷は塞がり、先程までは真っ白すぎるほど顔色の悪かったのが嘘のように良くなっていた。
後で起きた時に暴れられると困るので、私はおぼつかない手つきで三人の着ている鎧と腰に装備している剣を外した。剣はずっしりと重く、本物の剣であることが良く分かった。
医務室の扉に魔物立ち入り禁止のボードを設置して人型の家妖精であるシシリーに彼らが起きたら伝えてもらうように頼んだ。
念の為イグニには医務室前に待機してもらい、私とベリアルとゴブ郎はモニターのある部屋に向かい、事情を聞くためにアーシラ姐さんを居住スペースへと呼んだ。
アーシラ姐さんからのイラスト説明によると、先程アーシラ姐さんが担当をしている黄の扉ルートに今医務室で眠っている三人の騎士と、同じ鎧を着た複数の騎士たちが来たようだ。
アーシラ姐さんはストーリーを始めさせるためにトランシーバーでモニタールームのスケルトン達に連絡しようとしたが、突然一人の騎士が女騎士を崖から突き落としたらしい。
女騎士を突き落としたのを見た両脇にいた大柄の男性騎士と細身の男性騎士が咄嗟に振り返って剣を抜いて反撃しようとしたけど、その前に他の騎士が彼らを切り捨てたのだ。
重傷を負った男性騎士二人はそのまま崖に落ちて、三人の騎士達を攻撃した他の騎士はそのまま入り口の扉からダンジョンを出ていったとのこと。
ちょっと、最初のルールで後戻りするなって言ったでしょ。ルール違反するな。
ルール違反者ということは他の冒険者達が何か言うんじゃないかと思ったけど、モニターを見たら午前には沢山いたはずの冒険者達の姿がなかった。
そこで入り口の看板付近の方の映像に切り替えた。
<カスタム>はダンジョンの中しか映像を映す事は出来ないけど、リフォーム時に出入り口周辺もダンジョンの一部として拡張したのだ。
本当は別の目論見があったためだったのだけど、まさかこんな形で役に立つとは思わなかった。
映像が切り替わると、三人の騎士達が持っていたような鎧と剣を装備した騎士風の人達が何人か見えた。
その姿を見たアーシラ姐さんが彼らを指差して、首を縦に頷いた。彼らが三人の騎士を攻撃した奴らのようだ。
恐らく彼らが後から冒険者たちを追い返したんだろう。
そのお陰で今日はDPが赤字になりそうだ、どうしてくれる。
モニターに映る騎士たちの鎧には同じ紋章が掘られていて、その所作はどこか上品くさい。
恐らく傭兵とか冒険者じゃなくて貴族や王族に仕えている騎士かなんかだろう。
ダンジョンで死んだ生物の死体は一定時間でダンジョンに吸収されるらしいし、証拠隠滅のために三人を崖から突き落としたんだ。
黄の扉ルートに崖がある事は冒険者たちの噂から知っていたけれど、その崖下に安全保護マットが敷き詰められているのは知らなかったんだろう。
入り口にいた騎士たちは数人を入り口に残してそのままダンジョンを去っていった。
三人の騎士達を突き落とした後もダンジョン前で待機している理由が分からない。
誰かを待っているのだろうか?もしそうなら、それは彼らに三人の騎士達の殺害を依頼した黒幕かなにかだろうか?
なんにせよ、このダンジョンに殺人の濡れ衣を着せようとするのは気に入らない。
彼らがダンジョンの中にやって来たらどうしてくれようか?
「アイネス**。」
そんな事を思っていると、シシリーがモニタールームにやって来た。
どうやら、三人の騎士達が目を覚ましたようだ。
早速私はベリアルとゴブ郎と一緒に医務室へ向かった。一応差し入れに人数分のクッキーと、紅茶をコップに淹れて持っていく。
医務室に入る前にベリアルとイグニには外で待機してもらうように頼んだ。
ベリアルはそれに対して首を横に振って反対した。多分、私が彼らに攻撃されないか身を案じてくれたのだろう。
しかし医務室にベリアル達が入ると彼らが自然に放つ威圧のせいで騎士たちが恐慌状態に陥る可能性がある。
ベリアル達には彼らが落ち着くまで外で待っていてもらわなければならない。
「困ったなぁ…」
「アイネス。」
「ん?どうしたの、イグニさん。」
「ベリアル、イグニ、ココ。アイネス、ゴブロー、アッチ。イグニ、アト、アッチ。イイ?」
絵かるたや日本語の勉強で必死に覚えた日本語を使って片言まじりに喋り、指を差して真剣な表情で意思を伝えようとするイグニ。
どうやらベリアルとイグニを外に待機させて私とゴブ郎が医務室に入り、話の展開次第で後からイグニが入るのはどうだ?と聞いているようだ。
私とゴブ郎が入って三人の様子がどうなるかを伺い、敵意を見せたり話が進まないようなら最強ツートップの一人であるイグニが仲介に入って三人が私に攻撃を仕掛けないようにする事が狙いなのだろう。
イグニは普段他の魔物たちとの交流で威圧を幾らか抑えるようになった。相手がドラゴンというのだったら、医務室にいる騎士たちも手ぶらの状態で挑む事はないだろう。
ベリアルは自分だけ中に入る事が出来ない事に不満そうだったが、イグニに幾つか告げられると、すんなりと黙って頷いてみせた。
どうやらイグニの案を飲むようだ。
私もイグニの提案を飲み、頷いた。
イグニは私の頭を撫でると、そのまますぐに手を離した。
私はホワイトボードとマーカーを片手に、ゴブ郎と通訳係のシシリーを連れて医務室の扉を開ける。
武器も鎧がないとはいえ相手は騎士だ。能力値=村人の平均能力値な私に適う相手ではない。気を抜かないでおこう。
医務室に入ると、ベッドの上にいた三人の騎士達が此方を一斉に見た。
どうやら私は無事に人だと認識されたようだけど、後ろから付いてきたゴブ郎を見て女性騎士と細身の男性騎士が身構えた。
それを大柄な男性騎士が片手で制し、警戒を解くように促した。
大柄な男性騎士は彼らの上司らしく、女性騎士と細身の男性騎士は渋々警戒を解いた。
彼らが警戒を解いた所で、私は彼らにお茶とクッキーを差し出した。
「紅茶とクッキーです。良かったらどうぞ。」
「*、*****?」
「***、*****…?」
「毒は入ってませんよ、ほら。」
私は自分用に用意した紅茶を彼らの前で一口飲んで見せて、クッキーの一つをゴブ郎に渡す。
ゴブ郎は何の警戒もなくそれを食べて見せて、毒が入ってない事を証明してみせる。
それでも女性騎士は疑っていたようだけど、大柄な男性騎士と細身の男性騎士は私達が食した姿を見て素直にクッキーと紅茶を口にした。
どうやら毒がないと信用してくれたようだ
「***!?******?!」
「***…、*******…。」
「気に入ってくれたようでなによりです」
傍から見ても分かるくらい驚きを見せる男性騎士達に一礼する。
それを見ていた女性騎士も気になったのか、恐る恐るクッキーに手を伸ばして口にした。
すると、途端に目を丸くして顔を綻ばせる女性騎士。気に入ったようだ。
「私、アイネスって言います。」
「アイネス?」
「はい、アイネスです」
「アイネス。*****。」
「貴方の名前を聞いても?」
「**、アルベルト・デーベライナー。*******************。」
「アリュヴェ……なんですか?」
「ア、ル、ベ、ル、ト、デーベ、ライナー」
「アルベルト……。なるほど、アルベルト・デーベライナー、さんですね」
「***。アルベルト、******。」
名前を復唱して確認すると、大柄な男性騎士…アルベルトさんは頷いてみせた。
起きたばかりだというのに、私が言葉を通じないのを瞬時に察して指差しをしてゆっくり目に話してくれるとは凄い鋭い人だ。
「***、シャロディ・バルトホルム。シャロディ*****。」
「シャロディ・バルトホルムさん、ですね。シャロディさんって呼べばいいんですかね?」
「***。******。」
続いて自己紹介をしてくれたのは、騎士らしく胸に手を当てて頭を下げる女性騎士…シャロディさん。
女性騎士なんて実際に見るなんて思わなかった。後で写真撮影させてもらえないかな?
「***デリック・ドナルド、****。デリック*****。」
「ブフォッ」
「!?」
「し、失礼しました。デリックさんですね。よろしくおねがいします。」
最後に自己紹介をしたのは細身の男性騎士だったけど、私はその名前に思わず吹き出してしまった。
地球人なら私が吹き出した理由は分かるだろう…。察して欲しい…
果たして某白いアヒルの方を指しているのか、某有名バーガー店のマスコットを指しているのかは分からないけれど、ここで不意打ちが来るとは思わなかった。
デリックさん達はこのネタが分からないから首を傾げている。
今すぐここに地球人を呼んで欲しい。この際リア充チームの誰かでも構わない。
このなんとも言えない気持ちを共有したい。
「シシリー、通訳出来そう?」
「ハイ、アイネス**。」
「ん。良い返事」
私の問いかけに対しニッコリと頷いて見せたシシリー。
シシリーとルーシーは料理の勉強の為にイグニと一緒に日本語の勉強をしているため、イグニの次に翻訳力がある。
私はアルベルトさん達と向き合った。
この三人は明らかになんらかのトラブルの種を持っているに違いない。
私はただでさえ人とのコミュニケーションが嫌なのに、大人の…しかも、言語が違う人相手にだなんてゴブ郎がいなかったら即引きこもっている。
避けて通れるようならそうしたいけれど、生憎そうは行かなさそうだ。
それに勝手にダンジョンの中を荒らされて濡れ衣を着せられかけたのに「面倒なんでパスします。はい、さよなら」で済ませるのはなんだか癪に障る。
早速、事情聴取を始めよう。




